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「いい、マリちゃん。牛刀の使い方を教えるわね」


「えっ、なに? ぎゅうとう?」


ママは脇に携えていた包丁をすっと抜く。刃渡りがあるから短剣のようにも見える、これが牛刀。だけど到底コバルトファイヤードラゴンに届くとは思えない。


「牛刀は押し切りが基本なわけ。押しながら切る、ただそれだけよ。簡単でしょ。やって見なさい」


「うん、わかった……って、できるわけないでしょー!」


ママがいとも簡単そうに言うものだから、思わずノリツッコミしちゃったわよ。やめてよね、昨日切ったきゅうりとは違うのよ。コバルトファイヤードラゴンは剣も通さず魔法も弾くって、……行きずりのテイマーが言っていたのを覚えてるんだからね。


「きゃっ――」


ぶわっと一層強い風圧に思わず目を閉じた。木々がザザザっと折れそうな音を立ててしなっていく。

コバルトファイヤードラゴンが近い。


ママはまったく動じず、むしろ楽しそうにガハハとガサツに笑う。

何でこんな時に楽しそうなのかな。死ぬかもしれないのに。


「いーい? コバルトファイヤードラゴンは硬いって言われてるけど、ちゃんと攻略法はあるのよ。それはね、喉よ。マリちゃんが持ってる牛刀は、何でも切れる万能包丁なの。その包丁で喉を狙いなさい」


「喉……。でも喉なんて懐に入り込まないと狙えないよ」


「入り込みなさいよ」


「いやいや、だってあの大きな爪で一発でやられるって」


コバルトファイヤードラゴンの手足には大きくて鋭い爪がついている。あれに刺されでもしたらひとたまりもない。かすっただけで致命傷になりえる。


「もう、しょうがないわねぇ。アタシがアイツの眉間に魔力弾を打って動きを止めるから、その間に喉を掻っ切りなさい」


「さらっと怖いこと言ってるよ、ママ!」


「行くわよ、マリちゃん!」


ママはその大きな体とは思えないほど俊敏な動きで近くの木のてっぺんまでトントンとジャンプして登っていく。


「え、嘘っ。ま、待って~!」


わたしも負けじとそのあとに続く。

これでも一応昨日までは勇者。ある程度の身体能力はあるつもり。




へっぽこ勇者は伝説をつくる

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