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カメラ 畠山 里香
後ろの方へと誰にともなく私は叫んでいた。息切れが限界まで来てしまった。呼吸が苦しい。
でも、立ち止まるわけにはいかない。
足が震えて身動きがとれなくなってしまう。
このままだと……。
突然、後ろの方からガソリンの物凄い揮発臭がした。
「うっ!!」
慌てて走りながらハンカチを取り出し、口と鼻に押し当てる。途端に息苦しさが増したことを恨んだ。出入り口らしい場所を見つけた。さっきまでいた男子トイレから50メートル間隔に上へ向かう階段が連なっていた。まさか、この建物内で放火をするわけではないはずと思っているが、私は必死に向かっていた。階段は粗雑な木材でできていて、踊り場がなく。遥か上へと一直線に伸びていた。岩見さんはこんなところから降りてきてくれたんだ。とても有難いと思うと同時に、誰かの狂気に恐ろしさと悔しさがでた。不思議と涙はでなかった。
「あ!」
木材でできた階段にたどり着くと、遥か向こうにエレベーターが見えた。至る所に「危険」と黄色い警告テープが張り付いてある。私はあそこからこの建物から謎の空間である地下へと行けるのだろうと思った。ガソリンの揮発臭が更に酷くなった。鼻が曲がりそうだった。誰かの足音が近づいてきた。私は必死に上へとあがる。だが、ハンカチで口と鼻を抑えて木材でできた階段を上っているので、足のバランスを崩して下に転げ落ちてしまった。新聞紙だらけの床に背中から落ちると、追ってきたものと目が合った。
「え!?」
…………
私の中で一瞬だけ時間が止まった。全身が総毛だつ恐ろしさと意外さで、飛び上がった。無我夢中で階段を駆け上がる。何故? どうして?! どうして……生きているの?!
出会ったことはなかった。ただ、目元や口辺りがよく似ているのだ。西村 研次郎に……。
私は木材でできた階段を登り切って、様々なポスターが貼られた壁のような扉を開けた。
廊下へとでると、普通の傘置きや花瓶がおいてある玄関が目の前にあった。
ここは……?
……ここは……確かに西村 研次郎の家だ。
一度、来たことがある。
私は荒い呼吸で外へと出ると、助けを求めるため道路を走り交差点を過った。
確か交番がこちらにあったはずだ。
後ろで大きな爆発音と共に黒煙が上がった。
振り返ると、さっきまでいた西村 研次郎の家が真っ赤に燃えていた……。
―――――
「え? 誰もいなかった?! どういうことなんですか? 刑事さん」
「いえ、ねえー、あの家にはもともともう何年も人は住んでいないんです。生活などの痕跡もまったく見当たりませんし。そこに誰かがいたとは到底思えないんですよ。でも、どんな些細なことでもいいので……詳しくお話したいと思っております」
私と刑事さんは、喫茶店の窓際のテーブルで向かい合って話していた。あの火災からしばらく経っていた。今では建物火災は鎮火し、私は大学時代まで運動が大好きだったせいか、身体は丈夫だった。コーヒーを頼んでいるが、まだ来ない。