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君を想う痛みを、まだ”好き”とは呼べなくて
あと
「ねぇ、月ちゃんって、
俺の事嫌いになった?」
体育館裏の通用口。
夕日が差し込む静かな場所で、
あっと先輩は、珍しく弱い声でそういった。
私は返事ができなくて、
ただスカートをギュッと握った
あと
「俺、何かした?
もしかして、無理に距離縮めすぎた?」
『違います』
あと
「じゃあなんでーー」
『あなたが優しいから、です』
その言葉がこぼれた瞬間、
あっと先輩の表情が止まった
あと
「……え?」
『優しくされたら、期待しちゃうんです。
自分が特別になれるんじゃないかって。
でも、それがただの”気遣い”だったら、
私……、』
あと
「……それ、違うよ」
あっと先輩が1歩近づいて、
私の目を真っ直ぐに見つめた。
あと
「俺は誰にでもあんなふうにしてない。
君だから、気になるし、目で追うし、
話しかけたいって思うんだ」
『……嘘、です』
あと
「なんでそんなに、
自分のこと信じてないの?」
その言葉が、胸に刺さった。
『信じたくても、信じられなかった、
今までずっと。
愛されるってどういうことか
知らなかったから』
空気がひりつくように重くなった。
『だから、怖いんです。
今、先輩と話しているこの時間が、
幻だったらどうしようって』
あと
「……幻なんかじゃないよ」
あっと先輩の声は震えていた
『じゃあ、これは……何なんですか?』
私は、怖かった。
自分の中に芽生えた感情に、
名前をつけてしまったら、
戻れなくなる気がしたから
あと
「……わかんないよ。でも、俺も君と話すと
胸がぎゅってなる」
彼もまた、同じだった。
言葉にできない思いを抱えながら、
それでも私に
手を伸ばそうとしてくれている。
それだけで泣きそうになった。
『……これ、なんですかね、』
あと
「ねぇ、わかんないままでもさーー」
あっと先輩はそっと手を伸ばした
私の髪についたペンキを、
指先で
、そっと拭ってくれる。
あと
「好きって言葉、簡単に使いたくないよね 」
『……はい』
あと
「だから、焦らなくていいよ。
俺はちゃんと知ってく。
月ちゃんのこと、もっといっぱい。」
目が合った。
このまま名前を呼ばれたら
泣いてまうかもしれない
体育館に戻ると、みんなが賑やかに
ステージの装飾をしていた。
けち
「あ〜!あっちゃんと月ちゃん
どこ行ってたの〜!」
とけちゃ先輩が手を振って叫ぶ。
ちぐ
「ふふ、完全にいい雰囲気だったでしょ」
ちぐさ先輩がこっちを見てにやにやする
あき
「おかえり月ちゃん」
あっきぃ先輩の落ち着いた声が、
背中を支えてくれるようだった。
そして、ぷりっつ先輩が、わざとらしく
ぷり
「ステージの上だけじゃなくて、
恋も盛り上がってきたな〜?」
『ち、違います!!』
私は思わず声を上げて、顔を真っ赤にした
でもその横で、あっと先輩が、
小さく笑っていた
笑ってくれた。
たとえまだ”好き”と言えなくても、
この気持ちが、確かに生きてるってーー
そう思えた