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#SF
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ruruha
その音が鳴った瞬間、体がびくっと跳ねた。
ポケットの中で、スマホが短く震える。
ただそれだけなのに、心臓が一段高いところまで持ち上げられた気がした。
――また、だ。
昼休みの教室はうるさい。
机を叩く音、笑い声、誰かが椅子を引く音。
その全部の中で、スマホの通知音だけが、やけに大きく聞こえた。
私はゆっくり、周りを見回す。
誰も私を見ていない。たぶん。
それでも、背中が冷たい。
画面を見なくても分かる。
この時間、このタイミングで連絡してくる人は、一人しかいない。
「……見ないと、また怒る」
小さくつぶやいて、私はスマホを取り出した。
――件名もない、短いメッセージ。
《今、誰といるの?》
それだけ。
質問なのに、問いかけの形をしていない。
答えを知っている前提で、確認しているみたいな文。
私は、机の上に広げたノートに目を落とす。
ノートには、昨日の授業の途中で止まったままの文字。
友達――と呼んでいいのか、もう分からない子。
別のクラスの、あの子。
最初は、こんなじゃなかった。
去年、クラス替えをしてすぐ、同じ委員会になって。
話しやすくて、よく笑ってくれて。
「七瀬ちゃんといると落ち着く」って言われたとき、少しだけ嬉しかった。
その「少し」が、間違いだったのかもしれない。
《今は、クラスの子と話してたよ》
送信ボタンを押すまでに、十秒以上かかった。
言葉を選んでいるというより、怒らせない文章を探していた。
すぐに、既読がつく。
《誰?》
胸がきゅっと縮む。
正直に書けば、また長くなる。
適当にごまかせば、あとで責められる。
私は、嘘と本当の間にある、いちばん安全そうな言葉を探した。
《近くの席の子だよ》
また、既読。
少しの間。
その「間」が、いちばん怖い。
次のメッセージが来るまで、私は呼吸の仕方を忘れたみたいに、息が浅くなる。
《その子とあんまり仲良くしないでねー!!七瀬には私が居るんだから》
やっぱり。
私はスマホを伏せて、机に額を近づけた。
誰にも見えないように、小さく息を吐く。
どうして、こんなことになったんだろう。
学校では、あの子は私に話しかけてこない。
目が合っても、気づかないふりをする。
周りの子と一緒に、私を通り過ぎていく。
それなのに。
放課後。夜。休日。
スマホの中では、私の世界の真ん中にいるみたいに、連絡してくる。
《今日、誰と遊んだ?》
《男の子と話してなかった?》
《仲いい子いるとか、やめて》
__仲いい子なんて、別にいない。
でも、「いないよー」って言うたびに、なぜか罪悪感が増えていく。
私が悪いのかな。
私が、優しすぎたのかな。
ふと、視線を感じて顔を上げる。
教室のドアの向こう。
廊下を歩く生徒の中に、一瞬だけ、知っている横顔が見えた気がした。
心臓が、どくんと鳴る。
見間違い。
そう思いたいのに、体が固まって動かない。
スマホが、また震える。
《ねえ、聞いてる?なにしてるの?》
私は、指が冷たくなっているのに気づいた。
逃げたい。
でも、どうやって?
この関係に、名前をつけられない。
友達、ではないのかな?
いじめ、それっぽいことされてないし。
依存、心配してくれてるだけだもん。
どれも、少しずつ違う。
ただ一つ確かなのは――
この子_美咲の通知音だけ、私の心を支配しているということ。
私は、震える指で画面を見つめながら、
また、返事を打ち始めてしまっていた。
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