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もう、無理だと感じた。
理由は、
はっきりしている。
俺が何を選んでも、
世界は“正解”を修正してくる。
戻れば、
誰かが薄くなる。
戻らなければ、
ミオが消える。
どちらを選んでも、
俺の手は
血で汚れる。
⸻
朝。
チャイムが鳴る前に、
目が覚めていた。
いや、
“起きていた”。
眠った記憶がない。
制服を着て、
教室に向かう。
身体が、
勝手に。
もう、
自分の意思かどうかも
分からない。
⸻
ミオは、
今日もいる。
でも、
少し違う。
輪郭が、
曖昧だ。
光の加減じゃない。
そういう“ズレ”。
ミオ「おはよ」
声は、
ちゃんと聞こえる。
でも、
教室の音に
混ざりやすくなっている。
俺は、
怖くて
名前を呼べない。
_________
授業中。
ノートを取っていると、
文字が
途中で消える。
書いたはずの行が、
空白になる。
代わりに、
知らない文章が
薄く残る。
《不要な存在は整理される》
誰の字か、
分からない。
でも、
知っている。
昼休み。
ユウの名前が、
校内放送で
呼ばれる。
……いや。
違う。
呼ばれていない。
なのに、
俺の耳だけが
反応した。
心臓が、
強く跳ねる。
周りは、
何も聞いていない。
完全に、
俺だけだ。
スマホ。
振動。
【アリウム】
もう限界だろ。
君は、
何度も
自分を壊してきた。
でも、
それでも
“主人公”でいた。
もう、
いい。
君は
観測者になれ。
選ばなくていい。
世界に任せろ。
_________
指が、
動かない。
拒否も、
肯定も、
できない。
⸻
帰り道。
ミオが、
ふいに立ち止まる。
ミオ「ねえ」
ミオ「私さ」
ミオ「最近、
夢を見るの」
嫌な予感が、
背骨を走る。
ミオ「夢の中でね」
ミオ「私、
あなたに
謝ってる」
ミオ「理由、
分からないのに」
俺は、
息ができなくなる。
ミオ「でもね」
ミオ「目が覚めると、
その謝ったこと、
全部忘れてる」
ミオ「……それってさ」
ミオ「変だよね?」
俺は、
何も言えない。
ミオは、
小さく笑う。
ミオ「でも」
ミオ「大丈夫」
ミオ「どうせ、
あなたは
戻るでしょ?」
その言葉で、
完全に分かった。
彼女は、
もう
“分かっている”。
分かった上で、
縋っている。
⸻
夜。
布団に入る。
天井が、
遠い。
目を閉じると、
紫色の花が
落ちていく。
枯れて、
音もなく。
俺は、
願ってしまう。
もう、
戻らなくていい。
でも――
戻らないと、
彼女はいなくなる。
それが、
一番の地獄だった。