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あるサイトがあった
「書けない貴方へ、遺書書きます」
遺書代筆屋だ
今日は、老人が訪ねた
「わしももう長くないと思うんじゃ」
「手がブレて、遺書を書けん」
「お願いじゃ、書いてくれ…」
『もちろんですよ』
彼は代筆屋
椅子に腰掛け、紙を手に取る
『お好きな物は?』
『お好きな色は?』
『お好きな人は?』
会話の中で淡々と情報を集める
聞いて、集めて、まとめる
そうやって書いていく
それが俺の仕事だから
……きちんと、終わらせるのが仕事だから
3日間の交流により遺書は書き終わり
彼は、老人に遺書を渡す
「ありがとう、おかげで未練なく逝けそうじゃ」
老人は感謝を告げ、家へと帰ってゆく
ありがとう、その言葉が心を沈ませる
この人は何も知らない
俺の仕事が、何を意味するのか
この人はただ、書いてくれてありがとうと
純粋に感謝してる
俺はこの人を騙しているだけなのに
そしてまた別の日
1人の少女が彼を訪ねた
「私、死にません」
「なので、遺書を書いてください」
『はい、?』
『遺書が何か、わかっていて』
『俺を訪ねているのに』
『死にません、?』
「はい!」
「私は生きるので」
「だから、遺書代筆をお願いしたいんです」
その日、彼の運命は大きく変わった
遺書を書いてと頼むのに
遺書を書いてと頼むのに
代筆屋としての彼にとって初めての、理解できない少女
生きるので、という言葉は気になった
でも仕事は仕事だ、遂行しなければならない
少女は毎日彼を訪ねた
「今日は何の話?」
『お好きな色は?』
「本当にそれが役に立つの?」
『遺書を書くんだ、本人の気持ちを理解しないとね』
「赤」
『赤か、俺も好きだよ』
『……昔からね』
「赤は血の色だよ、お兄さんも血が好きなの?」
『赤といえば普通夕焼けや花とかじゃないか?』
『まぁでも、血の色でもあるな』
『鮮やかな赤は、とても綺麗だから』
「まるで大量出血したみたいな言い方」
『どこをどうしたらそこに行き着くんだよ…』
『じゃあ次、好きな食べ物は?』
「胡瓜と茄子」
『胡瓜はわかるが、茄子は何故だ?』
「私は夏が好きなんだ」
『その質問はしてないけどな』
「いいでしょ、私のこと知りたいなら手間が省けてよかったじゃない」
『じゃあ次の質問な、これは大事だ』
『お前は、好きな人いるか?』
「いや、若い女の子に聞く質問じゃない!!」
「どこが大事なのよ、恋バナしたいの?」
『そういう意味ではない』
『お前が死んだあと、悲しんで欲しい人はいるか?』
『お前の大事な人はいるか?』
「…聞いて何に使うの」
『好きな色とかよりもずっと、大事なことだ』
『誰へ届けるか、これは1番重要かもしれないからな』
「好きな人はいないよ」
『そうか』
『今時の子はみんないるのかと思ってたぞ』
「お兄さんだってまだ高校生くらいでしょ」
「充分今時の子よ」
「みんなみんな好きな人がいるとか思わないことね」
『わかった』
『そして、悲しんで欲しい人はいるか?』
「悲しんで欲しい人か…」
「私が死んだら、あの人は悲しんでくれるのかな」
『いるのか』
「いないといえば、嘘になるかもしれないってだけ」
「お兄さんとは関係ないの」
『関係ない、か』
『大事な人はいるか?』
「大事な人は、いない」
「いたかもしれないけどね」
『なるほどな』
『今日はもう帰れ、日が暮れると危険だ』
「また明日来るよ」
『完成するまでは通ってくれなきゃこっちが困る』
「はいはい」
少女が帰ったあと、彼は1人考えていた
胡瓜と茄子は精霊馬
夏はお盆
いたかもしれない
大事な人は、既に死んでいると考えるのが妥当か
そして、あの人…
まだまだ完成しそうにないな、しばらくはこの仕事にかかりっきりか
睡眠は…ま、いいか
睡眠も同様だ
彼女を再現する、俺の仕事を遂行しろ
文字通り命懸けてるからな
翌日
少女はまた彼を訪ねた
その翌日も
またその翌日も
少女が初めて彼を訪ねてから、7日が経った
彼の仕事がここまで長引いたのは、初めてだった
「そろそろ完成しそう?」
『お前の大事な人と悲しんで欲しい人が詳しくわかれば完成するぞ』
「それは言えないなぁ」
「乙女の秘密ってやつだからさ」
『それを知るまでこれは完成しない』
『言いにくいのはわかるが、教えて欲しいんだ』
『仕事、だからな』
「言いにくいのは、死んでるからじゃないんだよ」
「私の母さんも、貴方に遺書を書いてもらったから」
「それで死んだの、3年前」
「お兄さんには教えたくなかったのにさ」
『…俺が書いた、か…』
『そうか、そうだよな』
『わかってたことだ』
「ブツブツ何考えてるのかはわかんないけどさ」
「私は生きるよ」
「今一度依頼しておこうか?」
「私は生きる」
「だから遺書を書いてくれ」
『わかってるさ』
『仕事だ、ちゃんとやる』
『情報をまとめたい、また明日来てくれ』
「はーい」
彼は1人、椅子に腰掛けていた
眉間には皺がより
書類を眺めつつ、紙へと何かを書き出していく
『ふぅ…』
一息つく
過去の依頼者名簿から探した、彼女の母親を
結果、それらしき人物を見つけた
最期の遺書まで、娘思いだった母親だ
大事な人は特定できた
あとは、悲しんで欲しい人さえわかれば…
わかれば、完成する
そしたら仕事は終わりだ
終わりたくない、な
『ははっ、!』
『俺もおかしくなったか?』
『終わりたくない、って思っちまったろ』
『それじゃダメだ』
『仕事は明日で終わらせる、あの人ってのは誰か聞き出す』
『じゃないと…』
いや、考えなくていいか
そして翌日
少女は彼を訪ねた
これがの最期の訪問になるとも知らずに
「来たよ」
『あの人、とは誰のことだ?』
『それがわかれば、書ける』
『終わる、終わりになる』
『教えてくれ、あの人のことを』
「本当は言うつもりなかったの」
「母さんのことも」
「でもお兄さんがあまりにも真剣だから、話しちゃったよ」
「しょうがない、話してあげるよ」
「あの人は私の父さん」
「私のことを嫌いなね」
「私が死んで悲しんでくれるなら、あの時のことは嘘じゃなかったって」
「あの言葉は嘘じゃなかったって、わかるから」
「悲しんで欲しいよ、世界で1番悲しんで欲しい」
「そしたら悲しむ父さんを見ながら、天国で母さんと笑い合うの」
「生きるから、それは無理だけどね」
「話は終わり?」
「はやく書いてよね、そろそろ変な噂立ちそうだし」
『最後の質問だ』
『お前は、死にたいと思ったことはあるか?』
「あるよ」
「ある時期は毎日死にたかったし」
「でも生きる」
「じゃ、次来る時は完成してることを期待しとくね」
「またね」
『…さよなら』
「そんな今生の別れじゃないんだからさ」
「悲しそうな顔しないの」
「じゃあ、また明日」
少女が帰ったあと
彼は椅子に腰掛け、何かを書いていた
だがその手は重く
額には汗が滲む
『クソッ』
いつもなら進むはずの腕が進まない
いつもなら回る頭が回らない
いつもなら書ける、遺書が書けない
『何でだよ』
『……そうか、死なせたくないのか』
『遺書代筆屋に遺書を書かれた者は、近い内に死ぬ』
『抗いようのないルールだ』
『俺は遺書を書き、人を殺す』
罪悪感がないわけじゃなかった
でもそんなもの飲み込んだ
そうしている内に、罪悪感というものは心の奥底に沈んだ
残っていたのはただ、役割を果たす
ちゃんと書く
それだけだった
なのに、
…生きると言った、彼女の顔が脳裏に過る
忘れられない
真っ直ぐな目
彼女の少し変わっている、好きの見つけ方
全てが脳にこびり付いて離れない
書かないといけない
なのに、なのに、どうして
俺は書けない、そう思ってしまっているんだ
…嗚呼、そうか
覚悟を決める時、か…
元々俺は、干渉してはいけない
これはただの、延命措置のようなものだ
彼は再び、紙とペンを取った
迷いのない手つきで、スラスラと書いてゆく
『書けた、か…』
彼は立ち上がり、背を伸ばす
『達成感が、今までの比じゃないな』
『初めてだよ、こんな気分は』
机の上にあったのは、遺書ではなく
1通の手紙だった
『…最期の仕事が、君でよかったよ』
翌日
少女が彼を訪ねても
彼はいなかった
「何で…?」
「約束したよね」
「また明日って、」
「何で、ここにいないの?」
少し探したあと、少女はサイトを見る
「ない…」
「確かに、依頼したのに…」
少女が家に着くと、1通の手紙が届いていた
「誰から…だろう」
『遺書を書けなくてすまない
俺は君に生きて欲しいと願ってしまった
だから、君は未来へ
笑って、未来を見つめてくれ
俺には、もうできないことだから
君なら、まだできる
さようなら、永遠にね』
「…バカ」
「どういうことか、もっと説明してくれなきゃ」
「私じゃわかんないよ」
「私、楽しかったんだよ」
「貴方と話すの」
「あんな雑談できたの、初めてだから」
「私、嬉しかったんだよ」
「私のこと聞いてくれたことが」
「今まで、私のこと聞く人なんていなかったから」
「私、前を向きたかったんだよ」
「昔の自分に遺書を書いて」
「今の自分になる」
「なりたかったんだよ」
「新しい自分に……」
そして数日が経ち
少女の元に、1通の手紙が届く
彼のことは心配いらない
役目を果たせなかった者は還る、それだけのことだ
壊れた道具は捨てられる、それと似たようなものさ
そして、新たな遺書をご所望ならば、きっと新たなサイトを見つけられるよ
《遺書代筆屋 店主より》
あとがき
まず、玲威のノベコンにこれで参加します!
遅くなってごめん、上手く書けたかもわからん!
多分最下位だろうけどっ!!
そして読んでくれた方へ!
上手く書けたかもわからん、下手かもしれん、そんな俺のこの小説を読んでくれてありがとう!
じゃ、また別の話でね!
コメント
4件
びっ…くりした自分のノベコンか!!! 凄すぎるよ〜!!!めちゃくちゃ考えさせられる?みたいな!!! 参加有難うね〜!!!
え…すごぉ! なんか雰囲気?がいつもと違って面白かった!✨