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次から次に問題が起こり、中々舞踏会へ向かう事が出来なかった。
妹のシルヴィはかなり苛立ちながら、馬車の乗り降りを繰り返していた。
リュシアンはその間、黙って座っていた。自分が降りた所で役に立つ訳ではない。侍従等に任せておけば問題ないと思ったからだ。
ようやく、馬車の調子も良くなり馬の機嫌も良くなった所で城へ向かう事が出来た。だがその頃には大分時間が経ってしまっていた。
致し方がない。だがリディアは大丈夫だろうかと心配をしつつ、安堵もする。
実は今夜、一世一代の覚悟を決めてきた。リディアに正式に結婚を申し込むつもりだ。この前は情けない言い回しで、あやふやな感じで終わってしまった……。
あれからリディアと会う機会はあったが、特に何も進展はなかった。まあ、友人なのだから当たり前だ。
今、彼女の取り巻く環境は頗る悪い。現時点では、物理的な大きな被害らしきものはない。だが今後はどうなるか分からない。そうなると彼女を守る盾が必ず必要となる。
リュシアンはそのリディアを守る盾になろうと決心した。自分ならば立場的にも相応しい筈だ。エルディー公爵家に楯突こうなど考える輩は、そうはいない。水面下でこれまで手は回していたが、やはり友人という立場では限界がある。
ーーリディアを妻に迎えれば、堂々と彼女を夫として守る事が出来る。
城にようやく辿り着き足早に広間に向かえば、彼女が見知らぬ女から突き飛ばされている瞬間に遭遇した。
頭に血が上りそうになるのを堪えて、足を一歩踏み出すも一瞬躊躇ってしまった。下らない思考が邪魔をする。あんなに覚悟を決めていた筈だった。だが、水面下で庇うのと、公の場で庇うのでは意味合いがまるで違う。
人々の視線がリディアへと集中している。思わずリュシアンは息を呑んだ。
これからの自分の立場が正直どうなるか……頭を過ぎってしまった。
いくら公爵家嫡男であろうと万全ではない。何が起こるか分からない。それが他者を虐げ隙あれば蹴落とそうとする貴族社会というものだ。
ようは大勢の人々を目の当たりにして、臆したのだ。
情けない。到着するまでの間はあんなに息巻いていたのに……。自分自身の小心さと愚かさが嫌になる。
助けなくては……リディアの盾に自分がなるのだと拳を握りしめた。そんな時だった……。
彼が、颯爽と現れた。
彼は何と無しに、至極当然のように彼女を守った。彼にとっては妹なのだから当たり前かも知れない。だが、どこか違和感を覚えた。
彼は冷酷非道と裏社会では有名な話だ。自分自身の有益の為ならなんだってする男だ。彼の父、前代のグリエット侯爵を殺したのは彼ではないかとすら噂される程だ。そんな彼が妹を、まして血の繋がりのない妹を庇うだろうか。この場で彼女を庇うという行為は、彼にとってどう考えても有益になるとは思えない。
彼の立場から考えるなら、リディアの事は切り捨てる。それが一番効率も無駄もない。
(それなのに……何故だ)
そんな疑念が確信に変わったのは、彼が彼女を抱き締めた時だった。
ーー彼のあれは、妹を見る目ではない。
そう感じた瞬間、全身が脈打ち汗が背を伝うのが分かった。
彼は彼女を外套で隠し、周囲の視線から遮断した。まるで彼女は自分の女だ、見るなと言わんばかりに……。
すれ違い様、言い知れぬ敗北感を味合わされた。彼は、眼中にないのだろう。リュシアンを一瞥すらしなかった。その事に強い憤りを感じた。