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目が覚める。
一瞬、どこか分からない。
天井。石の壁。静かな空気。
「……あぁ」
思い出す。
城。吸血鬼。
そして――生きていること。
ゆっくり起き上がる。
体は、昨日より軽い。
「……マシだな」
腕の包帯を見る。
きちんと巻かれている。
その事実が、妙に引っかかる。
――コン。
軽い音。
扉が開く。
入ってきたのは、ノスフェラトゥ。
無言のまま、机に皿を置く。
「食え」
それだけ。
「……」
視線を落とす。
そこにあったのは――
簡単なパン。
少し固そうだが、ちゃんと食べ物だ。
「……昨日より質素じゃねぇか」
ぼそっと言う。
ノスフェラトゥは肩をすくめる。
「十分だ」
「……まぁな」
席に座る。
パンを手に取る。
少し、重い。
かじる。
「……」
噛む。
飲み込む。
悪くはない。
だが。
――何かが違う。
「……」
もう一口。
咀嚼するたびに。
妙な感覚が、胸の奥に引っかかる。
そして。
ぽつりと。
「……ピザ、食いてぇな」
無意識だった。
言ったあと、自分で少し驚く。
「……」
ノスフェラトゥの視線が、わずかに動く。
「それは何だ」
「……あ?」
「“ピザ”」
その問いに。
言葉が、少しだけ詰まる。
「……知らねぇのかよ」
「知らない」
即答。
当然のように。
「……」
パンを見下ろす。
そして。
ゆっくり、口を開く。
「丸いんだよ」
言葉を探すように。
「生地があって、その上に……色々乗せる」
チーズ。肉。野菜。
浮かぶ。
匂い。熱。音。
「焼いて……」
そこまで言って。
――止まる。
「……」
頭が、痛む。
断片が、急に濃くなる。
笑い声。
店の明かり。
誰かが呼ぶ声。
「……っ」
手が、わずかに震える。
「……おい」
ノスフェラトゥの声。
「……あぁ、悪い」
軽く頭を振る。
「……思い出しかけた」
小さく、息を吐く。
「多分、俺……それ作ってた」
「……」
ノスフェラトゥは黙って聞いている。
「ピザ屋でさ」
少しだけ、笑う。
「それだけは、覚えてんだよ」
誇るでもなく。
ただの事実として。
「……」
沈黙。
数秒。
そして。
「……なら」
ノスフェラトゥが口を開く。
「それが、お前の一部だな」
静かな声。
「失っていないものだ」
「……」
その言葉に。
少しだけ、目を細める。
「……あぁ、まぁな」
パンをもう一口。
噛む。
さっきより、味がする。
「……でもさ」
ぽつりと。
視線を上げる。
「餌扱い、やめろよ」
真っ直ぐ。
初めて、正面から。
「……」
空気が、止まる。
ノスフェラトゥの瞳が、わずかに細まる。
「……理由は」
低く問う。
「気に入らねぇ」
即答。
「それだけだ」
シンプルで、逃げない言葉。
「俺は、生きてる」
パンを机に置く。
「食われるためだけに生きてるわけじゃねぇ」
静かに。
だが、芯は強い。
「……」
沈黙。
長い、数秒。
そして。
ノスフェラトゥは――
わずかに、息を吐いた。
「……訂正はしない」
冷たい声。
だが。
「だが」
ほんの少しだけ。
「それだけでもない」
曖昧な言葉。
はっきりとは言わない。
だが。
完全な“餌”の扱いでは、もうなかった。
「……」
pizza guyは、それを聞いて。
ふっと、鼻で笑う。
「……中途半端だな」
「……そうだな」
短く返す。
否定しない。
その空気が。
ほんの少しだけ――
昨日より、軽かった。