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YouTubeチャンネル「社畜OL田舎暮らしで勝ち組になりました」の登録者数は増え、カフェのリメイク現場をアップするようになって視聴者回数も大幅に跳ね上がった。朝の陽が縁側に差し込む頃、スマホの通知がピコン、ピコンと鳴り止まない。開くと、昨夜アップした「里奈カフェ改装進捗#5 ~青年団が看板彫ってくれた日~」の再生数が、朝イチで3万回を超えてる。
コメント欄が溢れてる。
「里奈カフェ、絶対行きたい!!」
「茅葺き屋根残したの最高」
「剛くんの雪だるま看板可愛すぎるwww」
「拓也先生のスーツ姿まだ見たい…」
「社畜時代から見てたけど、里奈ちゃんの成長が泣ける」
「カフェオープンしたら絶対訪問します!!」
登録者数は、もう16万人を突破した。雪解けの春に合わせて、毎日リメイク動画を上げてるのが効いてるみたい。
茅葺き屋根の補修シーン、青年団の剛ちゃんと高田さんが看板を彫る様子、小川の川砂利を敷く過程……全部、素のままで撮ってるのに、「癒される」「こんなカフェ欲しい」「里奈ちゃんの笑顔が元気出る」ってコメントが止まらない。 私は縁側に座って、コーヒーを飲みながら拓也さんにスマホを見せる。
「拓也さん、見て……また跳ね上がってる」
拓也さんが隣に座って、画面を覗き込む。
「すごいな。里奈の声と、村の空気が伝わってるんだろ」
私は少し照れて、拓也さんの肩に頭を預ける。
「みんなが『カフェ楽しみ』って言ってくれるから、もっと頑張りたくなっちゃう」
初めは河内村の中でひっそりとオープンする予定だったけれど、思い切ってYouTubeチャンネルで公表することにした。QRコードも準備して、誰でも「里奈カフェ」に来られるように、ホッと癒される場所を作ろうと思った。動画のタイトルはシンプルに。
「里奈カフェ、ついにオープンします! みんな、来てね」 サムネイルは、縁側でコーヒーカップを持った私の笑顔と、茅葺き屋根の下に掲げられた「里奈カフェ」の看板。剛くんが彫ってくれた雪だるまのイラストが、ちょっと可愛く映ってる。 動画の中で、私はカメラに向かってゆっくり話した。
「みなさん、こんにちは。伊藤里奈です。このチャンネルを見てくれて、いつもありがとうございます。あの社畜OLが、田舎に来て、みんなに支えられて……ついに、小さなカフェをオープンします」
画面に切り替わって、納屋の外観、小川、梅の木、カウンターの木目、干し柿のタルトの試作品……全部、拓也さんが撮ってくれた写真をスライドで流しながら、
「ここは、村の人が集まって、コーヒー飲んで、話して、ホッとできる場所にしたいんです。
メニューはシンプルだけど、里奈ブレンドのコーヒー、村の野菜サンド、干し柿タルト……みんなの笑顔が見たくて、作りました」
最後に、QRコードを画面に大きく表示。
「場所は、石川県白山市河内村。道がわかりにくいと思うので、QRコードから地図を見てもらえたら嬉しいです。オープン日は、来週の土曜日。最初はひっそり……と思ってたけど、みんなに会いたいなって思って、公表しちゃいました」
動画をアップロードした瞬間、通知が止まらなくなった。
「里奈カフェ!!絶対行く!!」
「QRコード保存した!ゴールデンウィークに行きます」
「社畜時代から見てたけど、こんな幸せな未来が待ってたなんて泣ける」
「拓也先生と里奈ちゃんの日常、ずっと応援してるよ!」
コメント欄が、涙と笑顔で溢れる。
オープン当日、朝から縁側に座って、コーヒーを淹れる準備をしてると、村の人たちが次々とやってきた。田上のおばあちゃんが飴玉の袋を持って、「里奈ちゃん、オープンおめでとう! 毎日来るわよ」 剛くんが青年団のみんなを連れて、「看板、ちゃんと立ってる! 俺らの力作だぜ!」 山下じいちゃんが野菜の籠を抱えて、「これ、里奈カフェの食材だ。毎日持ってくるからな」 そして、拓也さんが一番乗りで来て、「里奈コーヒー、一杯」ってカウンターに座る。 私は笑って、コーヒーを淹れる。
雫石しま
湯気が立ち上って、春の陽が差し込んで、みんなの笑い声が小川のせせらぎに混ざる。 YouTubeで公表してよかった。ひっそりじゃなくて、みんなが来てくれる場所になった。QRコードをスキャンして、遠くから来てくれる人も、きっと増える。 里奈カフェは、ただのカフェじゃない。社畜だった私が、みんなに支えられて作った、癒しの場所。
特急サンダーバードで大阪から来てくれたという若いご夫婦は、私の動画を見て「河内村への移住を考えているんです」と、微笑んだ。ちょうど、役場の職員さんがサンドイッチを頬張っていて、「ええ? ほんとにか? うちの村、移住支援金も出てるし、空き家バンクも充実しとるさけ! よかったら今から役場来て、詳しく話聞く?」って、口にサンドイッチを詰め込んだまま、目をキラキラさせて立ち上がった。
ご夫婦が少しびっくりした顔で「え、すぐですか?」って言うと、職員さんが「今が一番熱いうちや! 里奈ちゃんのカフェでコーヒー飲んでる間に、資料持ってくるし!」って、本当にサンドイッチを頰張ったまま走って行っちゃった。 私はカウンターでコーヒーを淹れながら、笑いを堪えきれなくて、「すみません……うちの村、みんな勢いだけで動くんです」ってご夫婦に謝る。
奥さんがくすくす笑って、
「動画で見てた通りですね。里奈さんの周り、ほんとに温かい人たちばっかりで……大阪のマンション暮らしで疲れちゃって、こんな場所で子育てしたいなって思って」
旦那さんが頷いて、
「仕事はリモートでなんとかなるし、里奈さんの動画見て『ここなら、ゆっくり生きられそう』って」
私はコーヒーカップを二人に渡して、
「ありがとうございます……そんな風に思ってくれて、嬉しいです。私も、最初は逃げてきただけだったのに、今はここが一番の居場所になりました」
そこへ、役場の職員さんが息を切らして戻ってきた。手に分厚いファイルとパンフレット抱えて、
「ほら! 移住支援金60万円の申請書類と、空き家リスト!里奈ちゃんの家の近くにも、いい物件ありますよ!」
ご夫婦が目を丸くして、
「ほんとに……ありがとうございます」
って、ファイルを受け取る。 拓也さんが診察の合間に顔を出して、「移住相談なら、俺も少し話聞けるよ。村の医療体制とか、生活のこととか」って加わって、みんなで縁側に座って話し始めた。 小川のせせらぎと、春の風と、コーヒーの香りと、新しい家族が村に来るかもしれない予感が混じって、胸がいっぱいになる。
私はカウンターに戻って、静かにコーヒーを淹れながら思う。あの社畜の頃、こんな未来なんて想像もできなかった。
動画一本で、誰かの人生が変わるきっかけになるなんて。
里奈カフェは、ただのコーヒー屋じゃなくて、誰かの新しいスタートの場所になってる。 最高じゃん。本当に、楽しいんですけど、この村が、もっともっと、誰かの「勝ち組」になる場所になりますように。