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時は遡って二年前──。
「つかさぁ、本当に歩いて帰るのかぁ?」
「うん、ルクスにも顔出したいし」
「そっか。遅くならないようにな。何かあったら俺のスマホ鳴らせよ」
「うん、ありがとう兄ちゃん」
じいちゃんが亡くなったと報せを聞いたのは日付が変わる頃だった。昼間じいちゃんの容態が急変したことを知り、コーチらと話し合った結果朝イチの新幹線で名古屋に帰るつもりだったのに。
じいちゃんは俺が横浜に引っ越す少し前から入院をしていた。肺がんで手術はせず薬での治療していて、ステージも1だから良くなるだろうと話していたのだ。けれど体調はあまり良くならず肺炎を起こしたりと入退院を繰り返し気づけばステージは3まで進行。両親とばあちゃんはもしものときを覚悟し始めていたとあとから聞いた。
横浜へと出発前に会ったじいちゃんはまだまだ元気で『頑張ってきな。男が一度決めたんだ満足いくまでやってこい』と激励してくれて母さんに内緒でこっそりお小遣いだと一万円を握らせてくれた。『母ちゃんにバレないようにな。とられちまうぞ』と茶目っ気にウインクするじいちゃんに俺はありがとうと鼻声で礼を言った。
その後何度か電話で金メダルの報告をしたとき声はまだまだ元気そうだったのに。先日も電話がかかってきて『もっとデカイ大会に出ろ。可愛い孫の勇姿が病院じゃあ見れん』と文句を言ってきたから『それじゃあ早く良くなって家で俺の勇姿を見なきゃ。会場にも来てよ』と言うとじいちゃんは『そりゃそうだ!』と大きな声で笑っていた。もしかしたらあの時にはもうじいちゃんはわかっていたのかもしれない。自分の余命がいくばくもないことを。
コーチにじいちゃんが亡くなったと伝えるとすぐに行こうと夜中なのに車を出してくれた。制服と着替えを用意していつも送迎に使うコーチの車に乗り込んだ。途中コンビニに寄って飲み物とごはんを買って横浜から名古屋へ高速を使って四時間。その日だって夜の10時まで練習をしていてコーチだって疲れていたのに俺がじいちゃん子だったのを知っているから少しでも早く会わせようとしてくれたのだ。コーチには感謝してもしきれない。おかげでまだ日が昇って無いから親戚やらも来ていない人の少ない時にゆっくりとじいちゃんと会えて。冷たくなってしまったじいちゃんはひどく小さくて涙が止まらなくてずっと握り返してくれない手を握った。
コーチは仮眠をしてから一度横浜に戻った。俺のスケジュールを調整と喪服を取りに行くため。じいちゃんが亡くなったこのときは丁度シーズンが始まったばっかで何かとバタバタしているときだった。練習の日程をずらしたり色々大変だったと思う。幸い大会の日程に被りがなかったのが救いだ。
そうしてお通夜が終わりお葬式も終わってじいちゃんは小さな骨壷にひとつにまとめられた。ずっと泣きっぱなしの俺を兄貴はずっと心配して傍にいてくれていたが泣き虫な俺に弟の誠は『なんでそんなに泣いてんの』と終始冷ややかだった。誠はじいちゃんによく叱られていたせいで苦手だったのだろうし、お通夜やらお葬式やらは小学生にはつまらないから余計俺には冷たい。久しぶりに会った末っ子の健が俺のことを忘れずにいてくれたのがせめての救いだ。兄貴いわく俺が誠の誕生日や年末年始に帰ってこないのに自分が苦手な祖父の葬式には帰ってきたのがおもしろくないだけらしい。何それ可愛いなぁと思ったけどだからって誠にかまってやれる余裕はこの時なかった。
まだ一年ぐらいしか離れてなかったけど街並みは懐かしかった。大須のスケートリンクに向かいながら自分が一年だけ着ていた中学の制服がちらほら見える。あの中に元クラスメイトたちはいるだろうか。今もだがほとんどスケートに費やしていた中学一年の頃は友達を新しく作る余裕はなかった。休み時間は寝てるか午前の授業で出された宿題をやるかのどちらかで放課後も休みも当然スケートだから友達と遊びに行くこともなかったし、孤立していたわけじゃないが俺はクラスメイトからしたらひどく気薄な存在だっただろう。正直俺も名前も顔も浮かばない。それでも懐かしいと思える程度には少し心に冷たい風が入ってきていたのかもしれない。
「バスの時間はっと……」
歩いていってもいいがそうなると一般滑走の時間ギリギリになってしまうかもしれないとバスで大須のスケートリンクに向かうことにした。懐かしい時刻表は一年前と比べて本数が減っていた。でも時間帯が良かったのかあと五分で来そうだ。
「あ、あの……」
「え?」
ぼんやり時刻表を眺めていると女の人に声をかけられた。か細いどこか弱々しい声に振り向けば綺麗なロングヘアの女の人が苦しそうに顔を歪めてふらふらと歩いていた。明らかに具合が悪そうで俺は「大丈夫ですか!?」と駆け寄った。
「あの、スマホ持っている?充電切れちゃって……っ、う」
「大丈夫ですか?すごい顔色が悪い……ここに座って、救急車呼びます!あの、あなたの名前は?」
「かご、加護芽衣子です。あのお腹に赤ちゃん、いるの……」
「え!?妊婦さん!?待って、すぐに救急車呼ぶから!」
それが俺と芽衣子さんのとの出会いだった。
「司くん、久しぶり!元気にしていた?体調はどう?」
「お久しぶりです。元気ですよ、芽衣子さんこそ体調大丈夫ですか?」
「もうあの時のことは大丈夫だって〜ふふ、ほら羊、司お兄ちゃんが遊びに来てくれたよ〜」
「あ!つぅ!」
羊さーんかわいい〜!大きくなったね〜!会いたかったよ〜!つうって俺のこと?俺のこと呼んでくれたの〜?」
あの後救急車を呼んで芽衣子さんに付き添い病院に行った。処置が済んで顔色のよくなった芽衣子さんにお礼を言われていたら駆けつけた旦那さん加護耕一さんにもたくさんお礼を言われそこから俺と加護家の交流は始まったのである。芽衣子さんはスケオタで俺のことを知っていた。声をかけたのはたまたまだったがこんな巡り合わせもあるもんなんだなと驚いたものだ。
その後無事出産もできて交換したアドレスに芽衣子さんと生まれたばかりの羊さんが写ってる写真が送られてきて俺は泣いちゃって。急にスマホを見ていて泣き出すから何事かと瞳さん達に心配されちゃったけど事情を説明すると皆生まれてよかったねぇと祝福してくれた。それから結構な頻度で連絡を取りあっていて俺が大会に出たら必ず見てくれて感想を伝えてくれる。そりゃあもうすごい熱量で。最近の家族団欒のひとつとして俺のフィギュアスケート観戦があるらしい。なんだか恥ずかしい。
「加護さんは?」
「今日は横浜に行ってるの。司くんと入れ違いになっちゃったね」
「そうなんだ……残念。加護さんもしかしたらお土産で買っきてきちゃうかもだけどこれよかったら食べてください」
「まぁ、気を使わなくてもいいのに。でもありがとう」
横濱ハーバーのダブルマロン。横浜のお土産の定番だと瞳さんに教えて貰って選んだ。ソフトなカステラ生地に粒栗入りの栗餡がはいったお菓子。
「お茶にしましょう。司くんも食べよ!」
「じゃあいただきます」
芽衣子さんが入れてくれた紅茶とお土産のお菓子を食べながらテレビを見る。もちろん俺の大会の映像で芽衣子さんは「ここ!ここの表情素敵よ司くんっ」と恥ずかしくなるぐらいずっと褒めてくれた。
「もう恥ずかしいからいいですってば〜」
「何言ってるの!司くんがどれほど素晴らしい演技をして私たちを感動させてくれたかちゃんと伝えなきゃ!これは司くんファン全員の思いを背負ってるといっても過言じゃないわ。あなたは大人しく絶賛されててください。ほらここのアクセルジャンプすごい綺麗!」
「……そんな、すごくないですよ」
俺のスケートはすごくない。この大会ではトリプルアクセルは加点が付いてよかったけど後半のジャンプは転倒してしまってノーミスでの完走は出来なかった。ネットでもずいぶん叩かれた。一緒に出ていた選手のレベルが低かったから金メダルとれたようなものだと。決してほかの選手のレベルは低くない。どの選手もジャンプもスピンもスケーティングも演技も素晴らしいもので俺を下げるためにほかの人まで下げるような投稿に俺は胸が痛かった。夜鷹純ならジャンプを失敗したりしない。この言葉がいつだって俺を責め立てる。
「ジャンプ、失敗しちゃった。コーチなら……夜鷹純なら絶対失敗したりしないのに」
俯いて呟いた言葉が余計に自分にのしかかる。
「……でも夜鷹純はこんな晴れ晴れとした笑顔で滑らないわ」
芽衣子さんの言葉に顔をあげると芽衣子さんは俺を見つめていた。それは母の顔だ。母親が子供を見守る慈愛に満ちた顔。
「司くんのスケーティング好きよ。スケートリンクって結構寒いのね。びっくりしちゃった。その中であんなスピードで滑ってきっと選手はすごい寒い風を頬に感じているんでしょうね」
頬にあたる冷たい風。その風がコーチの衝動だと言っていた。俺はあの風を受けていることが時々怖くなる。本当にここに居ていいのかと思ってしまう。誰にも望まれていないのに。
「でも司くんが滑っているとね違うのよ。カノンとベルのプログラムのときの素敵な笑顔ね、あのときね春の風が吹いたの。暖かくて優しくてワクワクして、自分が本当に妖精の国に迷い込んだみたいに思えた」
カノンとベルの国は幼い頃から何度も見た人形劇だ。児童書も図書館で何度も借りて読んでいつもワクワクした気持ちで自分がカノンになった気分だった。本当は欲しかったけど分厚くて何冊にもなっているから高価で買って貰えなかった。だから貸し出されてない時に当たった時は本当に嬉しかった。返却日ギリギリまで読んで妖精の国を想像するのが楽しかった。
弟たちは好き。母さんと父さんの役に立ちたいと思う気持ちも本当。でもずっとは心が疲れていく。ガサガサになってささくれだらけの心になってしまう。ここではないどこかに行きたくて自分ではない誰かになりたかった。
そんな時に出会ったのが夜鷹純とフィギュアスケートだった。冷たい氷のひとりきりの世界に行きたかった。夜鷹純のようになりたかった。
それをコーチが夜鷹純本人が叶えてくれた。こんな幸せなことはない。きっとあのときの公園の出会いで俺の一生分の運を使い果たしたと言っても過言では無いだろう。
だから俺を違う世界に連れ出してくれただけでなく俺の大好きな物語で滑られせてくれたことが本当に嬉しかったのだ。あのとき俺は本当に自分がカノンになっていた。カノンになってベルに導かれるまま妖精の国を走り回ったのだ。
だから見ている人にも妖精の国はあったんだよと伝えたかったのだ。
でも、伝わらなかった。みんな口を揃えて言う。
『夜鷹純を使ってその程度か』
「ほんとう、に?」
『夜鷹純を汚すおじゃま虫』
「……おれの、カノンとベル、ちゃんと見れた?」
『さっさと辞めたらいいのに』
「俺、カノンの、ように、たのし、そうだった?」
『才能なんてないんだから』
『夜鷹純を解放しろ』
『誰もあんたのスケートなんて望んでない』
「うん。素敵な妖精の国を案内していたよ。私司くんのスケート大大大好き!」
頬に伝う熱いしずくを小さくて柔らかな手が拭ってくれる。腕の中にいた羊さんが不思議そうな顔で俺を見あげて小さなもちもちのお手手で伝う熱を払ってくれた。
「……羊、さん」
「ううーないない」
「泣かないでって」
「うん、うん……っ」
「でも急には止まんないよね。だから」
優しく抱き寄せられる。俺よりも小さい体なのに力強くて安心できた。
「涙が止まるまでこうしていようね」
母さんに抱きしめて貰えたのはいつまでだっただろうか。弟がお腹にいたときにはもうその腕の中は俺のものじゃなくなってた。抱きしめて欲しかった。いい子って褒められたかった。お父さんたちの世話をしてくれてありがとうと一言が欲しかった。俺の話を聞いて欲しかった。そうしたら俺は言えたのかもしれない。コーチがいなくても俺はスケートをできたのかもしれない。
でもコーチがいないと俺はもう滑れない。
でも俺がいるとコーチは。
「だいすきな、ひとが」
そう、大好きなのだ。あの人がなによりも、誰よりも。
「くるしんでいて、おれのせい、で」
「……本人がそう言ったの?」
「ううん、でもわかるんだ、くるしいの、おれもおなじだから」
タバコの本数が増えた。
前よりもネットを見ているときが増えて画面を見ながら舌打ちやため息をつくのを何度も見た。
イライラしてて弁護士の先生との話しているのを聞いた。俺のことを悪く言う人達の対応に追われているコーチ。
スケート連盟の人達から俺以外の生徒をとれと言われていることを知っている。
実は母さんがまだ俺がスケートをすることを本当は許していなくてそのことで何度も話し合っていることを知っている。
たくさん、氷の上以外でコーチを困らせている。
だからせめてコーチが望む俺のスケートを見せたいのに。
「さいきん、足が痛くて、氷に乗れないんだ、すべることでしか、俺何も返せないのに」
背が伸び始めてきて足が酷く痛む日が増えてきた。成長痛だろうと言われて休み休み様子を見ようと言われてショックを受けた俺にコーチは大丈夫って言ってくれた。
『大丈夫だよ、僕にも成長痛はあった。でもちょっと休めばすぐに収まってすぐに今まで通りに滑れたよ。大丈夫、安心して』
そう言ったのに俺の足の痛みはちっとも引かない。ここでもコーチと違う。なんでこんなに違うの。なんでなんで。
夜鷹純に、俺はなれない。
『僕になろうとしなくていい。司のスケートが僕は見たいんだよ』
わかってる。あの時もそう言ってくれた。わかってる。わかってるんだ。でも、でもそれでも。
『周りの声なんて気にしたらあかん、司は司らしくやったらええ』
遊大くんもそう言ってた。匠先生も瞳さんも洸平くんたちもそう言ってくれる。もうネットのアンチコメントなんて見たらだめだって。わかっているのに。
じいちゃんの葬式で帰った時母さんに言われた。
『ねぇ、いつまでわがまま言うの』
優勝しても金メダルとっても意味が無い。
だって俺は。
『司にいばっかずるい。俺なんて欲しいものもやりたいことも我慢してるのに!ずるいよ!』
『最近クラブのコーチ陣やる気ないのが多いよな。』
『仕方ねぇよ。なにしたって夜鷹純と司くんと比較されちゃって。一位と二位であんなに点差ができるんだぞ?親御さんからのクレーム連盟にまできているらしいじゃん』
『夜鷹純独占しているからなぁ。だからってあちこちで教えられても俺らが食いっぱぐれるしな』
『成長痛が始まって練習制限してただろ?それでも金メダルとっていって本当にバカしているよな』
『夜鷹純も余計なものを見つけたよ。よりによってできる奴を教えてさ』
「でき、ないのに、なにも、夜鷹純に、なれていないのに、なりたいのにっ」
みんな言うことが違う。どうしたらいいの。わからない。わからない。俺は夜鷹純になりたい!なれない!なるなって言う!わかんない!わかんない……
「……司くん、スケート楽しい?」
「……わ、かんない」
ああもうそんなことすらわからない。楽しんでいいのか楽しんだらいけないのか。
「じゃあ、スケート、好き?」
白くて細い指が涙を優しく拭った。見つめた瞳には涙でぐちゃぐちゃの俺の顔が映ってる。
「……ずぎぃ」
絞り出すように出た言葉。涙もぼたぼた鼻水も涎も顔から出るもん全部出てる。
そして本当の気持ちも出た。
「好き、スケートも、コーチも、好き」
だから嫌われる前に。
だからこれ以上苦しむ前に。
愛してるからこそ、さよならをするのだ。
【見ろよ】明浦路司くん復帰からの快進撃が止まらない!!【俺の夜明師弟を】
1.銀盤の名無し
成長痛による足の痛みのため前季療養に宛てていた司くんが全日本ジュニアに向けて復帰!特別枠としてJGPの強化合宿にも参加!第一戦タイ戦で見事優勝金メダル!なんと公式大会初の四回転フリップ着氷!!!!その翌々週には関東ブロック金メダル!さらに同月に四戦目のフィンランド戦で自己ベストを更新して堂々の金メダル!全日本ジュニアこれはもらったようなもんというか
2.銀盤の名無し
いっちの大興奮ぶりわかる。すごいよ司くん!!!!!!
3.銀盤の名無し
というかすごすぎん!?バンコク戦見たとき司くんの成長ぶりに驚いた。え!?こんなにでかくなったの!?あんなに可愛い子犬ちゃんがこんな、こんな、セクシーなダウナー系に……
4.銀盤の名無し
そもそも前シーズン休んでいた選手に連盟が復帰するなら海外遠征行ける?出れる?合宿するけど来てくれる?って聞いてくるのってめちゃくちゃ司くんに期待しているってことが嬉しい。ああいう連盟とかって続けてじゃないとすぐ見限りそうじゃない?
5.銀盤の名無し
いっち落ち着けよ…司くんすげーーーーーーーー!!!!!!!!かっこいいよ!!!!!!!!好き!!!!!!!!!!
6.銀盤の名無し
5 お前が落ち着けwwww
7.銀盤の名無し
3 わかるよ、なんていうかひょろっと伸びてまだまだ体が薄いんだけど丸かったほっぺたが削がれてでもくりくりお目目がそのままなのにふとしたときに見せる伏し目がすごい色気出てる……
8.銀盤の名無し
髪の毛も伸ばしてて余計にセクシーなメスおにいさんになったかんじがする…昔夜鷹純がウルフカットしてたときがあったじゃん?アレに近い色気がある
9.銀盤の名無し
明浦路の新プログラム
SPカノンとベルの国から『妖精女王陛下』
4F
CSSp
3A
FCSp
3Lz+3T
StSq
CCoSp
バンコク戦では3Aが着氷乱れていたけど関東ブロックでは無事着氷してGOEも+3はもらってたから調子良ければまだまだ上に行きそう
10.銀盤の名無し
SPの女王陛下の入りがすごい好き。高圧的で冷たい女王陛下って感じがして司くんの下々を見る目にゾクってした。あそこほんと本家の女王モルガーナだったよ…ちょっと前まで花の妖精であんな可愛い演技をしていたのに…
11.銀盤の名無し
新しい衣装が素敵すぎる。白と水色のグラデーションでスパンコールたっぷりトップスは背中が開いててそこに白のコルセット。パンツは濃い紫。目元にシルバーのラメのメイク。コルセットから出てる裾のヒラヒラが司くんが滑る度にヒラヒラなびいてドレスみたいで良き〜
12.銀盤の名無し
司くんメイクがっつりしててびっくり。マスカラもしてるよね?口紅はコンシーラーで色味抑えているの最高です
13.銀盤の名無し
緊張感のあるヴァイオリンの演奏に合わせて司くんの振り付けも激しくなっていってて鬼気迫るものがあったね
14.銀盤の名無し
なんか一時期成長痛と伸びた手足のせいでジャンプが一回転すら跳べてなかったって聞いたけど全然そんな感じさせないくらい高さも幅もあるジャンプだったよね。
15.銀盤の名無し
男がメイクしているのあまり好きじゃないけど司くんは有りだわ
16.銀盤の名無し
動きスゴすぎだった。四回転序盤で跳んでトリプルアクセル跳んで後半に3-3連続ジャンプだもん。スピンもめっちゃ速くてすごいしステップシークエンスは当然のようにレベル4。マジ神がかってた
17.銀盤の名無し
14 でも体が薄いから慎一郎くんみたいなダイナミックさは無いよね。なんていうか羽が生えててふわって跳んでみせた感。
18.銀盤の名無し
3 ダウナー系からのインタビューでいつものニッコニコでめちゃきゃわだった。子犬から大型犬になっただけだった
19.銀盤の名無し
フライングキャメルスピンの足やばい。ブォンブォンだった。ビールマンスピンが相変わらずあってうれしい
20.銀盤の名無し
9 それでもジャンプ跳べてたのえらすぎだよ!!まともにジャンプできなくなっていたって聞いてたしいきなり初手に四回転でしかもフリップでびっくりして泣いちゃった
21.銀盤の名無し
演技前の夜鷹純とのやりとり見れて幸せ。司くんのほっぺたを両手で包んでさぁ……
22.銀盤の名無し
司くんひらひらの衣装似合うよねぇ。もっとひらひらさせて
23.銀盤の名無し
21 確かあの時「さぁ、太陽は沈んでないって見せつけておいで」って言ってたんだっけ。結構ネットとかで言われてたもんね太陽は沈んだって
24.銀盤の名無し
ぬいぐるみの数すごかったねープリンの司くんバージョンがたくさん。中にはバツ丸コーチぬいも。復帰おめでとうってバナー持ってた人が多かったからけっこうな数の日本人行っていたよね
25.銀盤の名無し
キスクラで並ぶ夜明師弟また見れてよかった
26.銀盤の名無し
汗でメイク崩れちゃってた。相変わらず代謝がいいのかな
27.銀盤の名無し
というか世界初の四回転フリップ着氷だよ!?おめでとうしかない!!!!
28.銀盤の名無し
というかよだじゅんは4Fは跳んでなかったんだね。意外
29.銀盤の名無し
司くんのインタビューで「コーチは大会では跳んだことはないけど4F跳べます。新しいクワドを跳ぶって決めた時コーチが公式記録のないまだ誰も降りてない4Fにしたいと自分から言いました」
跳べはするけど構成には使わなかっただけのよだじゅん普通にすごいな。もしかして4Aも跳べるんじゃ?
30.銀盤の名無し
インタビューで成長痛の話してたね。「痛みはけっこう酷かったです。歩けなかった時もあったし痛みで眠れなくて学校で倒れたこともあってたくさんコーチたちに心配と迷惑をかけちゃいました。だからじっくり休んで整えようと話し合って決まりました。正直僕は嫌で最後まで頷けなかったです。でも必要な休養期間だったと今では思います。背が止まってからは自分の手足の長さの違いを覚え直してジャンプを一回転からやり直しました。たとえ一回転でも二回転でも転び方がひどいと怪我をしてしまうので。アイスダンスでも瞳さんとの距離のとり方が変わってしまったので今回成績が良くなかったのは明らかに僕の実力不足です。本当に申し訳ないです」
31.銀盤の名無し
アイスダンスは関東ブロックは銅メダルだったもんねぇ……今年はジュニアのアイスダンス関東枠が充実しているから全日本ジュニアには行けるけど悔しいだろうね……
32.銀盤の名無し
なんでよだじゅん4Fいれてなかったんだろ?
33.銀盤の名無し
31 自分の調子がいいから余計悔しいだろうね。アイスダンスはレベルと息があってないといけないから明らかに瞳ちゃんのスケーティングが司くんより良くなってるプラス司くんの体の変わりようにまだ慣れてないことで差が出ちゃったかんじだね。お父さんでコーチでもある匠先生の顔がしぶいこと
34.銀盤の名無し
32 夜鷹は4Lzがあるから得点ならそっちで選べばいいしあとは体力と成功率の兼ね合いかも。失敗する可能性が高いものをいれるより安定の方をいれるのは当然。実際夜鷹はクワドのどれも失敗したことは無いけどノービス時代は3Fで転倒したことがあったからもしかしたらフリップ自体が苦手なのかも
35.銀盤の名無し
瞳ちゃんもインタビューで「司くんが休んでいる間はとにかくスケーティングをがんばりました。司くんが戻ってきた時私が引っ張ってやるんだと思って。あと司くんって結構負けず嫌いだから私の方がひとつもふたつも上手いと食らいついてくると思ったからです。下向いて拗ねている場合じゃないぞって。結果上手くなりすぎちゃってごめんね司くん」
「ほんとだよ(笑)ついていけません。でも加減してと言えない。瞳さんが僕に合わせるとレベルが下がっちゃう。だからもう食らいつくしかないです。全日本ジュニアでは瞳さんをリードしてみせます。僕を待って後悔したなんて思わせたくないです」
マジお姉ちゃん。弟をわかってらっしゃるwwそして負けず嫌い出てるわ司くんw
36.銀盤の名無し
34 よだじゅん転んだことあるんだ…自分見たことないぞ?
37.銀盤の名無し
インタビューの目標は?の質問に対して司くん「全部、金メダル狙います」
全部とは
38.銀盤の名無し
37 そのままの意味かと。司くんってジュニアは金メダルだけどシニアに混ざると台乗りすらできてないから
39.銀盤の名無し
38 いやいやシニアって全日本選手権の推薦枠で優勝狙うってこと?無理だって流石にジュニアがシニアにかなうわけない
40.銀盤の名無し
39 それをやってのけたのがひとりいますねぇ
41.銀盤の名無し
まさか司くん夜鷹純超えようとしている?
42.銀盤の名無し
41 それはさすがに無理。というか夜鷹純の記録は誰にも超えられないでしょ。あの人ジュニア一年目から全日本シニアの推薦枠でシニア押し退けて金メダルとってんだから
43.銀盤の名無し
夜鷹純がバケモノすぎて比べられる司くん可哀想。アンチスレ見た?ひどいよもう
44.銀盤の名無し
ここは司くんを応援するスレです。ネガティブな発言はやめて
45.銀盤の名無し
箱庭のバレエ振り付け全く夜鷹純と同じだけどジャンプ構成だけ違うんだよなぁ。でもPCSが高いからそんなに夜鷹の記録と差がないのは本当に司くんすごいよね
46.銀盤の名無し
そうだぞー!アンチしたいならスレちがい!出て行って!
47.銀盤の名無し
ここは司くんの凄さと可愛さと尊さを語るスレです!
48.銀盤の名無し
44 46 47 落ち着けって。ここでこのアンチスレをするとはいい度胸だな生きて帰れると思うなよ。お前が司くん崇拝者になるまで帰さないからな
49.銀盤の名無し
というわけで司くんのいいところ推すべきところ教えていってあげよう!!
50.銀盤の名無し
司くんの素敵なところは笑顔!あの初夏の爽やかな眩しい太陽のようなニカッ!とした笑顔に気づいたら堕とされてスケートなんて冬の競技ぐらいしか知らなかった自分が今ではジャンプの跳び分けが見分けられるようになったよ。おかげでフィギュアスケートを見ててすごく楽しい。これも司くんのおかげ!
51.銀盤の名無し
司くんのいいところは伸びやかなスケーティング力でしょう!フィギュアスケートってジャンプしか凄さがわからなかった自分が今ではジャンプよりもスケーティングメインのアイスダンスの放送を待ち望んでいる。ひとつかのおかげでアイスダンスの放送が増えて嬉しい!これはアイスダンス全体の喜び!
52.銀盤の名無し
実は親子三代でフィギュアスケート好きになりました。母は伝説の女王斎藤さつき選手推しで私は夜鷹純推しで息子は司くん推しです。思春期に入ってちょっとグレかかった息子とフィギュアスケートを通してなら祖母と私と交えて何時間でも話せるようになって司くんの一昨年の全日本ジュニアには三人で観に行きました。これも司くんのおかけです。
53.銀盤の名無し
SPはもちろんだけどFSの箱庭のバレエもすごいよかった!振り付けは完全に夜鷹純の完コピでまさに夜鷹純が降りていた
54.銀盤の名無し
夜鷹純以外にもあんな難しい振り付けと構成をこなせる人がいるだなと驚きとやはり司くんも天才なんだなと実感
55.銀盤の名無し
カノンとベルの国の花の妖精が司くんのものになったのと同じように箱庭のバレエも司くんのものになりそう
56.銀盤の名無し
夜明師弟はチート師弟天才師弟
57.銀盤の名無し
というかスケートの神様に愛された存在
58.銀盤の名無し
このふたりは誰にも引き裂けられないよ
59.銀盤の名無し
ていうかスケートの魔王、スケートの神に愛された男と言われている夜鷹純が惚れ込んでいるのが司くんだぞ?誰にも口を挟む余地なんてない
60.銀盤の名無し
夜鷹純がいなくなってちょっと盛り下がり気味のスケート関連がこんなにも盛り上がって新たなファン人口を増やしたのは司くんのおかげだよ。司くんに憧れてクラブに入る子も年齢層が上がったって聞くしすごくいい風しか吹いてない。夜鷹純には感謝しかない、司くんを見つけてくれてありがとう
61.銀盤の名無し
司くん来年からシニアに移行だよね?シニアになったら大会も増えるだろうしメディアにももっと出て欲しい。夜明師弟揃ってテレビに出るのを今から全裸待機!
62.銀盤の名無し
61 夜鷹純が試合以外にテレビに?ありえてしまうのか…?
63.銀盤の名無し
司くんのジュニア一年目の密着取材に出たっきりだよね?あれだけでもすごかったのに…さらに?
64.銀盤の名無し
司くんののびやかなスケーティングが大好きです!司くんのおかげで体調が優れない日々が多かったけど元気を分けてもらって最近すごく調子がいいの。いつまでも素敵なスケーティングを見せて欲しい。あなたはあなたのスケートしてほしい。周りの嫌な声なんて聞かないで
65.銀盤の名無し
64 ほんとそれ
66.銀盤の名無し
64 わかる。司くんのスケート見ていると元気になる
67.銀盤の名無し
今はまだ効かないけどそのうち司くんのスケートはガンにも効くようになる
68.銀盤の名無し
うちの子野球やっていたんだけど肩を壊しちゃってそれからすごく無気力だったんだよね。でも司くんのスケートを見てすごい今夢中になっててスポーツなんてもうしないって言っていたけど週一で近くのスケートリンクに滑りに行ってる。選手になりたいわけじゃないけど司くんのいる世界を知っていたいって。また明るくなってくれて司くんには感謝しかないです。がんばれ司くん!
69.銀盤の名無し
うちの子人見知りで引っ込み思案だったんだけど司くんの話題で友達ができました。毎日楽しそうに学校に行って今度の全日本ジュニアには友達と見に行くって。司くんのおかげです。ありがとう!
70.銀盤の名無し
司くんに勇気とか元気とか貰ってる人多すぎwさすがは太陽だよ!
71.銀盤の名無し
だからこそ負けないでほしい。司くんを否定する声なんか聞かないで
「本当に箱庭のバレエはジュンと同じでいいのかい?」
レオニード・ソロキンは久々の日本の地を踏んだ。ロシアから日本への長旅の間ずっと頭の中にあったのは司への司のためだけの振り付けだ。けれどいざ会えば友人の夜鷹からは「箱庭のバレエは僕の振り付けのままでいい。変える必要は無い」とのお達しだった。代わりにSPのカノンとベルの国『妖精女王陛下』の振り付けを頼まれたのだ。
「SPを頼んだ。十分だ」
「カノンとベルの国は僕も好きな物語だから楽しかったけどさ」
カノンとベルの国は日本では教育番組の人形劇として知られているが海外ではその原作の小説の方が有名だ。元はイギリスの作家が原作で日本のは訳されてそこから更に人形劇に昇華されたものである。カノンとベルの国が小説以外での形になっているのは日本だけでそれ故に曲だけは有名で知られているのだ。なぜ小説以外の形にしないのかは単純に長編すぎるから。映画にするにはかなりの回数作らないと完結はできない。またカノンとベルの国は話が長い分人気の章も多数ありやるならどこかひとつだけ、というのはファンには通じないのだ。でもそれをやってのけたのが日本の人形劇で約三年かけて三十分の人形劇を続けた。もはや正気じゃないと海外勢からは評価されまたその人形劇は伝説となりそれ以降映像作品は国内外含めて作られていない。そのためカノンとベルの国の曲を使うのは日本人が多かった。でも最近では東南アジアでこの人形劇が吹き替えされて人気になっていて海外のノービスクラスの子供たちの曲として選ばれることが増えている。だが妖精女王モルガーナの曲は使われたことがなくそれこそ司が初めてだ。曲は夜鷹が編曲し直しSP用に二分五十秒に合わせた。
「衣装のイメージはできているのかい?」
「ああ。もう制作に入ってもらっている。司の身長はもう伸びないだろうからね」
「それにしても育ったね。まさに若木そのものだ」
目の前のリンクで長く伸びたしなやかな足が美しいツイズルを見せる。美しい伸びやかなスケーティングにレオはブラボーと拍手を贈った。
「美しくなったね。危ういかんじがまたそそられる」
「レオ」
夜鷹の低い声におっと、と失言に手を口に当てて黙るレオニードに夜鷹は冷たい視線を変えずに送る。小児性愛ではなかったがレオニードは美しいものなら男女問わない。司を初めて紹介したまだ背が低い頃に『あと何年かしたら……』などとのたまっていたから夜鷹は気が緩めない。本人にもだが高峰にもレオニードと司がふたりきりにならないよう言っておかないと。
「でもあの危うさに妖精女王モルガーナは刺さるだろうね。きっと以前のFSの『花の妖精』もツカサによく合っていた。あれを振り付けできなかった悔しさはあるけどね」
妖精と出会い仲良くなっていく様子は明るく純粋無垢できらきらと眩しい司の笑顔をよく引き出していた。あれはスケートが出来て嬉しいという司の心理と合わせて出来ていた代物だ。実際技術はその後のプログラムのほうが上ではあるのに観衆の心に残る司のプログラムはというとこのカノンとベルの国の『花の妖精』なのだから不思議だ。
「だからこそ、モルガーナは今の司に合う。あれは傷つき虚勢を貼り続ける女の矜持だから」
きっとこの演技で人々は司を認めざるを得ないだろう。夜鷹の劣化版だの夜鷹の才能と金を食い潰す害虫だのと匿名をいい事に好き勝手言う観衆。彼らは認めざるを得なくなる。今、誰が滑っているのか。そして盲目に崇拝する夜鷹純が成していないことを司が成す時彼らは拍手せざる得ない。
きっと花の妖精と同じくモルガーナの曲も司のものとなるだろう。
「レオは太陽が一番眩しく感じるときはいつ?」
「それは朝日が登るあの瞬間だろう」
「では太陽が恐ろしく感じる時は?」
夜鷹の問いにレオニードはわずかに目を見開きそれから暫し悩み顔を歪める。思いつかないと肩をすくめると夜鷹は視線を司に向けたまま言葉を続けた。
「逢う魔ヶ刻だと僕は思う。夜が来る前の夕暮れで空が真っ赤に染まる時。まさに怪物が生まれる瞬間。夜を率いて未知なるものがやってくるその瞬間だ」
「……それは夜が恐ろしいんじゃないのかい」
「違うよ」
恐ろしい夜を引き連れてくるのが太陽だ。
『ジュンの言った通りだったね、ツカサ』
「レオ」
ジュニアグランプリシリーズの初戦が終わり帰国する前の僅かな選手たちの自由時間に帯同していたレオニードは司に声をかけた。ホテルはもちろんスィート。どの部屋にもあるがホテルで一番のこの部屋にはプールだけでなくジャグジーもついている。司はちゃぷちゃぷと足だけをプールに浸し水の冷たさに戯れていた。その様子をレオニードは片手に自分用にバラライカを司にはアイスティーを持って近づいた。アイスティーのグラスを渡すとロシア語で礼が返ってくる。
「レオのはお酒?」
『ああ。飲んだらダメだよ?僕がジュンに殺されちゃう』
「コーチに怒られる?って言ってるのかな。イエス、そうだね」
司はまだ英語が不慣れだ。海外遠征が増えるジュニアになれば他国の選手との交流で自ずと英語を覚えていくのだが司は夜鷹によって交流を禁じられていた。直接言われたわけではない。ただ司が他国の選手に話しかけられそうになったら夜鷹が近づきガードするのだ。それだけなら過保護なコーチで済むのだがひとりにすると話しかけられると言って司を決してひとりにはしなくなった。常に隣に居させて自身が傍にいられないときは、夜鷹が雇っているシークレットサービスに司の傍に居るように指示している。
そこまで過保護になったのは以前海外遠征で夜鷹についてしつこく聞いてくる海外パパラッチが司に接触し腕を掴まれたからだ。腕を掴まれるとは思っていなかった司はバランスを崩して転倒。怪我はなかったが大会前だったこともあり問題になった。それ以来司への過保護は止まらない。海外でだけでなく日本でも司はひとりきりで出歩くことを許されなくなった。常に大人もしくは瞳や洸平などが居ないと出歩くことができない。常に携帯を持たせその携帯にはGPSアプリが入っている。過保護を通り越して束縛していた。そのことに司はなにひとつ文句を言わない。それで夜鷹が安心するならかまわないという。
『退屈じゃないかい?他のみんなは遊びに行ったのに』
「んー?GO?どこかいくの?」
『違うよ、君が行きたくないのかってこと』
「あーおれ?俺が出かけたくないのかって聞いてるの?」
『YES』
本来レオニードは女性以外には母国語のロシア語でしか話してやらない。けれど男女の垣根を越えて気に入っている夜鷹と司は別だ。ふたりがまだわかる英語で話しかけている。といっても夜鷹はロシア語で会話できるから英語で話すのは司に対してのみだ。
「んーいい。だってコーチ疲れているし連れ回すの可哀想」
リスニングだけなら日本語も多少わかるレオニードは司が自身のことより夜鷹の体調を慮って出かけないことを知って驚きそしてため息をそのまま落とした。
「ため息おっきい」
『ツカサ、君はジュンに甘すぎるよ。もっと冷たくしてもいいよ。あれは君を束縛して自由を奪っている』
「んー?コーチは出かけたいって行ったらきっと連れ出してくれるよ。俺が行きたくないだけ」
ちゃぽちゃぽとバタ足をしながらプールに映るネオンの輝きを歪ませる。実際そうなのだ。司はそれこそジュニア一年目は初めての海外で興奮してあちこち行きたがり現地の食事をしたがった。二年目でパパラッチに腕を掴まれて転んだことでそれを辞めた。それに休養したあたりから夜鷹のファンと思しき人らから脅迫めいた手紙や書き込みもされている。自分になにかあると困るのは自分だけじゃなくて周りの大人たちだ。迷惑はかけられないし、なにより夜鷹をこれ以上悲しませたくなかった。
「コーチはね、俺のコーチを辞めたほうがいいのかもしれない」
『何言ってるの、その話はなくなったでしょ』
「俺といるとねコーチは色んな嫌なことを考えなきゃいけなくなる。あの人はスケートのことしか考えられないのに」
ちらりと部屋の中を見る。苦手な電話でなにかを話している夜鷹がここからでも見えた。スケート連盟なのか夜鷹が雇っている弁護士なのかはたまた高峰なのかもしかしたら司の両親かもしれない。テーブルの灰皿にはほんの少し前より煙草の吸殻が増えている。部屋の中が少し白く見えるから換気をしないといけないなとぼんやり思う。
「俺はコーチがいないとスケートができないししたくない。でもコーチは俺といるとつらいこともしないといけない。俺はコーチを喜ばしたいのに俺が大会で金メダルをとってもとらなくてもとつらいことが増えてくんだ」
『……ツカサなにかよくないことを考えていないかい。君は何も悪くないんだよ。君が美しく氷上で踊る姿を誰よりもジュンが望んでいる。そのための苦労なんて無いものさ。だから』
「だから」
司の瞳を夜鷹はひまわりだと例えた。太陽のような彼に相応しい瞳の色だと。レオニードもそう思った。けれどひまわりは枯れてしまうとまっくろで太陽から全てから背けるようにこうべを垂らして重たそうに種を抱えている。
「全日本選手権で夜鷹純の箱庭のバレエで俺もクワドルッツを跳ぶ。そして今度こそ金メダルをとる。大会に出てコーチにメダルを渡せないなんてこともうしたくない」
『でも、君はまだ』
そう四回転ルッツ。それは司が跳べないジャンプだ。夜鷹純の代名詞と呼ばれる四回転ルッツを司はまだ降りれたことがない。挑戦はするがいつも回転が足りなかったり着氷が乱れて氷の上に叩きつけられてしまう。あんなに鷹の目で模倣することが得意な司がだ。だからプログラムの構成に四回転ルッツははいっていない。成功したことの無いものをいれたりなんて夜鷹はしない。だからそのために得た武器が四回転フリップと夜鷹をも超えていると思わせるスケーティング技術だ。
でもそれじゃあ足りない。
「それでもやる。もし、跳べなかったら」
でもそれじゃあだめなんだ。
短いが綺麗に弧を描くまつ毛が伏せられてその瞳には何も映らない。閉ざされた瞳にはレオニードの心配する顔も映らず瞼の裏に浮かぶ夜鷹の幻影ばかりだ。
「俺はスケートを辞める」
差し出せ、夜鷹純を。
差し出せ、己を。
そして、さよならをするんだ。
「司」
エッジカバーを手渡すと夜鷹が司の名前を呼んだ。いつも通りの黒い出で立ち。心做しか顔色は少し悪い。昨夜も遅くまでどこかへ電話していたからだ。その相手はわかっている。関係者席をチラリと見るとそこにぽっかりと空いた空間。やはり来なかったかと司は一つ息を吐く。
「関係ないよ。君は君のために滑ったらいい」
「俺のスケートはコーチのためですよ」
「僕のため?」
「コーチが俺のスケートを見て喜んでもらうためのです」
「だったらずっと喜びっぱなしだ。犬なら尻尾を振っているよ」
珍しい夜鷹の冗談に笑う。司の笑顔に固さはない。緊張はしていないようだ。
「どっちかって言うとコーチは猫ちゃんですよ。ああでも黒くておっかない犬も想像つくなぁ。飼い主にだってなかなか尻尾を振らないんだ」
「媚びるのは好きじゃない」
「でも小さくて弱い生き物には優しい」
夜鷹は手袋を脱ぐと司の頬を包んだ。少し司が屈んで額が突き合わさる。
「……大きくなったね」
「もう滑走後に抱っこできないくらいには」
「できるよ。してあげようか」
「嫌です」
「ならフラつくなよ。少しでもフラついたら抱き上げる」
「……いってきます」
「いっておいで、僕の太陽、いや」
──女王陛下。
「生まれ変わった明浦路司を魅せて、僕を灼いて」
──妖精国の女王陛下モルガーナ。この国でいちばん美しくいちばん頭が良くいちばん優しくいちばん強くいちばん恐ろしい方。
伏し目がちのまつ毛が瞬きをする度にキラキラと奇跡の星屑が落ちる彼女は誰よりも慈悲深く誰よりも残酷だった。指先は美しくモルガーナの指を差されたものは心臓が止まる。その恐ろしい指先がカノンを指さす。カノンを、いや、人間を指さす。
「明浦路選手、SP曲は人形劇カノンとベルの国『女王陛下モルガーナ』手をかざしたポーズから入ります。フリーレッグ高いですね。背が伸びた分足が長くなったことでさらに美しさを増しています」
「最初のジャンプは自身が大会初の成功となった……クワドフリップ!」
「高いジャンプですね。回転足りていますし着氷も綺麗です、より美しくなってます」
「背が伸びた分体重も増えたでしょうにね。それなのに背が伸びる前と変わらない着氷時の軽やかさです」
「本来なら体はかなり沈み込むんですがここはやはり夜鷹コーチの教えもあって沈みませんね。さらに四回転ジャンプのあとに連続ターンからの」
「トリプルアクセル!決まりました」
「ここからモルガーナの曲は激しくなっていきます。彼女のなかの怒り憎しみを表現していますからね。連続ツイヅル。綺麗です」
──息を飲むほどの美しさ。圧倒的な美と強さがそこにあってカノンは震えた。隣を見れば女王陛下を慕うベルら妖精たちも彼女に脅え震えていた。胸が重たく息ができなくなるほどの圧。それが矮小な少女ひとりに注がれている。
『人間、汝なぜここにいる?』
「明浦路選手といえばステップの素晴らしさですね」
「ほんとどうやったらあんなにブレードを傾けて細かいステップを踏めるのかわかりませんよ……ああまたそんな難しい組み合わせを……ステップの中で加速が止まらないです、多分ジュニアではいやシニアでさえ彼のステップに勝てる人は早々いないんじゃないかな」
「フライングキャメルスピン、美しいですね。脚の長さばかり言ってしまうんですがキャメルスピンが映えますね」
「ええ。元々キャメルスピンが美しい選手だったんですがより目を惹くようになりましたね。アイスダンスのほうではこのキャメルスピンがメインに持っていってるほどですからね」
──カノンの思いもベルの思いもモルガーナには関係ない。例外などない。余地を与えさせない。モルガーナの女王陛下の思うがまま。カノンは排除される。妖精国から追い出されるのだ。ベルたちの記憶も時期に消される。
『さよなら、人の子。お前はこの子たちを確かに傷つけなかった。それは感謝しよう。だがそれでもお前は人間で我々とは生きる道も長さも違うのだ。お前との思い出はいつかこの子らを苦しめる毒になる。だからその前に──永遠の別れを。もう思い出すことはない。お前も妖精らも、わたくしも』
「明浦路選手はオールラウンダーの選手なんですよね。ジャンプもスピンもステップもスケーティングも全てが最高基準。スケートを始めたのは遅かった彼はどれほどの練習を重ねてたんでしょうか」
「夜鷹コーチも高峰コーチも厳しいといいますからね。よく高峰コーチのいるFSCでは彼の怒号が響き渡っていると聞きます。その厳しい言葉を受け指導を受けた後に夜鷹コーチによる指導はまた別の厳しさがあるでしょう」
「夜鷹元選手がストイックな人でしたからね……求められるものは自分以上のものでしょう。最後のジャンプのコンビネーション四回転サルコウ三回転トゥループ!!」
「難易度をグランプリファイナルで変えてきました」
「しかもイーグルからの難しい入りでしたね。これは加点がつきますね。ジャンプは全て成功。あとは明浦路選手の一番の見せ場。ステップシークエンス」
──憎んでいる。彼女はそう言った。でもカノンは人間界に戻されるほんの刹那モルガーナの表情を見た。物悲しい、寂しくて心が壊れそうな程の彼女を。
『モルガーナ!あなたは、あなたは本当に人間が嫌いなのですか!?本当に、私たちは相容れないのですか!?』
カノンの叫びにベルは振り返る。いつだって怖くて恐ろしくて畏れ多くて女王の顔をよく見た事なんてなかった。恐れてばかりで彼女を知ろうともしなかった。人間だって同じだ。怖くてカノンのことだってどんなに恐ろしい生き物なのかと最初は遠巻きで見ていた。でもでも。カノンは優しくて可愛い普通の女の子で。
『女王陛下!私もっとカノンといたい!ずっとずっと友達でいたい!だから……!』
──天井を見つめ美しいビールマンスピン足がゆっくりと下ろされ顔を覆い隠すベールのようにかざした手がゆっくりと退けられその瞳がカノンとベルを射止めるように審査員を射抜く。鋭く怒りと憎しみを湛えた瞳がホント一瞬歪み慈愛の表情を見せた。伸ばされた手はカノンに伸ばされているのかそれともかつてモルガーナが愛した者に伸ばされているのか。けれどモルガーナはすぐに妖精女王の表情に戻り鋭い眼光をを放つ。
──ジャンッ!!!!
最後鳴らされ終わる音楽に変わらぬ女王陛下の佇まい。強く気高い女王の姿だ。
歓声が鳴り止まない。拍手は激しい雨のように鳴り続けリンクにはたくさんの贈り物が投げられた。司は吹き出る汗を拭って観客に向けてお辞儀をして笑顔でリンクを上がる。戻った先には夜鷹が待っていてその顔は満足そうだった。
「今回もすごいプレゼントですね。夜鷹コーチが選手時代もすごかったですが弟子の明浦路選手も引けをとりません。若干ぬいぐるみが多いですかね?」
「ハハ、また可愛い相棒を連れてますね。ぬいぐるみが着ている衣装はファンの人のお手製らしいですよ。かわいいですねぇ。さっきまで冷徹な女王を演じていたとは思えない」
「このギャップがファンの心を掴むんでしょうね」
手を振り自前のポムポムつかさ(ファン命名)のぬいぐるみとバット純丸(司命名)を持って手を振ったりポムをの方のほっぺたをむにむにしてりして十七になってもまだ無邪気な司にファンはメロメロだ。SNSでは演技とのギャップに風邪をひくと呟かれているがそれを知らないのは本人だけ。最高得点を叩き出し会場は沸きに沸いてその後滑走した選手は可哀想にも太陽に飲み込まれて満足な演技を十分に出来なかった。
まさに夜鷹純のときの悪夢さながらである。
けれど悪夢はこれからだ。
──FS箱庭のバレエ。
バレエのポーズから入りピアノの音が鳴り響く。古典バレエの基本パターンを組み込みつつの高難易度のジャンプとスピンの構成は夜鷹純しかできないと彼が箱庭のバレエを初めて披露した時から言われていた。
元々はノービス時代に演じたプログラム。けれど年々その構成難易度を上げていった結果、動画サイトで夜鷹純の箱庭のバレエ演じてみたという動画は投稿されることがなくなった。それほどまでに難しく誰も挑戦できなくなったからだ。そしてそのうち夜鷹純以外はこの曲を使えなくなった。どんなに演じてもがんばっても持てる全てのジャンプをしても夜鷹と比べられるのだから。
司もそうだ。司が復帰と共に箱庭のバレエを振り付けも同じで滑ったが四回転ルッツだけは夜鷹の合格が出ずに三回転ルッツと四回転フリップで補うことになった。
夜鷹の頃と点数の付け方が変わったがそれでも司自身の持つFSの点数を更新し一番の出来だった。公式大会で初の四回転フリップ成功という偉業も成し遂げ洗練されたスケーティングと演技力に高い評価をもらい司の復帰を皆が喜んだ。
でも、それでも、悪意の声は消えない。
『四回転ルッツ跳べてないじゃんw』
『結局は夜鷹純の劣化版』
『長い手足がバタバタ動いてみっともなく見えるのは私だけ?純様ならもっと美しいよ』
『というか純様の衣装着てんじゃねーよ、似合わない』
『休んでた割に大したことない』
並ぶアンチの言葉の列を司は布団の中ぼんやりと見つめる。
(わかってた、きっと叩かれるんだろうなって。俺だって思うもん、コーチの夜鷹純の箱庭のバレエには程遠いって)
だからこそ完璧にやらないといけない。
挑戦しないと、守られてばかりじゃだめだ。
「冒頭、静かなピアノの音に合わせて古典バレエの振り付けです。邦題箱庭のバレエ。これは幽閉されたバレエダンサーの物語。箱庭のなかで誰も見られることなく踊り続けたバレエは美しくピアニストの心を惹き付け彼によって連れ出され外の世界を知ります。正にピアニストが夜鷹コーチでバレエダンサーが自分自身だと明浦路選手はインタビューで答えていました」
「さあ、冒頭のジャンプは四回転フリップ──え」
両手を上げ重くなってしまった体を引き上げる。軸を掴んで決してブレることなく──四回転ルッツ、着氷。
するかと、思われた。
バァンッ
ピアノの音をかき消す大きな音。司の体が勢いを殺すことが出来ずに壁へとぶつかり冷たい氷の上に体が投げ出された。ピアノの伴奏だけが静かに鳴り続ける。
「司!!」
「──馬鹿っ!!出るな!!まだ演技中だ!!」
司に駆け寄ろうとリンクの上に立とうと踏み出した夜鷹を傍らにいた高峰が腕を掴み制する。司はゆっくりと震えながら体を起こした。
「……あ」
ぽたりと氷の上に赤の雫が落ちた。司の鼻から赤い雫が垂れている。司は乱暴に拭うとふらつきながらも立ち上がりゆっくりと演技を再開した。
再開、したが──それは酷いものだった。
のちのジャンプは得意とする四回転サルコウも三回転+三回転のコンビネーションジャンプたちもすべて失敗。スピンも加速が上手くできないのかふらつき転倒。唯一最後のビールマンスピンだけが美しく出来たが司の代名詞でもあるステップシークエンスはレベル2の判定が出ていた。ピアノに混じって「司くんがんばれー!」と応援の声とボロボロの状態でも演技を辞めない司に賞賛の拍手が振り続け、最後のポーズで曲は鳴り止んだ。労りと諦めなかった司へ惜しみのない拍手が贈られるが司はそのまま氷を強く拳を叩きつけ蹲って動かない。
「あああああああああああ」
蹲り氷を叩く拳を上から優しく触れる。手袋越しに伝わる体温は酷く冷たい。そんなに強く握らないでと思いをこめるが司に伝わらない。尚力が強く込められて顔を上げてはくれない。司の顔が見たいのに。顔を上げて、その一言がのどにつかえる。褒めてやれ。ひとり孤独によく滑ったと。痛いところはどこかと。お願いだから。込み上げるものを飲み込んでようやく出た声はひどく情けなかった。
「司」
「手を」
「……司」
「ごめん、なさい、ごめんなさ、い、ごめ」
「謝らなくていい、立てる?担架を呼ぼう」
夜鷹の合図で担架を持った医療班がリンクに入ってくる。リンクサイドに戻れば同じようにひどい顔をした高峰が待っていた。
「司っ、大丈夫か!?」
「医務室へ」
「やだ、点、数」
「司」
そんなもの見るまでもないだろう。そうは言えなかったが夜鷹の言いたいことが伝わったのだろう。司は両手で顔を覆って涙を零し続けている。運ばれていく司にいつまでも労りと諦めず演技をしたことへの賞賛の拍手は会場に響き渡っていた。
「司は脳震盪起こしてたそうだ。そんな状態でよく滑ったよ」
「……跳ぶ瞬間はちゃんとできていました。司が着氷した先に選手の誰かの衣装から落ちたラインストーンがブレードにひっかかったみたいです。ブレードに亀裂が入ってた」
四回転はただでさえブレードへの負荷が大きい。そこに小さなラインストーンがハマって着氷がうまくできなかったのだろう。本来の軌道から逸れて壁に叩きつけられた。下手をすればブレードで体を切ってしまっていたかもしれない。そうならないように咄嗟に体を捻ったが頭を強か打ち付けてしまっていた。氷に顔を強打した痛みで意識が飛ばなかったのかもしれない。いっそ飛んでいてくれたらと高峰は思う。司があのまま動かなかったら直ぐに担架を入れ演技を中止させることができたかもしれない。司が動いてしまったから起き上がった瞳に炎がまだ消えてなかったから高峰は駆け寄ろうとする夜鷹を掴む力を緩められなかった。
「こんなブレードでジャンプもスピンもまともにできるわけがない」
「それはきっと司も気づいていただろうよ。たとえアドレナリン出まくっていても靴は己の体の一部だ。異変はすぐにわかる。それでもあいつは滑ることを選んだ。選手が選んだならリンクの外にいた俺らが止めることはできない」
冷たい氷の上で選手はひとりだ。輝くのも傷つくのも。どんなに寄り添い共に成長をしても氷の上に立てば孤独に戦わなければならない。司の痛みは司だけのものだ。
「なんで……ルッツを……」
「……コーチにできることは見守り見届けることだ」
「……やはりコーチなんて必要ない」
「純」
「あの子になにもしてやれない……こんなに苦しいこととは思わなかった」
夜鷹の黒のスラックスに雫が落ち僅かに色を変えた。それに高峰は気付かないふりをして夜鷹の肩に手を置き強めに摩る。
「学んだな、お前も。少しは俺らの気持ちがわかっただろ」
鼻の奥がツンとする。思い出すのは幼い夜鷹の姿。司の姿と重なり込み上げるものを飲み込む。今、若いコーチを励ますのが己の仕事だと。
「選手にはコーチがお前が必要だ。そしてお前にも」
たとえなにもできなくても。ふがいなさを感じても。氷の上で傷ついた選手を見届け続けるのが自分たちの役割だ。
司の順位は発表され、結果的には三位だった。司はSPで過去最高点を叩き出していたことと司に飲み込まれ演技が思うようにできなかった選手たちの点数がSP、FS共に低かったことで順位をそこまで落とすことがなかった。こんな結果でも銅メダルは銅メダル。ずっと夢見ていた全日本選手権でのメダル獲得は銅メダルだった。鈍く光るメダルの色を司は真に受け止めることが出来ないのか首に掛けられたメダルは授与式と撮影が終わると早々に首から外し高峰に預け体調がまだ万全ではないと記者のインタビューから逃げるように会場を後にする。その間夜鷹との会話はひとつもなかった。
夜鷹は司の怪我に両親に報告すると興味なんてないくせに罵倒に近い言葉を電話口で言い続けた。全日本では関係者席で両親と兄弟の分を用意していたのに司の家族はやって来なかったのにだ。
『怪我をするなんて聞いてません!司は連れて帰ります!』
「今回のこと誠に申し訳ございません。大切なお子さんをお預かりしている身として責任は私にあります。ですが怪我をしないスポーツはありません。今回のことは司くんの挑戦をまず」
『挑戦なんてしなくていいです!挑戦してどうなるというんですか。スケートなんてしてなんの意味があるんですか。私はずっとそう言ってますよね?大会で優勝し続ければスポンサーがつくから将来の心配はいらないって言ってましたけどあんな結果でそれが叶いますか!?やっぱりあの子には無理なんです。平々凡々と慎ましやかに生きていた方があの子にとって』
「……お言葉ですが司くんにはすでにスポンサーはついています。彼の演技に魅了され彼を支えたいという声は多数ある。今はそれをこちらで選別しています。全てを優勝しなくても十分に」
『金メダリストのあなたが言ったってなんの説得力もないわ!!夜鷹さんのように何不自由なく暮らせるのはあなたが優勝し続けたからでしょ!?暇つぶしのようにうちの子を連れ出して……もういい加減返してください!!あの子はあなたのようにはなれない!!』
「決して暇つぶしなんかじゃ」
キンキンと響く声にこめかみがズキリと痛む。ここ数年夜鷹は頭痛薬が手放せなくなった。理由はストレス性のものでは無いかと医者から言われている。司を引き取ってから煩わしいことが増えた。司の両親、スケート連盟や関係者、暴走する夜鷹のファンへの対応。それらが対人が苦手な夜鷹のストレスとなって蓄積されていく。それだけではない。ロングスリーパーの夜鷹は眠りを妨げられることもストレスになっている。夜中に成長痛で起きてしまう司に連れ添って起きていたしやっと司が寝たかと思ったら司の母親からの電話で起こされるというのが続いた。今はもう司は成長痛で起きたりはしないのだが少しでも物音がすると目が覚めるようになってしまい一度目が覚めてしまうと眠れなくなってしまっていたのだ。睡眠導入剤を飲んだり過敏になった神経を落ち着かせる漢方などを飲んで症状を緩和させていたが主治医からはストレスの元を断ち切らないと治らないと言われていた。ストレスの元。それは。でも、それは、それだけは。
「母さん、コーチを責めないで」
「つかさっ」
夜鷹のスマホをその手から奪い司が電話口の母親を窘める。その顔色は悪くまた泣いたのだろう目元が赤く腫れていた。
「今回の怪我は俺が悪い。まだ跳べないジャンプに勝手に挑戦して失敗した。怪我って言っても脳震盪と打ち身だけでどこも折ってはないないよ。コーチを裏切ったのは俺なんだからお門違いな罵りはやめてください」
『司……原因なんてどうでもいいわ、この際だから一度名古屋に帰ってきたらどう?お父さんも交えて真剣にこれからの話をしましょ?もう十分わがままはしたでしょう?』
「司、返して。話を聞かなくていい」
『夜鷹さんにまで恥をかかせて嫌でしょう?あんな大舞台で転んでテレビに放送されて恥ずかしいでしょ。お母さん行く先で息子さん大丈夫?って聞かれてもう恥ずかしいったらないわ。誠や健も学校で言われたそうよ。だからね、もういいでしょ?これ以上家族に迷惑』
「母さん」
母親の止まらない無神経な言葉を遮るように司が母を呼ぶ。この時にスマホを無理やり奪えばよかったと後に夜鷹は後悔した。
「俺、スケート辞める。今までわがまま言ってごめんなさい……名古屋に帰るよ」
「何を勝手なこと言ってるんだ。僕は認めない。帰さない、司。来シーズンからはシニアだよ?失敗したことをいつまでも引きずらなくていい。切り替えて。クワドルッツが跳びたいなら練習はいくらでも付き合う。外部から指導もいれる、だから」
「昨日、高峰先生に言って無理に滑らせてもらったんです」
「え?まだ滑るのはダメって言ったよね?昨日は陸トレだけにしてって言ったよね。僕の言いつけを守らなかったの?」
高峰とも相談してしばらくは陸トレ中心にしてちょっとずつリンクの上に戻そうと決めたばかりだ。司は今まで大きな転倒はなかった。転んで怪我をしたのはこれが初めて、しかも大会中にだ。だから記憶を薄れさせてから心を切り替えさせてから氷の上に乗せようとイップスを考慮してのものだった。それなのに高峰はそれを反故し勝手に司をリンクの上に乗せたみたいだ。夜鷹がスポンサーとの打ち合わせで陸トレに参加出来なかった隙をついての行動に苛立ちが加速する。なんだって誰も彼も自分の言うことを聞かないのか。
「サルコウを一回転から順に跳んで。クワドフリップも跳べました」
「そう、よかった。でもね今回だけにしてね。僕の言うことを」
「でもルッツは二回転も跳べなかった」
「え」
「クアドがトリプルがじゃない。ダブルで跳べなかった、一回転すら少し、着氷が乱れました」
「つかさ」
「……ごめんなさい。俺はあなたのスケートができない、それだけじゃない、俺の俺自身のスケートももう」
「司」
「もうむり、なんです。これ以上は嫌いになってしまう」
「今までありがとうございました、あなたに見つけてもらえたのになにも残せなくてごめんなさい」