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私の両親は、毎年夏休みになると、私を祖父母の家に預ける。
当然今年も例年通り、私は約一か月の間、母方の祖父母の家で過ごすことになった。
「未稀ちゃん、ご飯だよ」
祖母が夕ご飯の支度を終え、私を呼ぶ。
私と祖父は、一緒にご飯を食べ始めた。
その間、祖母は和室に布団を敷きに行った。
「未稀ちゃん、学校は楽しいか?」
祖父はぶっきらぼうだが、私のことを気にかけているのが分かる。
「楽しいよ。もう高校三年生だし、大学受験のために勉強ばっかりだけど」
「それなら良かった」
私たちはご飯を食べ終わると、それぞれの和室に向かった。
私が和室に行くと、祖母が丁度出てきた。
「未稀ちゃん、お布団敷いておいたからね」
「ありがとう」
食休みも程々に、私は布団に潜り込み、眠りにつく。
部屋の古時計が時を刻んでいる。
その音をはっきり認識すると、私は異変を感じて目を開けた。
体が動かない。
目だけは動かせるが、それ以外が一切微動だにしなかった。
金縛りだろうか、こんなことは初めてだった。
時を刻む音が、うるさく鳴っている。
私はいつの間にか眠っていて、気が付けば朝になっていた。
「未稀ちゃん、朝ご飯食べる?」
祖母が呼びに来た。
「うん、食べる」
私は特に気にしないようにした。
そこから毎日、私は眠る度に金縛りに遭うようになった。
しかし、金縛りだけで、それ以外は何の被害もない。
祖父母には心配をかけたくなくて、言わないことにした。
そうしているうちに夏休みが終わり、私は馴染みのある家に帰ることになった。
二学期が始まる前日、家に帰ってきた私を出迎えたのは母だった。
「おかえり、ご飯出来てるわよ」
「すぐ行く!」
二階にある部屋に荷物を置き、私は両親と夕ご飯を食べた。
その後はすぐに寝る支度をして、部屋のベッドに潜り込んだ。
部屋の壁掛け時計が時を刻んでいる。
その音をはっきり認識すると、私は異変を感じて目を開けた。
また金縛りだ。
もしかしたら祖父母の家だからかと思っていたが、それは違ったようだ。
所詮は金縛りだと、高を括っていたのも束の間、近くに人影を見た。
精一杯の視野でそれを追う。
部屋を物色しているようなそれは、私の視野を越え、やがていなくなった。
気が付けば朝だった。
冷や汗で服はびっしょり濡れ、私には少しの不安が残るだけだった。
「未稀! 遅刻するわよ!」
母が一階から呼んでいる。
「はーい!」
私は急いで制服に着替え、慌てて家を出た。
いつも通りの日常、変わらない学校生活、ただ一つ、夜の金縛りだけが、私に違和感を刻んでいる。
しかし、不思議と疲れはなく、寝れてはいるようだった。
私は徐々に、その金縛りに恐怖を抱いていた。
「未稀……未稀?」
「……あ、え?」
友達の呼びかけにも、反応が鈍くなるほどだった。
金縛りは続いている。
それに加え、あの日から人影も毎日見るようになった。
ただ部屋の中を歩き回るだけの人影。
それがいつもと違う行動をするのに、時間はかからなかった。
部屋の壁掛け時計が時を刻んでいる。
その音をはっきり認識すると、私はいつも通り目を開けた。
誰かがいる気配だけは感じる。
部屋の勉強机の方から、妙な音が聞こえてくる。
サー、サー、という不気味な音。
それは一定間隔で、サー、サー、と小さく鳴り続けている。
最後に、カチカチ、と鳴ると、気配はなくなった。
意識がはっきりした瞬間、私は飛び起きた。
勉強机の上を確認すると、そこには、ノートとカッターナイフが置いてあった。
確か昨日は、引き出しの中に入れておいたはずだ。
ノートの表面は、何か切られたような跡がある。
『ワタシノモノ』
よく見ると、そう刻まれていた。
「な、何これ……!」
さすがに気味悪く感じた私は、そのノートをゴミ箱に投げ捨てた。
誰かに相談しようにも、どう言えばいいのか分からない。
ネットで金縛りについて調べてみても、ストレスが原因としか出てこない。
毎日、金縛りに遭い、人影を感じ、朝起きればノートに文字が刻まれている。
その度に、私はノートをゴミ箱に捨てている。
その影響か、日常生活でもどこからか視線を感じるようになった。
学校からの帰り道、ふと視線を感じて振り返ると、サッと人影が通り過ぎて行った気がした。
家の裏庭を覗くと、誰かがいたような気がした。
部屋の窓から外を見ると、誰かがこっちを見ているような気がした。
私の心に、気持ち悪さが刻まれていく。
間違いない、誰かが、私につきまとっている。
友達に相談した。
「うーん、ウチはあまり感じないけど」
信じてもらえなかった。
両親に相談した。
「気のせいじゃない?」
信じてもらえなかった。
警察に相談した。
「何か起こってからじゃないと、どうにも……」
対応してもらえなかった。
どうして、私には感じるのに。
部屋の壁掛け時計が時を刻んでいる。
その音をはっきりと認識すると、私はいつも通り目を開けた。
いつもの人影が、部屋を歩き回っている。
ノートに文字を刻んでいる。
視界から消えたはずの人影が、私の目の前に立ち、そして馬乗りになった。
金縛りは解けない。
声を出したくても出せない。
その手にはカッターナイフが握られていた。
布団をはねのけ、飛び起きる。
いつも通りの朝だ。
腕に鋭い痛みを感じ、目を落とす。
『ワタシノモノ』
赤く細い傷が、私の腕に刻まれている。
「き、きゃあああああああああああああ!」
痛い、怖い、気持ち悪い、整理のつかない感情が、言葉にならないまま口から飛び出した。
気がつくと、私は病院のベッドにいた。
「未稀……!」
母が私の手を握っている。
父がナースコールを押し、医者がすぐに病室に来た。
この腕の傷は間違いなく、カッターナイフで刻まれたものだそうだ。
家に帰るとすぐに対策を始めた。
部屋の窓には、しっかり鍵をかけて板を打ち付けた。
寝るときには、扉にも鍵をかけ、勉強机を扉の前に置くようにした。
相変わらず金縛りに遭い、視線や人影も感じるが、幾分かはマシだった。
しかし、実害は減らない。
ノートや腕にはカッターナイフの痕がしっかりと刻まれている。
壁掛け時計の秒針が、うるさく鳴っている。
時を刻む音が、私の癪に障る。
家にある全てのアナログ時計を止めた。
なのに、どこからか秒針の音が聞こえる気がする。
耳を塞いでも、指の隙間から入ってくる。
誰かの笑い声も、心なしか聞こえてくる。
学校でも聞こえる。
「時計を止めてください」
先生に訴えても止めてくれなかった。
「時計を止めて」
友達の腕時計を無理やり止めようとした。
「時計を……止めてください……!」
テスト中に叫び続けると、保健室に連れていかれた。
「時計を止めてください!」
保健室の先生に懇願した。
「時計を止めて、時計を止めて、時計を止めて」
家でも、学校でも、私は誰彼構わず言い続けた。
時を刻む音が、私を変えてしまうから。
両親は私をおかしいと言って、病院に入れた。
「先生、時計を……」
私がそう言うと、医者は全ての時計を止めてくれた。
「先生、私はおかしくなんかないんです」
「未稀さん、あなたは少し疲れているだけですから、ゆっくり休みましょうね」
医者の言う通り、私は気張りすぎていたのかもしれない。
病院での生活でも、金縛りは毎日起きた。
カッターナイフが無くても、腕に文字が刻まれている。
医者が言うには、あの時の経験が刷り込まれていて、意図せず自傷行為をしている、とのことだった。
包帯を巻いても、次の日の朝にはズタズタになっている。
最初は大変だったが、少しずつ改善していった。
自傷行為は減った半面、睡眠時間が増えた。
規則正しい生活をしているが、毎日同じ時間に寝ても、昼に起きるようになった。
そして最近は、夕方になりつつある。
医者が言うには、心が安らいでいる証拠だそうだ。
確かに、秒針の音ももう聞こえないし、誰かの視線も感じない。
金縛りは相変わらずだが、実害はなくなった。
家に帰れる日も近いらしい。
医者との最後の面談があった。
「未稀さん、変わりましたね」
「そうですか? 確かに、少し楽になったような気がします」
私は清々しい気持ちだった。
久しぶりに家に帰ると、両親が出迎えてくれた。
「未稀、おかえり」
「ただいま……!」
元気になった私を見た両親は、笑顔で私を抱きしめる。
なんだか、生まれ変わった気分だった。
学校でも調子が良く、成績も上がっていった。
高校三年生になってすぐの時は、大学受験への不安でいっぱいだったが、今は思い通りに勉強ができている。
しかし、少しだけ異変を感じることがあった。
テスト中や、授業中の記憶が曖昧になることがある。
まあ、成績は上がっているし、きっと集中しすぎているのだろうと思う。
家では、いつの間にか眠ってしまっていることがある。
勉強机に向かい、気が付くとそのまま朝を迎えていることもあり、それを見ている両親からは心配されるほどだ。
「未稀、無理してない?」
「大丈夫だよ、このまま大学受験まで頑張らないと」
母は私を優しい目で見つめている。
「前まで全然成績上がらなかったのに、変わったわね、未稀」
「うん、悩みがなくなったからかな?」
両親は変わったワタシを褒めてくれる。
金縛りも今考えれば、ストレスが原因だったのだろうか。
ネットで調べたことは、あながち間違いではなかったのかもしれない。
そういえば、最近は金縛りではなく、勉強している夢を見るようになった。
夢の中でも勉強しているなんて、私はそんなに勉強が好きではないはず。
今度、夢占いでもしてみようか。
友達と学校で話をしていた。
「未稀、今日もノート貸してくれない?」
「いいよ、はい、どうぞ」
最近はこんなやりとりがしょっちゅうだ。
「それにしても、未稀、変わったよね。前はウチがノート貸してあげる側だったのにさ」
「本気出し始めたってこと!」
友達は変わったワタシを好いてくれている。
ある日の朝、すっきりした目覚めだった。
何もかもが新鮮で、目に映る景色が輝いていて、心が浮足立っている。
「おはよう、ワタシ」
ふと、笑顔でそう呟いた。
コメント
1件
毎日寝るたびに金縛りに遭い、少しずつ実害が刻まれていく恐怖描写が、息を呑むほど丁寧でぞくっとしました。特に「ワタシノモノ」と腕に刻まれる場面は、かゆみすら覚えるような気持ち悪さがあって、一気に引き込まれました。最後の「おはよう、ワタシ」という台詞も、主人公の変容が静かに表れていて、背筋が冷えました。続きがすごく気になります!
#ホラー
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るなたん🌃👑
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くろぬか
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