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私を含む慈善活動の参加者達は、王城に招かれていた。
それぞれに部屋を割り当てられて、今日から数日間はここで過ごすことになるのだ。
初めは私も緊張していた訳だが、個室の中ではある程度落ち着くことができた。とりあえずベッドの上で、今はのんびりしている。
「……ああ、そうだ。お父様とお母様に連絡をしておかなくちゃ」
私は身支度を整えてから、連絡用の魔法を起動する。
とりあえず連絡するのは、お母様だ。お父様の方は執務の真っ最中だろうし、ここはまだ隙がありそうなお母様から連絡するのがいいだろう。
《……イルティナ?》
「あ、お母様。すみません、急に連絡を入れてしまって……」
《いえ、私の方は大丈夫よ。何かあったの?》
「ええ、実は王都の付近で魔物が大量発生しているみたいで、帰れなくなってしまったんです」
《魔物が? それは大変なことになっているわね……》
とりあえず私は、お母様にこちらの現状を伝えた。
現在は国王様の厚意で、王城に泊まらせてもらっていること。魔物の対処には、しばらく時間がかかりそうなこと。それらをお母様は、ゆっくりと聞いてくれた。
《事情はわかったわ。とりあえず、失礼がないようにね》
「はい、それは心得ています。あの、所でエルメラのことですが……」
そこで私は、妹に関することを聞いておくことにした。
彼女は私が家を出るのと同じくらいの時に出発して、パルキスト伯爵家に向かった。
そちらの方は、どうなっているのだろうか。まだ妹の思惑もわかっていないし、正直とても心配である。
《あの子のことなら、心配することはないわ。あなたは気にしないでいいから》
「そ、そうなのでしょうか?」
《ああ、これは別にあなたのことを軽んじている訳ではないのよ。ただ、エルメラはなんというか、天上天下唯我独尊、みたいな所があるから》
「それはそうですね」
お母様に言われて、私は思い出した。
よく考えてみれば、私所か両親だって、エルメラを制御できる訳ではない。結局今回の件は、彼女がどう着地させるかでしかないのだろう。そんなことは気にするだけ無駄なのかもしれない。
《……まあ、帰って来たら二人でお茶会でも開いて、そこで色々と聞いてみたらどうかしら?》
「え? ああ……いえ、その辺りのことはお父様やお母様に話すべきことですから、私は二人から聞きます。エルメラの時間を奪いたくはありませんし」
《えっと……私達の時間は、奪ってもいいということ?》
「あ、いえ、そういう訳では……」
《それなら本人から聞けばいいじゃない。人づてに聞くよりも、その方がいいでしょうし》
よくわからないが、お母様はとてもお茶会をすることを勧めてきた。
その様子を奇妙に思いながらも、私は連絡を終えるのだった。
◇◇◇
パルキスト伯爵家の領地の周辺で、魔物が大量発生しているらしい。
それによって、私は帰るに帰れない状況になっていた。
パルキスト伯爵の厚意で泊まらせてもらえることになった訳だが、この状況は私にとって良いものである。この家の内部に、深く入り込むことができそうだ。
「ブラッガ様、お隣によろしいですか?」
「え? ああ、もちろんだとも」
夕食の場において、私はブラッガ様の隣に腰掛けた。
婚約者であるのだから、その位置取りは当たり前だ。多分パルキスト伯爵家側も、想定していたことだろう。
ただ、私がブラッガ様の隣に腰掛けた瞬間、夫人の鋭い視線がこちらに向いた。
事前に散々煽ったお陰か、彼女の敵意はかなり大きくなっているようだ。
「いやはや、才女と名高いエルメラ嬢と食事をともにできるとは、光栄な限りだ」
「バルクス様、こちらこそ光栄です」
「兄上、僕の婚約者ですよ? 口説いたりしないでくださいね」
「信用がないな。流石の俺でも、そんな真似はしないさ」
ブラッガ様の兄であるバルクス様は、母親の様子にまったく気付いていなかった。とても気楽な様子で私に話しかけている。
それがまた気に食わなかったのか、パルキスト伯爵夫人は私を睨みつけてきた。どうやら彼女の執着は、長男の方にも向いているようだ。
しかし、パルキスト伯爵夫人の息子に対する思いは、決して健全なものとは言い難い。
いくら息子だからといって、こんなにも愛を向けるものなのだろうか。なんというか、少し引いてしまう。
別に家族を愛するということ自体は、悪いことではないと私も思っている。
ただ、そういったことは節度を守って行うべきことだ。夫人のように歪んだ愛情を向けるなんて、持っての他である。
例えば、私のお姉様に対する思いは、とても清らかだ。家族愛というなら、私を是非とも見習って欲しいものである。
もっとも、夫人がそのことに気付いた時には、既にことが終わっているだろう。せっかく私という偉大な見本があるというのに改める機会がないなんて、哀れなものである。
いや、哀れなんて思う必要はないか。お姉様を侮辱した大罪人に同情なんて不要だ。
「まあ積もる話もあるかもしれないが、食事を始めようじゃないか。冷めてしまっては、もったいないからな」
「ああ、そうですね、兄上。エルメラ嬢、遠慮せずに食べてくれ」
「ありがとうございます」
バルクス様の鶴の一声によって、食事が始まった。
料理を口に運びながら、私はこれからのことを考える。さて、この一家をどうやって叩き落すとしようか。