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「信じられない。今週一週間、ずっと雨だって」
焼いたトーストの上でバターが滑っていく。
彼がお皿をトーストの下に置き、滑り落ちたバターをキャッチした。
「ああ、華怜さん、雷が駄目だっけ」
彼もテレビの天気予報を見ながらクスクス笑っている。
「なんで知ってるの!?」
「中学の時、話したよ。台風が近づいた時」
サラダをお皿に盛りながら「お」とテレビを見て目を見開く。
「木曜に台風接近。けっこう中心まで来る」
「県外に脱出したい」
台風の日、予約が入ってるけど来るのかな。
マンションの下でバス停を睨みつけバスが着た瞬間走って乗れば、店の前まで雷に合う確率は減るけれど、正直を言えば予約がないなら休みを頂きたい。
「県外に脱出なら、沖縄に別荘があるよ」
「沖縄ってもっと台風が多い県じゃなかったですか!?」
無理!っというと、彼は楽しそうにククッと口元に拳をあてて笑っている。
「君を縛って沖縄に連れて行きたくなった」
「最低っ」
彼が笑う。棘がない薔薇のように、優しく爽やかで、隙がない。
もっと憎くて、空気が濁ったような、静まり返った朝食になると思っていた。
でも、これでエッチなしでただの同居人ってだけなら悪くないのかもしれない。
「華怜さん」
同い年で同級生にもかかわらず、距離感を保つ呼び方も嫌いではない。
本当なら、むず痒い呼び方なんだけど、辻さんのちゃん付けよりは好き。
「祖母が野菜を届けてくれるらしいんだけど、一階に届いていても重いから持って上がるのは俺がするからね」
「いつも段ボールいっぱいに届くけど、あんなに頂いて、お礼をしなくてもいいの?」
食卓に並ぶ新鮮な野菜サラダはほぼ、彼のおばあさまが育てたものらしい。
こちらで社長夫人として生きてきたおばあさまが、田舎で野菜を育てているなんて大変だろうに。
「信じられないぐらい壮大な土地を買い、人を雇って隠居しても会社経営してるような人だ。まあ、今度機会があったら会ってやって」
楽しい人だよ、と笑う。
彼はいつもにこやかで、穏やかで、人の悪口を言うような卑しさもなく、嫌いになる部分が見当たらないのである。
「あんた、結婚するの?」
白鳥さんが、私の顔を見るや否やそう告げてきた。
「ええー?」
「最近、店にしつこく来てたイケメンと手を繋いで帰ったと。美香ちゃんが言いふらす前にちゃんと説明しときな、ほれ」
美香さん、昨日酔っぱらってたんじゃなかったの。ちゃんと見てたのか。
驚きつつも、控室のソファに座ってにやにやこちらを見ている美香さんは悪い顔をしている。
「朝起きたら、髭が伸びた雄みたいなママと抱き合ってラブホにいたのよ? この嬉しくない展開は、貴方ですっきりさせてもらう」
「ううー。昨日の人は、親が決めた婚約者で今は、お試し期間みたいな」
一応、拒否権はないし、私は頭に血が上りカッとなって名前も印鑑も押している状況だ。
「じゃあ彼が、男性恐怖症が治った張本人?」
「でも何か大きなきっかけがあったから直ったわけじゃなく、なぜか気づいたら彼は平気で、でも辻さんも平気で」
「辻は駄目」
「辻さんはやめといて」
白鳥さんと美香さんが同時に辻さんを否定した。
美香さんは自分が狙うからだとしても、白鳥さんはあいつは駄目だという意味だと思う。
砂原 紗藍
#再会