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「湊が悪いんじゃないよ」
疲れ果てて、何も出来なくなった私に、その子はそう言ってくれた。今から考えると、何で?とは思う。
──第一志望の大学に入学出来て浮かれていた。沢山の部活や、サークルの勧誘。そのうちの1つ、熱心に勧誘してくれた元々大好きなクリエイティブ系のサークルに入った。そこで知り合った男子の先輩、斎藤さんは、親切に大学の事を色々なことを教えてくれた。
この教授の授業は出なくても大丈夫、とか。単位が取りやすい、とか。もて余す程ある時間を如何に遊びに使うか、高校とは違う、大人の自由さ。
色んな遊びも教えて貰った。遊ぶくらいのお金はバイトで稼げたし、車を持ってる人もいる。
いつの間にかサークルで過ごす時間が長くなっていた。1つ2つしか変わらない年の先輩が妙に大人に見えて、何だか、こそばいような感覚。
そこに、やられたのだと思う。高校みたいに、“先輩”って呼ばず男の子でも“さん”の敬称で呼ぶ。
『湊ちゃんて、彼氏いるの?』そう聞かれたときに、聞き返せば良かった。
“斉藤さん、彼女は?”なぜ聞かなかったのだろう。
「いません」
「そうなんだ! じゃあさ、今度、誘ってもいい? ……2人で」
誘われるままに頷く。ドキドキして、正直浮かれた。
――後日、彼の運転する車でドライブに出かけた。帰り際、車の中でキスされた。
「好きに……なっちゃったかも。俺」
彼のそんな言葉にますます浮かれた。彼氏が出来る。そう思っていた。
それから間もなく、サークルの買い出しを手伝って欲しいと他の男の先輩、大淵さんに声を掛けられ快諾した時の事だった。待ち合わせ場所に行くと、他のメンバーはおらず私だけだった。
「ごめん、口実だったんだ。俺、湊ちゃんのこと、気になってて……」
そう言うと、彼は私の手を取った。慌てて手を引っ込めたけど、それを誰かに見られていたと、後で知った。
「ごめんなさい。私……斉藤さんが……」
そこまで言うと、信じられない言葉が彼から出た。
「斉藤? アイツ、彼女いるよ。サークルの恵子」
……え?彼女?しかも……恵子さん?恵子さんは、サークルの中心的な人だった。
私……斎藤さんにキス……された。目の前が真っ暗になった。どうしていいか分からない。斉藤さんは、サークル内で二股を?私は浮気相手って事?
思い返せば、これが最初だった。私の一番になれない……恋は。
それを聞いてからサークルに顔を出せないでいた。今まで通り、いや、それ以上に斉藤さんからは連絡がある。メッセージに返信もしなかったし、電話も出なかった。私が引いた事によって、斉藤さんはますます私に執着したのかもしれない。
バイトが終わって、家に帰ると、そこに斎藤さんがいた。以前、家まで送って貰った事を後悔した。
「何で無視すんの? 」
彼の目には、怒りと、絶望。疲れた顔をしていた。
「ごめんなさい、私……彼女がいるって知らなくて」
「恵子とは別れる」
「そこまでの気持ちが、私にはありません」
そう言うと、彼は
「俺は諦めないから」
そう言った。
怖い。その目に、怖いと思った。家も知られてしまったし……だけど、不安に反し彼はそのまま帰って行った。正直、心底ホッとした。
──翌日
大学へ行くと、恵子さんに待ち伏せされていた。
「……恵子さん……」
「何の話か、分かるよね? 」
「ごめんなさい、私……知らなくて」
「誰が信じると思う? 私と彼の関係なんて誰でも知ってるけど? ……それに、あんた他の男と二股かけてるよね? 」
「はい? 」
「大淵くんと、手つないでたの見たんだから」
「……それは……誤解……」
「ビッチ! 」
まるで安っぽい海外ドラマみたいなセリフを吐かれ、そこから数時間罵倒された。そんな日が何日も続いた。
「サークルは辞めます」
そう言ったけれど、
「元々入れてないわよ、あんたなんて。斉藤くんは騙されてるのよ。大して美人でもないのに、どこにそんな自信があるわけ? どうせ大学デビューでしょ? 男ばっかり漁ってんじゃないわよ! 」
彼女が私を責める内容はよく分からない。けど、私が悪いのだということだけは理解した。それから、私の何もかもが気に入らないのだということも。有ること無いこと、あちこちに吹聴され、心身ともに疲れ果てた。
大学で同じクラスになった梓が唯一私に親身に寄り添ってくれた。
「私のサークル、おいでよ」
写真が好きな梓が入っているサークルは穏やかで、落ち着けた。でも、そこにも恵子さんがやって来て、有ること無いこと言って帰っていった。
「何、あの人。暇なの? あんなの、嘘だからね! 逆に名誉棄損で訴えていいんじゃない? 」
梓がみんなの前で一蹴してくれて、ここでは何も起こらなかった。
あっちのサークルは、その後解散したと聞いた。斉藤さんからは、何度も連絡があったけれど応じる事はなかった。何度も待ち伏せされ、その度に逃げるように避けた。
キャンパスで会った時に、腕を掴まれたが、震えて嫌がる私に
「ごめん」
と呟き去って行った。以降、それ以上の事はなくなった。
ようやく、落ち着けたのは彼らが卒業してからだった。
その頃になって、バイト先で違う大学の人と出会い付き合った。だけど、すぐに別れた。同じバイト先の女の子が彼の事を好きだと知ったから。トラウマができて、もう誰かの好きな人は嫌だった。
梓は、大学に入学してからずっと……同じサークルだけどめったに来ない、この広い大学でさえ有名なアイドル的存在吉良凌平に、熱を上げていた。恋と言うか……ファン心理なのだろうと思っていた。
みんなでスケッチや、写真を取りに遠出した時のこと
「あっちの方も綺麗だったよ」
そう話しかけて来た梓のアイドル吉良くんは、確かに格好いい人だった。吉良くんの姿が見えなくなると
「キャー!! 湊!! しゃべっちゃったー!!」
そう言って、梓は私に抱きついて来た。喋ったのは向こうで、梓は固まってただけ。たまにしか来ないっていうのに梓のカメラには、彼の写真がいっぱい入ってた。完璧にアイドルだな。
「どこがいいの? 」
勿論、顔だろう。そう思って聞いた私に、1枚の絵を見せてくれた。優しい。優しい絵。優しい色使い……。それと共に、絵すら写真に撮って保管してる梓に苦笑いした。可愛いなぁ。もう。
「優しい色でしょ? 彼もね、きっと優しいと思うの」
そうか、見た目だけじゃなく、その絵から惹かれたんだ。
──それから、梓に影響されて、いつの間にか吉良くんを探すようになった。彼の容姿は目立つので、見つけやすかった。
でも、それだけでなく、梓を通して、いつの間にか私も彼を……見ていたのかもしれない。いつも誰かに囲まれて過ごしていた。男の子だったり、女の子だったり。女の子で言えば、いつも違う子といた。特定ではない誰かと。美人で派手といったタイプだけではなく、色んなタイプの子と。
まぁ、吉良くんは目立つ人だった。何をしても。だからこそ、梓は、
「見てるだけでいい」そう言っていた。それはそれで、梓がいいならって思ってた。向こうがこっちを認識をしているかも分からなかったから。
コメント
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第1話、読み終わりました。湊さんがこれからどんな恋をしていくのか、すごく気になります。梓さんの「湊が悪いんじゃないよ」という言葉が最初にあって、あのつらい経験を思い返す構成が胸に響きました。梓さんの優しいサークルで一息つけるシーンは、読んでいるこちらも救われる気持ちになりました。彼女が吉良くんの絵を大事にしまっているところ、いいですね。優しい色の絵から「彼もきっと優しい」と思う梓の感性が好きです。続き、楽しみにしています🌷