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パシッ!
エウリの平手打ちが爽快な音を立ててすまないの頬に炸裂した。
「ばか……ダメだと思ったらすぐに逃げてって言ったのに……」
すまないは僅かに首を傾げて
「……痛く……ない……」
と呟いた。エウリは目を見開いた。
(確かにさっき平手打ちした時眉ひとつ動かさなかったけど……)
「……そうなのね……ごめんね」
さっき叩いた頬にそっと触れる。エウリの右手がまだジンジンと痛いのですまないの頬はもっと痛いはずだが、やはり触れても顔色ひとつ変えない。
「……すまない君。すまない君自身は痛くなくても体の限界はあるから、それを覚えるようにしよ?ね?」
しかし、すまないは首を傾げるばかり。それも仕方ない事である。痛みを感じないと体の限界も分からないからである。
(……にしてもどう教えようかしら……?)
エウリは戦闘などに関してはド素人だ。しかも、エウリがずっと護衛を拒否して来たせいで顔が効く兵士達も居ない。
(……こんな所で仇になるとはね……)
エウリは頭を抱えるハメになった。
(……無痛症ね……)
クルカはドアの外で話を聞いていた。
(……変に護衛に任命されて面倒だったけれど)
クルカは微かに口角を吊り上げた。
(……どうせ“すぐ死ぬわ”……)
そっと扉の前から離れる。足音を殺して歩きながら自室に向かう。
(……Mr.すまないが死ねばエウリ様も護衛をつける事を拒否しなくなる)
自室に入り小さく笑う。
「……そうなれば全てヨルムンガンド様の想いの通りよ……」
クルカは紙とペンを取りヨルムンガンド宛にMr.すまないが起きた事と無痛症である事を伝える文書を書いた。ついでに今後の指示を仰ぐ旨の文も添えた。窓の外に居る鳩の足に紙を括り付け、ヨルムンガンドの居る蛇一族の城に向けて飛ばした。
「うーん……」
エウリは屋敷の書斎から色々と本を持って来ては調べるが、個人差のある体の限界を一律に求める事はできないようだ。どの本も自分で分かる事を前提として書いてあるためすまないに合う論述を見つけられない。
(……自分で自分の事を決められない……かつ無痛症……今の状態は壊滅的ね……)
ベッドで眠るすまないの頭を撫でる。
(生理現象として限界を迎えれば死に至る前に何とかなるけど……いざとなると体は限界を無視して動き続ける……そうなった時が危険ね……普段から無茶してると体がその限界を突破した時に保たなくて壊れちゃうから……)
「こればっかりは感覚で覚えさせるしかないのかなぁ……?」
きっと《訓練して覚えろ》と“命令”すればすまないは言う通り訓練して覚えようとするだろう。しかし、訓練を通して限界を覚えるため訓練中は限界が分からず倒れてしまう恐れもある。エウリとしてはそれは避けたい。
「すまない君……貴方はどうしたいの?」
その言葉は静かな部屋に冷たく溶けた。
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