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柘榴とAI

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#探偵
橘靖竜
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「この中に本当の秘密があるんですね!」
勇太は興奮を抑えられず、大声をあげた。
「そうだね。たぶん」
「たぶん? 中のことを知らないんですか?」
「うん。パスワードがわからないから、これ以上は入れないんだ」
「なんですか、それ……。がっかりですね」
「がっかりですね」
勇信も続いた。
「ぼくもすごく残念に思ってるよ。中が気になるけど、もうこれ以上は行けないんだ」
「パスワード、適当に押してみますね」
ドアロックに触れようとした勇太の腕を、堀口がつかんだ。
「押しちゃダメだ。あと1回パスワードを間違えたら、とんでもないことになる。たぶんだけど、怖い大人がやってきて、ぼくたちみんな連れ去られちゃうよ」
「連れ去るとか無理です。ぼくたちが誰だかわかってるんですか?」
「もしいきなり殴り殺されたらどうする?」
「そんなことするはず……ないですよね?」
勇太が恐る恐る言った。
「それは冗談だとしても、本当にどうなるかわからない。だからもう、これ以上パスワードを間違えるのは危険だ。ぼくら3人とも、まだ子どもなんだから」
勇太と勇信は、固く閉ざされた扉をじっと見つめた。
心の中に強い好奇心が湧き起こっている。
しかし、やはり恐怖には勝てなかった。
「ここまでが、ぼくの秘密基地さ。もしこの中に興味があるなら、もっと大きくなってから来ればいい」
「仕方がないですね……ここまでか」
勇太はあきらめたように言った。
「ねえねえ、これってなんて書いてあるの? えいごだから読めないよ」
勇信が、錆びた扉に書かれた文字を指さした。
——VISTA.
「ブイ、アイ、エス、ティー、エー」
勇太が、スペルをひとつずつ読んでいく。
「それも合ってるけど、ちょっと違うかな。これは、ビスタって読むんだよ。たぶん何かの施設さ。つまり、ぼくの秘密基地の名前は、ビスタってわけさ」
「……ビスタ」
*
ビスタ。
記憶の奥底にあった蓋が、突然開いたような気がした。
強い日差しと、錆びついたメリーゴーランド。
カボチャ馬車の下に開いていた円形の穴。
そこから吹き出していた、冷たい空気と湿気。
はしごを降りた先にあった通路。
テントと、最奥にあった鉄の扉。
——VISTA.
「ビスタ……。あのときの、あの中学生だったのか」
堀口が警備員に連れ去られたあとになって、勇信の記憶がようやく蘇った。
「魚井秘書! すぐに堀口さんの履歴書を確認したい。それと、堀口さんが送ってくれた事業企画書を、こっちに転送してくれないか!」
「はい。承知しました、常務」
執務室のモニターでは、兄の演説が続いている。
『正義は常に勝つのです。では、いったい正義とはどういったものでしょうか。私にとってそれは変化であり、また変化を牽引するものこそが原動力です』
ポジティブマンは、モニター画面を見つめながらつぶやいた。
「兄さん、どうしてしまったんだ? ターボエンジンのついた人材だけを登用して、他を排除するつもりか。そんなことをすれば、熱すぎて会社全体が溶けてしまう。あの廃墟になった遊園地のように」
暑い太陽光を浴び、今にも溶けそうだったメリーゴーランド。
耳を刺すようなセミの鳴き声。
それらが、現在の勇太の声と重なって聞こえた。
『我々吾妻グループは必ず勝利します。改革を通じ、また会社にこびりついた悪縁を断ち切ることで、大きく成長するでしょう』
「本当に別人になったようだな。いや、むしろ子どもの頃の、気の強い兄さんを見ているみたいだ」
幼い頃の勇太は気が強く、リーダーの気質があった。
しかし大人になり、副会長となってからは、その印象は180度変わった。
受容と寛容。
それが、吾妻勇太副会長を語るときの言葉だった。
「それにしても、どうしてあのときのことを突然思い出したんだろうか」
ポジティブマンは、机の上をコンコンと指で叩きながらつぶやいた。
変わってしまった兄。
強制的に連れ去られた堀口。
そして、ビスタという名前。
そのすべてが、記憶の引き金を引いたのかもしれない。
『私のスピーチは以上です。それでは皆さん、通常業務に戻ってください』
そうして、緊急生配信は終了した。
ポジティブマンはモニターの電源を切り、目を閉じた。
ゆっくりと記憶の紐をたぐり寄せ、頭の中へ落とし込んでいく。
ここが、ぼくの秘密基地。
ブイ、アイ、エス、ティー、エー。
ビスタ。
メリーゴーランドの下にある地下施設、ビスタ。
堀口の秘密基地は、ビスタの扉の前で終わった。
勇太と勇信は、結局あきらめきれなかった。
力まかせに扉を開けようとした。
しかし固く閉ざされた鉄扉を、幼い子どもの力で開けられるはずもなかった。
3人は結局、鉄のはしごを登って地上へ出た。
堀口は地下施設の蓋を閉め、その上に丁寧にシートをかぶせた。
「どうだった? ぼくの秘密基地」
「あの扉の中に入れたら、秘密基地だって認めてあげますよ」
勇太の表情は、もとの冷たいものへと戻っていた。
「わかったよ。遅かれ早かれ、あの扉を開く方法を見つけておく。君たちがまたここに来たら、ぼくがビスタに招待してあげるさ」
「うん、またくるね」
3人は小指をからめ、男と男の約束を交わした。