第7話:誰にも見せない顔
その日から、オレと先輩は“いつも通り”を装った。
教室で目が合っても、
廊下ですれ違っても、
放課後になっても――
あの夜のことなんて、なかったみたいに振る舞って。
だけど、心のどこかで期待してた。
また優しく触れてくれるかもしれないって。
「なぁ葵、放課後って予定ある?」
そう声をかけてきたのは、クラスの友達――じゃなく、先輩だった。
「ちょっと、相談したいことあって」
誰にでも見せる“完璧な先輩”の笑顔で、オレに近づく。
周りの子たちがざわついて、羨望の視線を送る。
でもオレにはわかる。
それが全部“演技”だってこと。
そのまま生徒会室に連れ込まれたオレは、
ドアが閉まった瞬間、壁に押しつけられた。
「……限界。マジで、おまえのこと隠すの、しんどい」
低くて熱い声。
昨日の冷たさはどこにもなくて、代わりにあるのは――欲。
「おまえが誰かと喋ってるの、見るだけでムカつく。俺以外に笑うなよ」
「せ、んぱ……っ」
首筋に甘噛みされて、ぞくんと震える。
制服の中に手が入ってきて、胸元を撫で回されて――
「声、出すなよ? ここ、学校だろ?」
先輩の“本音”と“本性”が、
誰にも見せない生徒会室で、全部オレにぶつけられた。