テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
294
28
34
ほしたまごだぜ☆
34,721
Rougel & Fillabel
ふわり。ふわり。
丘の下のそよかぜ。吹くたびにつられてなびく、まっさらな翼。
ふたりの天使が並んでいる。
片方は、牡丹色の身体に、紺色のケープ。その上から羽織っている何かは、本人にも何なのかよくわからない。
もう片方は、薄い若草色に、椿色のリボンを巻いて。くすりと微笑った拍子に、雫のピアスが揺れる。
ふたりは丘の麓にいる。愛おしいあの子を待っている。
牡丹色の天使の頭上で、いつも、少しだけ上下に揺蕩っている天使の輪。を、眺める、もうひとりの天使。自分の頭の上にはないそれを、ちょっと掴んでみようとした。
「?」
「……あら、ごめんなさい」
彼が振り返る。なぁに?と言いたげに、こてんと首を傾げる。
相変わらず実年齢よりも幼く見えるルージュの仕草に、フィルは気負わず笑った。
「あなたって、私と同じ天使なのよね? 私には輪がないわ、どうしてかしら〜?」
「……、」
ルージュが懐を探る。出てきたのはスケッチブック。声を持たない彼が、誰かと意思を交わすための大切な思い出帳。
ぱらぱら捲られていくページの中には、微笑ましいイラストに、でかでかと白紙の真ん中を占める「食パン」、みんなで寄ってたかって書いた色んな筆跡の文字まで、色々。
ペンを取り出しながら空いているページを探すルージュの傍ら、フィルには新しい疑問が降ってくる。
「そろそろページ数が足りなくなるんじゃないかしら?」
ルージュが質問に答えてくれる前なのに、勢い余って呟いてしまった。滑り落ちた言葉をフィルが取り下げる前に、ルージュは頷く。顔の紙が空を孕む。
「……『あとちょっとで買い替えなきゃかも。でも、残ってるページもあるし、なるべく埋めたいな』」
「そうね〜。ルージュのスケッチブックは思い出でいっぱいね、今まで何冊使ってきたのかしら?」
「……『34』」
「……思ってた倍以上あるわね」
すけっちぶっく、スケッチブックのはずだ。そこそこのサイズ感、そこそこの重量感あるそれを34冊とは。
よっぽどスノウと話してるのね、とフィルはひとり飲み込んだ。うん。飲み込むに越したことはないはずだから。
さて、本題って、なんだっけ。
そうそう、天使の輪の話。
「ルージュ君は、どうしてなのか知ってる?」
「……『これ?』」
フィルの目線を追った指先は、とんとん、と光輪をつっつく。
「ええ」
頷くフィルに、ルージュはペンをくるりと回して、スケッチブックに何かを書き込み始めた。
「……『年代とか階級とかじゃない?』」
「確かにあり得そうね〜。……でも天界って、天使は天使、神は神、で統一されてなかったかしら?」
「……『そっか、じゃ年代かな』」
結論の言葉尻に、てへぺろ、という絵文字が追記される。どうやらこのルージュ、天界のことを記憶から消すあまり天界の制度まで頭から抜けたらしい。
元同僚、今は友達の牡丹色の天使を眺めながら、フィルは苦笑した。なんだかんだこうして現世で平和に生きるのは、ふたりにとって悪くない。
なにせ。
「……『だって僕ら天使には純潔求めるくせに神々は貢物だけ受け取って毎日痴情のもつれの大乱闘だよ? おかしくない?』」
「……反論の余地がないわね」
「……『天使は天使って纏めておきながら側近作るし』」
「…………そういえばやってたわね」
「……『休みないし』」
「そこまで来るとただの私情よ? わかるけれど」
天使とはなんと都合の良い存在であろうか。
デフォルメされた天使の翼をはためかせながら、ルージュはぷんぷん抗議を続ける。
「……『そんでもって現世に降りるのに代償が必要なんだよ? ただでさえ僕ら現世生まれじゃないから”力”持ってないのに!』」
「……そうね……」
”力”。
それは現世に生を受けた者が、ひとりひとつ、普通では認知し得ないものを感じ取る知覚。
ということで天界出身のふたりには”力”がない。
踏んだり蹴ったりである。
「……『僕もスノウみたいに魂とか見たいー! 見たーい! 見たい!』」
「お、落ち着いてちょうだい、そうね、わかるわよ」
駄々っ子ぶりを文字で表現したかと思えば、スケッチブックをそっと置いてフィルに飛びつく始末。そっと置く間に衝動はどうにかなりそうなものだが、彼の場合甘えるという本命があるので、特になにも間違ってない。
「……」
「ルージュ君ってそういうところあざといわよね〜……」
小柄な彼からの撫でろアピール。元同僚として気を遣うべき相手であろうと、そんな振る舞いをされてしまえば、負けるしかないというもので。フィルは牡丹色の丸みをそっと手のひらに収めた。いつのまにか撫でることに慣れた指先。ふとかわいい恋人のことを思い出して、フィルの頬が緩む。
一方のルージュもどうやらご満悦らしく、フィルを見上げる顔の紙には笑顔が映し出されている。
そんなタイミングであった。
丘をぐるりと回ってきたふたり組が、彼らと鉢合わせたのは。
「……あっ」「?」
「え?」「……え」
良くない感じの誤解を招いたらしい。
少なくとも誤解に良いものはあまりないのだが、それはこの際置いておいて。
「ふぃ、フィル……?」
「待って。待ってこれには訳があるのよ」
珍しく動揺に指先が凍りついたクライに、フィルが慌てて弁明し始める。
一方のスノウ。
「ルージュ? ルージュは俺の相棒だよね……?」
「『ちが ごかい ちがうから』」
「え!? 違うの!? もう相棒じゃないってこと……!?」
「……『タイムラグ! 筆記だからタイムラグがあるの落ち着いて!!』」
ふたりとふたりで、よにん組。
そのあと過剰反応と説明下手が見事に噛み合って大騒ぎになってしまい、しばらくスノウはルージュから離れなくなったし、クライはフィルへの重めの贈り物が増えた。
コメント
1件
ふわふわとした空気感と、色彩豊かな天使たちの描写がとても綺麗で、冒頭からすっと作品の世界に入り込めました。ルージュがスケッチブックで会話する設定も素敵で、34冊も使い込んできたというエピソードに、ふたり(とスノウ)の積み重ねた時間や絆を感じられて、じんわりしました。最後の誤解から一気に賑やかになる展開も可愛らしくて、ほっこりした読後感です。続きが楽しみです!