三年前に、私は天使を拾った。
絹糸のように細い金髪に、ガラス玉を透かしたような淡い空色。体に不釣り合いに大きくて少し汚れたカッターシャツを着て、膝小僧を怪我した小柄な天使。翼は生えていなかったけど、紛れもなくその少年は天使だった。
天使は偶然目が合ってしまった私に駆け寄り、大きな瞳を潤ませて涙を貯め込みながら話し出す。
「あのう…少しでいいので、お金を、恵んでほしいのです。両親がぼくを置いて二人かえってしまったので、家に帰るまでの……片道分の切符を買うための、お金が必要なのです。」
喉が渇き切っているのか途中なんども咳払いをしたり、涙と一緒に零れようとしてくる鼻水をずびずびと啜りながら少年は必死に話す。声がまだ大分高くって。背丈と一緒に考えると八歳位かなと予想がついた。口調がしっかりとしていて、育ちが良いのだろうと想像することは容易かった。その日一日乗り切るくらいの銭しか持っていない癖に私はこの天使の健気な様にすっかり魅せられてしまい、彼の頭を無意識の内に撫でていた。
「きっとその両親は君が帰ってくることは望まないよ。子を愛しているのなら置いていったりはしないのだから。俺についておいで。狭い処だけれど、子供一人寝泊りするスペースくらいはあるさ。」
言いたい事の前に嫌味を付け加えてしまうのは昔っからの悪い癖で、特に子供というのはなんとなく毛嫌いしていたもんだからつい口から飛び出てしまった。あぁ、この天使は、どんな反応をするだろうか。見ず知らずのやむを得ず頼ったような信用の余地のない大人に容赦なく現実を突き刺され、泣くだろうか。きっと、泣き顔も美しいんだろうな。
「あぁ…やっぱり、そうなのですね。うすうす、分かってはいたのです。ママもパパも、この旅行中やけに苦しそうだったから。おにいさんは優しい人ですね。ぼくに出来ることがあるのなら、なんでもしますから…どうか、少しの間でもうちに置いてください。」
天使が涙をこぼしてしまわぬように私の顔をしっかりと見上げ、無理くり笑ってそう頼んできた。ああ…健気だ。あまりにも健気で愚かで、美しい。この浮世離れした美しさと口調、気味が悪くて目が離せない。私みたいな穢れの煮凝りのような人間、いや、人間ですらないのかもしれない。私のような人間に似た汚れには、あまりにも眩しい。全身が毒だと訴えかけてくる。心臓の奥底から指先までが震えて変な汗が零れた。頬が熱くなるのを感じる。
「大丈夫、子供に労働を強いるような大人じゃないよ。さ、行こう。こっから近いんだ。帰ったら水とパンをあげよう。」
私は高鳴る鼓動を押し殺すように咳払いし、天使の背を押してそそくさと帰路についた。
コメント
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人間に似た汚れの流れすき