カナリアが高笑いを上げた瞬間、ゾォっと巨大な黒い塊がカナリアを包み込んだ。
「なっ…………!!」
「これ…………闇魔法とかそんな次元じゃない…………! 魔族そのものよ………………!!」
その瞬間、レオが前に飛び出る。
「ルーク!!」
「うん、分かってる」
“草魔法・ショット”
ヒノトたちの前に、ルーク、レオの二人が飛び出し、ルークは咄嗟に、黒い塊に向けて魔法を放った。
“雷鳴剣・迅雷”
ゴォ!!!
そして、ルークの魔法発動に合わせ、レオは雷の剣をそのまま振り下ろす。
普段の雷の威力とは桁違いの音が鳴り響く。
「あれは………… “激化” …………!!」
リオンは、目を見張って声を上げた。
「激化……? またなんかの掛け合わせか……?」
「ああ、魔法属性の掛け合わせで、一番の高火力と言われている………… “草” と “雷” の激化反応だ…………!」
「草魔法なんて聞いたことねぇぞ…………!?」
「うん…………エルフ族にしか扱えない魔法だからね……。普通ならお目に掛かれないだろう…………」
ドゴォ!!
そして更に、上空からはソル・アトランジェが、狙い澄ましたかのように舞い落ちる。
“風攻撃魔法・ドライブスカイ”
ヒュオッ…………! と風が吹き荒れ、レオの雷を更に強力に叩き込み、自らの物理攻撃も与えた。
黒い塊からは、シュウ……と煙が籠る。
「つ、つーかお前ら!! 何割り込んでんだよ!!」
レオは冷静に振り向き、ヒノトに駆け寄る。
「貴様らがリゲルを鎮めてくれたから、今しか倒せる好機はないのだ。どうやら、ソルも分かっていたようだ」
「は……? 何をだよ…………」
「カナリアが…………魔族に洗脳されていることだ」
!!
「いや……洗脳魔法って、カナリアの魔法だろ……?」
「ふっ、洗脳魔法使いが、魔族により洗脳に掛けられていた…………本末転倒な話だ。まあだからこそ、魔族も身を隠しやすかったのだろうがな」
砂煙が立ち込める中、影の中から拍手の音が鳴り響く。
「うんうん、よく見破ったねぇ。流石はエリートくんたちだ。きっとこの国の未来は明るいだろう」
中からは、白髪に角と羽を生やした少年が出てきた。
「まるで効いてないか…………。アイツ…………カナリアを捨てて自ら出てきやがった…………」
「と言うか…………白髪…………? 魔族はみんな……黒髪じゃないのか…………?」
「アハハ! 魔族にだって色々いるさ〜! 全員が全員黒髪じゃないよ〜!! それに僕…………」
ニタっと笑うと、真っ黒な眼光で全員を見つめる。
その眼光に、圧倒的な実力差で全員は固まった。
「元魔族軍の四天王の一角だったんだ。君たちがどれだけエリートでも……恐るるに足らない」
そして、ズバッとレオを指差す。
「君、この前戦った時、その草魔法の子をわざと隠していたね。その前から僕のことを勘付いていた…………相当頭のキレる子だね…………。でも、あと一押し足らなかったかな。僕には “雷シールド” が常に着いている。雷を軸とする激化反応では、僕のシールドは削れない…………」
次に、ソルのことを指差す。
「君の判断もいいね。彼の雷魔法が切れる寸前、僕に風魔法を与えることで “拡散” を促し、自らの攻撃すらをも与えてみせた。流石は優勝候補と名高いだけはある。ああ、それに君は、あの聖職のアトランジェの息子だったね」
瞬時に自身に浴びせられた攻撃を、易々と解説しながら、爆発の魔族は余裕綽々と手を広げる。
「惜しかったね〜! 本当に! いい子たちが揃ってるじゃないか、キルロンドは! でも……でも…………」
そして、ニコリと笑みを浮かべる。
「僕には遠く及ばない…………!!」
ボン!!
瞬時に、ヒノトは魔族に飛び掛かる。
「俺たち全員、まだ負けてない」
ドゴォ!!!
ヒノトが迫った瞬間、腕を横に振るうだけで、ヒノトのことを吹き飛ばした。
「君…………確かに炎魔剣には強いかも知れないけど、その音がうるさすぎて、全然奇襲にならないよ…………?」
戦況は、刻一刻と変化していた。
ヒノト率いるDIVERSITY、カナリア率いる風紀委員の戦闘の中、リオンとリリムのサポートを駆使し、見事に炎魔剣で数多のソードマンを伏してきたリゲルを倒す。
しかし、その後、カナリアからは本物の魔族が現れ、それに勘付いていたレオ、ルーク、ソルの三人は、異変を感じた瞬間に魔法の連撃を叩き込むも、無傷。
リゲル、カナリアは気絶、風紀委員メンバー、シャマ、キャンディスも、呆気に取られ呆然としていた。
レオ、ソルも、実力差に身体を強張らせる。
ボン!!
「しつこいなぁ…………」
ドゴォ!!
何度も突撃しては、何度も振り飛ばされる。
動いていたのは、ヒノトだけだった。
(こんな中で、僕に何が出来る…………?)
リオンは、歯を食い縛り、手を強く握っていた。
(カナリア…………君を助けられなかった僕が…………弟にまるで及ばない僕が…………何を…………)
リオンは、カナリアとの記憶に想いを馳せる。
――
リオン、カナリア 13歳 ―――――― 。
二人は、剣術魔法学校で出会う。
「なあ、リオン様! アイツ “元王族” らしいですよ!」
リオンは、貴族院たちに囲まれて過ごしていた。
「へぇ…………名前は?」
「カナリア・アストレア! 洗脳魔法を使うとかって、気持ち悪がられてるんですよ!」
放課後、リオンは、コソコソと帰ろうとするカナリアに声を掛けた。
「ねぇ、カナリアくん」
「リ、リリリ、リオン様!?」
ひどく動揺を示すカナリア。
「その金髪…………みんなは洗脳魔法って言うけど、雷魔法を応用しているんだよね。凄いな、君は」
「そ、そんな……僕なんて気持ち悪いだけです……」
「え…………? 全然気持ち悪くないけど」
当時のリオンは、深く考えることを放棄していた。
でも、だからこそ、そんな些細な本音が、カナリアの心を強く動かしていた。
「ねぇ、カナリアくん」
「あの……リオン様………… “カナリア” でいいですよ。そんな……くんなんて付けられるほど…………」
「そうか! じゃあ僕はリオンでいいよ! と言うか、そんなこと言うなら、リオンって呼んでくれ! 僕たち、同い年だろ?」
(この人、チャラいとか、女たらしとか言われてるけど、みんな知らないだけなんだ……。ただ純粋に、優しくて明るいだけなのに。王族と言うだけで、この明るさがチャラさとして見られてしまっているんだ…………)
「リオン…………リオン!!」
「ああ……! カナリア!!」
それから、暫く二人は共に行動する時間が増えた。
「なあ、カナリアってなんで強くなりたいの?」
「守りたいんだ……人を……。王家争いの時、僕の父は魔族に殺されて、貴族院に落ちた……。その時、お父様は自分を守る兵士たちの身代わりに死んだんだ」
その顔は、誇らしくも、涙を浮かべていた。
「じゃあ、学寮に入ったらブレイバーゲームをやろう! 水と雷は相性がいい、同じパーティになろう!」
しかし、その夢は現実とならなかった。
学寮に入学して直ぐの頃だった。
カナリアは、嬉々としてリオンの元に向かう。
「ねえ、リオン! パーティ…………」
「ごめん、カナリア…………。僕はもう、戦いたくないんだ。どうせ僕は…………王族の落ちこぼれだから」
そうして背を向けると、またいつものように、ヘラヘラと仲間の輪に入って行った。
それから間も無くして、弱気なカナリアが風紀委員に所属した話を聞き、二人は全くの疎遠となった。
――
“雷魔法・ジャック”
「リオーーーーーーーーーン!!!!」
もう立ち上がれないカナリアは、手だけを上げ、魔族に雷魔法を浴びせた。
「雷魔法…………? 効かないんだってば」
しかし、リオンにはその声しか考えることはなかった。
“水放銃魔法・水針”
「カナリア…………!! 待たせたね…………!!」
そして、リオンから素早い水撃が放たれる。
”雷” と “水” が起こすのは ーーーー
“感電”
ジジッ…………
「クソッ…………感電か…………面倒臭い…………!」
感電は、一瞬だけ、相手を痺れさせる。
その一瞬が、
ボン!!
“陽飛剣・魔力豪弾”
ヒノトの攻撃を与えるチャンスとなった。
ボゴォン!!!
ヒノトの剣からは、膨大な魔力暴発が放たれ、衝撃によりヒノト自身も再び大きく吹き飛んだ。
しかし、全員の顔はハッとする。
攻撃は、確かに命中していた。
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