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扉を閉めて、背を預ける。
「……はぁ……」
息を吐く。
心臓が、まだ速い。
さっきの戦闘。
そして――あの一瞬の視線。
「……助けるなら、最後まで普通にやれよ」
小さく毒づく。
だが。
体を見下ろして、気づく。
腕。
浅く裂けている。
「……いつの間に」
戦闘中にやられたのか。
血が、じわりと滲んでいる。
大した傷じゃない。
だが、放っておけば面倒だ。
「チッ……」
そのとき。
コン、と。
扉が軽く叩かれる。
「……入れ」
警戒しつつ言う。
ゆっくりと、扉が開く。
入ってきたのは――ノスフェラトゥ。
「……」
無言で近づいてくる。
その手には、布と何かの瓶。
「腕」
短く言う。
「出せ」
「……は?」
一瞬、意味が分からない。
だが視線が傷に落ちているのを見て、理解する。
「……自分でやる」
反射的に拒む。
距離が近すぎる。
さっきのこともある。
だが。
「無理だ」
即答。
「雑菌で腐る」
淡々とした声。
そして。
有無を言わさず、腕を掴まれる。
「おい――」
「動くな」
低い声。
その一言で、体が止まる。
仕方なく、力を抜く。
「……チッ」
ノスフェラトゥは布を水で湿らせ、傷口を拭う。
「……っ」
しみる。
思わず顔をしかめる。
だが。
その手つきは――
驚くほど、丁寧だった。
荒くない。
無駄に痛めつけることもない。
必要な分だけ、触れる。
「……慣れてんな」
ぽつりと呟く。
「……」
返事はない。
ただ、作業を続ける。
薬を塗る。
包帯を巻く。
その間。
距離が、近い。
息がかかるほどに。
「……」
ふと、視線が落ちる。
首筋。
さっき、自分が噛まれかけた場所。
「……」
ノスフェラトゥの動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
気づいたのか。
それとも――
同じことを思い出したのか。
「……見るな」
低く、呟かれる。
「は?」
「……」
それ以上は言わない。
だが、わずかに顔が逸れる。
距離は、変わらないのに。
「……」
沈黙。
妙に、落ち着かない空気。
やがて。
包帯が巻き終わる。
「……終わりだ」
手を離す。
距離が、少し開く。
その瞬間。
なぜか――
少しだけ、物足りなさが残る。
「……」
自分でも意味が分からない感覚に、眉をひそめる。
「……助けたのも、これも」
ぽつりと、言う。
「全部、“餌の管理”か?」
少しだけ、試すように。
ノスフェラトゥは、数秒沈黙したあと。
「……そうだ」
短く、答える。
即答。
迷いもない。
「食材は丁寧に扱う」
皮肉のような言い方。
だが。
その言葉のあとに。
ほんのわずか、間があった。
「……ふーん」
それ以上は、突っ込まない。
ただ。
目を細める。
「……じゃあ、せいぜい美味くなってやるよ」
軽く笑う。
挑発とも、冗談ともつかない声。
ノスフェラトゥは、それを見て――
ほんの一瞬だけ。
視線を逸らした。
「……勝手にしろ」
背を向ける。
扉へ向かう。
だが。
出ていく直前。
「……死ぬな」
ぽつりと。
それだけを残して。
扉が閉まる。
静寂。
pizza guyは、巻かれた包帯を見る。
「……なんだよ、それ」
小さく呟く。
“餌”に向ける言葉じゃない。
分かっている。
それでも。
否定しきれない何かが、そこにあった。
「……めんどくせぇな」
ベッドに倒れ込む。
天井を見上げる。
心臓が、少しだけ――
落ち着かないままだった。