智Side
‥おかしいな。
さっきから電話をするが繋がらない‥。
藍に連絡してみる‥こっちも音沙汰なしだ‥。
食堂での事を聞こうと思ったのに‥
‥何かあったんだろうか?
‥まぁ、いいか‥もしそうなら、小川から伝えてくれるはずだ‥。
何も心配しなくても大丈夫。
ふぁ‥そろそろ寝ようかな‥。
その時‥‥、
コンコンコン‥。
えっ?こんな時間に誰?
あっ、小川?
‥来てくれたのが小川かもしれないと思うと逸る気持ちが抑えきれず急いで扉を開けながら‥
「小川、今まで‥‥」
そこまで言いかけて慌てて口を閉ざす。
‥そこにいたのは、祐希だったからだ。
「えっ?祐希?珍しーお前が来るなんて」
「智君、ごめん、もう寝てた?」
意外な来訪客に、眠気も覚めたわと笑いながら呟き‥話がしたそうだったので部屋に上げることにした。
部屋に入るなりキョロキョロしている‥
「なに?俺の部屋が汚いって?」
「それもあるけど‥小川は?来てない?」
今さらりと汚いっていうのを肯定したな‥と言いそうになったが‥
いや、問題はそこじゃない!
「小川?食堂で夕飯食べてから会ってないけど‥なんで?」
「いや‥実は数時間前に偶然小川に会って、少しだけ俺の部屋で話したんだけど‥」
「えっ、小川、祐希の部屋に来たの?」
「うん‥でも少しだけ話して‥後は出ていったから‥」
「?出ていったんなら‥自分の部屋にいるんじゃね?小川の部屋には行ったの?」
「いや‥俺、小川の部屋知らなくて‥」
だから、もしかしたら智君の部屋にいるんじゃないかと思ったと祐希は話す‥。
携帯で聞けばいいんじゃね?と思ったが‥そうだ‥今日は何回かけても繋がらなかったんだと思い出す‥。
携帯がダメか‥
それなら‥‥。
「よし!俺‥今から小川の部屋行ってみるわ!祐希は?一緒に来るだろ?」
「えっ?‥‥う‥うん」
?祐希にしては歯切れの悪い返事だな‥。用があって探してるんじゃないのか‥?
‥まぁ、いいか‥そうと決まれば早く行こう。
アイツも早く寝てしまう時があるから‥。
とりあえず携帯とルームキーだけ手に持ち、扉の前に急ぐ。
最初から部屋に行けば良かったな‥そう思いながら‥小川の部屋に向かった‥
コンコンコン‥。
何度も試してみる‥が反応がない。
寝てるんかな‥‥?
再度ノックするも‥応答はなかった。
こんな時間に何処か行ってるのか?
いや‥まさかね‥。
「たぶん寝てるっぽい。前も寝てた時あったから‥今夜は無理かも」
後ろにいる祐希に伝えると‥そう‥寝てるのか‥と1人呟いている‥
「また明日がいいのかもな!何か大事な用だった? 」
「いや‥ううん、明日で大丈夫。ありがとう」
大丈夫と言う割に顔は暗く沈んでいるように見える‥そんな祐希に、
「あ‥あのさ、聞いてもいい?さっき小川となに話してたの?」
「‥‥‥‥」
「言いにくいけどさ、祐希‥藍と別れたじゃん?その事で小川めちゃくちゃキレてたから‥だから‥そんな小川と何話したのかなって思って‥」
「‥‥小川から藍に近づくなって言われた‥」
「藍に?なんで急に?てか‥祐希、藍と別れてから2人で会ってないだろ?」
「‥‥‥‥」
沈黙が続く。これは‥‥‥
会っていたということか‥
そうか、小川は気付いたんだな‥。
だから‥藍に対しても怒っていたのかもしれない‥。
‥‥‥‥‥‥。
「なぁ‥祐希?前から聞こうと思ってたんだけど‥お前の結婚相手ってさ、有名な資産家のお嬢さんだよね?どこで知り合ったの?」
あまりにも急な入籍に式が続き、聞くタイミングを逃した事もあるが‥ そもそも祐希は2人の成初めを聞いても全然教えてくれなかったから‥多分、知っている奴は‥ほとんどいないんじゃないだろうか‥
「まぁ‥向こうから声かけられて知り合った‥かな」
「ふーん、向こうからか‥。まぁ、綺麗な人だったし‥お前も惚れるよな」
いいよなと笑いながら祐希をみるが‥当の本人は照れることもなくただ無表情だった‥。
‥‥‥‥なんだろ、この違和感は。
「でも‥アレだな。まだ新婚なのに、合宿やら試合があれば会えないから寂しいんじゃね?」
「‥‥‥‥‥」
「と言ってもまぁ、合宿も後半分だし‥それが終わればまた一緒に生活出来るか‥」
なんて話しながら‥小川も寝てることだし、帰ろうと踵を返す俺の背後から‥祐希が話しかける‥
「住んでない‥」
「えっ?なあに?」
「結婚する前もしてからも、彼女とは一緒に住んでいない‥」
「‥は?住んでない?えっ、別居って事?」
どうしてなのか?
そう祐希に聞くが‥それには返事をせず‥またね智君と‥歩き出してしまった。
新婚なのに別居か‥。
聞けば聞くほど分からなくなる‥。
何故結婚したんだろう‥。
祐希Side
小川はもう寝てるのか‥確かに遅い時間だ。
部屋で見た最後の小川の表情が気になったから、会って確かめようと思ったが‥
また明日だな‥。
そう思いつつ‥ふと、藍が気になった‥。
更衣室で泣いていた藍‥。
俺が会えばまた泣かせるかもしれない‥。
やめておこう‥。
そう思うのに‥
未練たらしくも藍の部屋に足が向かう。
もし寝ていたら戻ろう‥
廊下を歩き、藍の部屋のドアが見えてきた‥。
その時‥
ガチャ。
ドアの音がして、咄嗟に隠れてしまう。
「‥もう、大丈夫?」
「うん、大丈夫‥心配せんでもええよ、部屋まで送ってくれてありがとう」
そこには、藍の部屋から出てきた小川がいた。
「わかった‥じゃあ、また明日」
「おやすみ‥」
‥藍の部屋にいたのか?‥そんな2人を隠れながらじっと凝視する‥
もう小川は帰るんだと思った‥
しかし‥
扉を閉めようとした藍の手を小川が掴む。
「藍‥俺が言った言葉忘れんなよ‥本気だから」
「‥‥うん」
2人が何か話しているんだということはわかった‥しかし、声が小さすぎてあまり聞こえない‥。
何を話してる?
気になって思わず身を乗り出す‥。
その時‥
横を向いた小川と思わず視線が合ってしまった‥。
それまで穏やかに藍と話していたはずの小川の顔に嫌悪感が浮かぶ‥。
‥‥‥‥‥‥。
「小川さん?どしたん?」
「えっ?いや‥別に‥あっ、‥藍ちょっと来て‥」
藍に手招きをしている‥そして その仕草で藍が近づき‥
グイッと藍の胸元を引っ張ったかと思うと‥
2人の唇が重なる‥。
「ん‥」
逃げようとする藍の後頭部を掴み、さらに深いキスを与えている‥。
静かな廊下に‥重なる唇のリップ音が微かに響く‥。
そして‥小川は‥藍の唇を味わい終え‥チラリと俺の方を見て‥
微かに‥
口角を上げた‥
俺を嘲笑するかのように‥‥。
“藍が好き?“
あの時の返事のつもりなのだろうか‥
唇が離れたあとも
藍の顔を両手で包み込み、
何かを囁いている小川を‥
俺はただ見つめることしか出来なかった‥
‥‥‥‥‥‥。
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