中園邸に戻った私は、もうこの時、一階にいるのは広瀬さんだけだろうと思い、自室を通り過ぎてキッチンへ向かう。
「広瀬さん、ただいま戻りました。すみませんでした」
「ぁあ……ううん、いいの、いいの。いいんだけれど……桑名さん……大丈夫?会社に言って派遣先を変更してもらう?」
「いえ……転職したばかりですし、きちんとここで続けたいです」
篤久様に気を付けようと考えた直後に、これか……
会社側にも気を付けなくちゃいけないか。
「とにかく、本当に大丈夫です。今後、遥香様に気に入って頂けるよう努力します。ワンピースのリメイクをお願いされているので、そちらで挽回します!」
私の言葉に全く納得してなさそうな広瀬さんも、もう片付け終わるようだったので、私は第一家事室へ向かう。
この奥の棚に救急箱があるので、それを一袋手にして第一家事室を出ると
「あ……」
玄関ホールから螺旋階段に向かう篤久様がいて、私を見ると……こちらへ来た。
この人は要注意……何を言われるのだろうと思いながら、上唇が薄いことがクールなイケメンを演出しているのかな、と分析する。
基本的に上唇が薄い人はクールな性格で、物事を冷静に見る傾向があって、あとは何だったっけ……
と、昔読んだ本の内容を思い出す間、篤久様は私の髪と湿布を貼った手首をじっくりと観察する。
あ、そうだ……確か、好き嫌いもはっきりしていて、自分が嫌だと思ったらハッキリ嫌だという姿勢を貫く傾向があるのよ。
なるほど、そんな顔しているかも……
人間に対しても物に対しても嫌なものは嫌と言い切って、好きなものに対しては誰かがあれこれ言っても好きという姿勢を貫く傾向にある……そんな風に書いてあったと思い出す間、何も言わない彼に
「すみません……またクサいですよね」
二度あることは三度あるんだな、と思い、手を体の後ろにやった。
「これまでも、あれにいろいろとされているようだな」
おっと……ここは慎重に、どう答えるべき?
「いろいろと……?」
無難な聞き返しだろう……あれってどれ?と聞くのは微妙よね。
様子見よ、様子見。
「玄関ホールが濡れていたことは、運転手から聞いた」
「はい…」
「初日の湿布、これも広瀬さんにさっき聞いた」
そういうことか……
「あれが無理やり桑名さんを上に連れて行ったのが見えたあと、部屋から出た気配がなかったから覗けば……目隠しで髪が燃えている。どういうことだ?」
「私が遥香様のご要望にお応え出来なかったのが原因です」
遥香は“あれ”なんだね。
「それにしては行き過ぎ。だいたい、あれに常識など感じたことがないが」
「そうなんですか?」
ここは、もう少し聞かせてください…!
そう思ったけれど……
「あら?誰かと思えば……真奈美?」
遥香が帰って来た。
コメント
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篤久は味方と思いたい。遥香のお母さんはどんな人なんだろう?人を陥れて何とも思わない娘の本性を知っている?
も〜肝心な時に!!篤久様は味方?? 今はまだ様子見だね… あれが帰って来て今度はどんな無理強いを😣😣😣
あぁ間が悪い、あれが帰ってきてしまった。 篤久様はあれのこと非常識極まりなさゲすだと思ってる?真奈美ちゃんにとって良い味方なのか、それとも邪魔になる人なのか?はたまた真奈美ちゃんに惹かれてる? この後の篤久様のあれに対する言動が楽しみ!スルーして消えるふりしてこっそり様子を伺ってたりして。