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このドキドキに、名前を付けたくなかった
『……ここ、誰もいないんですね。』
体育館のステージ裏の仮設控室。
文化祭前日の準備を終え、
先輩達は校舎に荷物を取りに行っていた。
でも、私とあっと先輩だけが残ったのは、
たまたま……なのかな?
あと
「うん、今のうちにセリの動きと照明、
ちょっとだけ確認しようと思って」
そう言って、機材チェックをしていた
あっとくんは、ふと私のほうを振り返った。
あと
「月ちゃん、疲れてない?」
『……平気です、
昨日より、少し楽しいかもしれません』
それは、きっと本音だった。
あのにぎやかな先輩たちの中にいても、私は浮いてると思ってた?
けど、誰も私を”変な子”なんて言わない。
むしろぷりっつ先輩は、
「月ちゃんがいないと準備進まない!」
って冗談っぽくわらってくれたし、
まぜ太先輩には、
「さりげなく気配りできる子って
なかなかいないよな」
って言われた、
ーーそして、あっと先輩は。
それとは、少し違う。
あと
「ねぇ、月ちゃん」
『はい?』
あと
「なんかさ、最初に話しときより……
表情、柔らかくなった気がする」
『……そうですか?』
あっとくんは、軽く笑って、ペンライトを
指先でくるくる回した。
あと
「うん。最初の頃、
どっか無理してるような顔だったから」
ドキッとした。
見透かされてた。
笑おうとして笑えてなかったあの瞬間を、
この人はちゃんと見てたんだ。
『……なんで、そんなに私に構うんですか』
口に出してから、すぐに後悔した。
でも、先輩は少しも困った顔をしなかった。
あと
「んー……
自分でもよく分からないんだけどさ、」
少し照れくさそうに笑った顔が
なんだかいつもよりも真剣で、
私の胸がまた高なった。
あと
「君のこと、
もっと知りたいって思っちゃんうんだよね 」
ズルい、って思った。
そんな事言われたら、
私がこの気持ちに気づいてしまうから。
胸がこんなに熱くなって、苦しくなって、
声を聞くだけで嬉しくなってーー。
これが、恋なんだって分かってしまうから。
『……私、そういうの、向いてないですよ』
あと
「向いてないとか、あるの?」
あっとくんが1本、近づいてきた。
『恋とか、誰かを好きになるのとか……。
私、わかんない』
あと
「分からないなら、
俺が教えるって言ったじゃん」
優しい声。
包み込むみたいな声。
でも、その奥には、
もっと熱い何かがあった。
『……怖いです、』
あと
「俺も、怖いよ」
『え……』
あと
「月ちゃんに触れて、もっと知りたいって
思う度に、自分がどうなっちゃうのか
ちょっと怖い」
心が、もう何度目か分からない音を立てる。
あと
「でも、それでも、
近づきたいと思うよ。」
あっと先輩の手が、そっと私の手に触れた。
ほんの少し、指先が重なっただけなのに。
私の世界が、ふっと揺らいだ気がした。