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風宮 むぅまろ(̨̡ ¨̯
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月曜日のオフィス。ドアを開けると、世界がいつもとは違う「高解像度」で見えた。緊急バイパス工事で社内システムを救ったあの日から、周囲の視線は明らかに変わっている。
(あなた誰ですか状態の他部署の人にまで挨拶されるし、なんだか落ち着かないな……)
そんな僕の困惑を見透かしたように、同期の佐藤がニヤニヤしながら寄ってきた。
「……お、春川! おはよ。衿に口紅ついてんぞ」
「あ、え!!」
「嘘だって(笑)。……お前、チョロすぎ。相手が白石さんなんて羨ましすぎるんだよ! 俺なんか子供が産まれてから一年、嫁が指一本触れさせてくれないんだぞ……っ!」
佐藤の怨念(嫉妬)混じりのからかいに、僕は昨夜の「ブラック・ランジェリー」の誘惑を思い出し、顔から火が出るほど赤くなった。その反応こそが、今の僕の幸せの何よりの証拠だった。
だが、その平穏はすぐに崩れ去った。
「皆、聞いてくれ。役員会の決定で、新システムへの完全移行を盤石にするため、外部からスペシャリストを招くことになった。経営コンサルタントの蓮沼涼香さんだ」
部長の声と共に現れた女性を見た瞬間、僕の心臓は氷ついた。
大学の学部が同じで、社会人になってから取引先として再会した元カノ。 かつてはもっと服も化粧も素朴だった。僕が好きだったのは、控えめに笑う彼女だった。
だが、彼女がM&Aの専門会社へ転職し、高収入を得るようになってからすべてが変わった。
「あなたといても、私の市場価値は上がらないの」
二股の末、そう言い捨てて僕の自尊心をズタズタにして去った女。
「……相変わらず泥臭い仕事をしてるのね、陽一。私が、この古臭いシステムを全面刷新(リプレイス)してあげるわ」
涼香は僕の隣を通り過ぎる際、きつい香水の香りと共に耳を汚すような言葉を置いていった。
「打ち合わせは10時からだ。関係者は会議室へ来るように」
部長の号令に、胃のあたりがギリギリと痛んだ。
会議室の空気は異様だった。皆の視線が、ホワイトボードの前で不敵に微笑む涼香の「胸元」にくぎ付けだった。
地味な素顔を塗り潰すような隙のない厚化粧、第三ボタンまで外したシャツと短すぎるタイトスカート。その肉体は、現場の努力や論理を力ずくでねじ伏せるための、最も安上がりで強力なカードだ。今の彼女は、かつての面影など微塵もない、虚飾と傲慢の塊だった。
「今の移行方式はアジリティが欠如しているわ。既存のフローはすべてディスカードすべきね」
会議室で涼香は、エンジニアたちの血の滲むような現場作業を一蹴し、カタカナ語を並べて自分のやり方を押し付けていく。
ふと隣を見ると、最初は彼女の露出に鼻の下を伸ばしていた佐藤が、拳を震わせていた。現場を無視した「机上の空論」な設計図に、彼のSEとしてのプライドが目を覚ましたらしい。
「春川、お前はどう思う?」
部長に振られ、僕がその設計の致命的な欠陥を指摘しようとした――その時だった。