コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そしてエルツァーレマイアの視線の先、ミューゼの杖の先端の一部が強く輝いた。
「え?」
持ち主であるミューゼにも意味が分からない。これまでずっと杖を使ってきたが、見た事の無い輝きだったのである。
しかし、ある事を思い出した。
「これってアリエッタが描いた……よし!」
輝きを放っているのは、杖についた球の下に描かれた花の絵。ヨークスフィルンに来る前に、ミューゼがなんとか頼み込んで、アリエッタに描いてもらっていたのである。戦っている時にこれを見て、元気を貰おうと思っての行動だった。
そんな花のマークが輝いている。それはアリエッタの彩の力にエルツァーレマイアが干渉した為に起こった現象だが、当然そんな事を知らないミューゼは、瞬時に都合のいい解釈をした。
「アリエッタ! 愛情たっぷりの応援ありがとう!! 今のあたしは無敵だああああ!!」
気合が爆発し、ゴーレムに込める魔力が一気に跳ね上がった。七色の光がゴーレムを覆う。
ミューゼが勘違いの妄想をしている間に『スラッタル』は身を起こし、再び吠えてバルナバの実を纏った。しかも、全てが今までの何倍もの大きさになっており、その為全身が大きく膨れ上がったように見える。
その状態で、一度大きく後ろに跳び、助走をつけて体当たりを仕掛けた。しかも体を丸め、高速回転も加えての全力攻撃である。
弾丸のように飛び込んできた『スラッタル』に対し、光を纏ったゴーレムは振り上げていた両腕を一気に振り下ろした。
「やああああああ!!」
ドッゴオオオオオオン
轟音が植物園に鳴り響いた。
巨大なバルナバの実と木片が飛び散る。衝撃で土煙も舞い上がり、『スラッタル』の姿が見えない。
危険と判断したパルミラや戦闘要員達は、既に退避をしていた。飛んできた実や木片を避けながら、結末を見守っている。
パルミラだけは目を点にして、ゴーレムの上に乗ったミューゼを見ていた。
「……ミューゼってこんなに強かったの?」
先日アリエッタの唇を奪われた恨みで覚醒し、今回はアリエッタの応援で覚醒した。それは愛情なのか、それとも煩悩のなせる業なのか……。
土煙が収まったその場所には、ボロボロになった『スラッタル』が転がっていた。体が大きく欠けて、弱々しくも動こうとしている。
「タフ……というか、植物の生命力は凄いからね。このまま捕獲しておきますか」
その様子を見たミューゼは、ゴーレムの体に巻き付いている蔓を操り、『スラッタル』の全身に巻き付けていった。念のため厳重にした結果、蔓の球体が出来上がり、『スラッタル』は完全に見えなくなっていた。
「ふぅ、結局こいつ何だったんだろ。総長何か気付いたかな?」
ほのかに七色の光を纏う蔓の球体を見て、なんとなく正体が気になったミューゼ。だったが、それも一瞬の事。杖に描かれた花の絵を見て笑みを浮かべた。絵の光は既に収まっている。
「アリエッタの力とあたしの魔力での共同作業……ふふ……ふふへへへへ……えへっえへへへぇ~」
顔はだらしなく綻び、口から漏れる笑い声にはねっとりとしたものが含まれ始めた。
そこへ、ゴーレムの足元から声がかかる。
「ミューゼぇー! もう大丈夫なら降りてきてくださーい!」
「はっ! そうだった、アリエッタに会いにいかなきゃ!」
我に返ったミューゼはゴーレムに片膝立ちをさせ、下にいるパルミラの元へと降りて行った。
「凄いですね、まさかこんなにアッサリ終わらせるとは思いませんでした」
「でしょ? もうあたしとアリエッタは結ばれたと言っても過言ではないわよね!」
「……はい?」
自信満々な過言に対し、意味が分からず首を傾げるパルミラ。そんな2人をよそに、戦闘要員の面々がゴーレムと『スラッタル』を包んだ蔓の球体、そして散らかった巨大なバルナバの実を手に取り、語り合っている。
「よーし! アリエッタに会いに行こーっと!」
「あっちょっミューゼ!?」
後の事は知らないとばかりに、ミューゼはアリエッタの方へと走っていってしまった。全力で。
「はぁ……まぁいいか」
呆れるパルミラに、そっと近づく者がいた。先程同行した係員の男である。
「あのシーカーの子、凄いですね。あれだけ植物を操れるなら、ここに就職してほしいものです」
ミューゼという人材に目を付けた男は、ミューゼと仲が良さそうに見えたパルミラから情報を聞き出そうとしていた。植物の魔法を使うという事は、植物に詳しいのではないかという憶測での行動だが、それ自体は正しい。しかも若い女性でトラブルにも対処できるという、植物園としては是非とも欲しいと思える人材なのだが……
「え? あ~……無理だと思いますよ。だって仲の良い王女からのスカウトもずっと断ってますし、王族直属よりも待遇良くしないと揺るぎもしないんじゃないですかねぇ」
「どういう事ですか訳が分かりません……」
「競争率は高いですよ。お城の王からメイドまでが彼女達を狙っているので……しかもリージョンシーカーの総長が守っています。本人に自覚は無いですけど」
その障害は果てしなく多く、そして大きかった。
「アリエッター! ただいまー!」
「みゅーぜ!」(うふふ、お疲れ様みゅーぜ)
「よくやったのよミューゼ」
エルツァーレマイアのもとに戻ったミューゼは、テンションが高いまま中身の違うアリエッタを抱き上げた。この時、ついにピアーニャが解放されたのである。
「ふぅ…たすかったぁ……」
「総長さん、ご苦労様です」
難を逃れたピアーニャは、係員と共に大きなバルナバの実と『スラッタル』について話し合う。その間、ピアーニャの邪魔をしないように、パフィがアリエッタの面倒を見る……つもりだったが、感極まったミューゼがアリエッタを離さないのだった。
「えへへぇ♪ やっぱりアリエッタ最高! 杖に描いた絵のお陰で、すっごい力がでたよー」
「また何か不思議な力が出たのよ? もしかしてあの光なのよ?」
「うん!」
ミューゼはエルツァーレマイアを撫でながら、杖に描かれた絵の自慢をする。エルツァーレマイアからは何を話しているのかは分からなかったが、アリエッタの絵を指している事で、先程の力の話だろうという事は想像出来た。
(うーん、やり過ぎちゃったかしら? まぁ私も初めての試みだったし、アリエッタに話したらいつか出来るようになるかもしれないけど……今はどうにか誤魔化した方がよさそうね)
エルツァーレマイアとアリエッタでは、彩の力の使い方がまるで違う。意味を持つ色を具現するのがエルツァーレマイアで、色を使って意味ある物を作るのがアリエッタである。そもそも色に対しての考え方も、全く違うのだ。
アリエッタの絵に干渉出来たのは、同じ力だというのもあるが、結局気合でなんとかしただけに過ぎない。今は同じ事を求められてもアリエッタが困るので、『自分ならこれで誤魔化される自信がある』という行為を考えた。そして、
「みゅーぜ!」(これならどう!?)
「うん? どーしたの? えへへ♡」
横向きに抱きかかえられて両腕が自由に動かせるエルツァーレマイアは、ミューゼの顔に手を添えた。そのまま顔を近づけて……
チュ~ッ
ミューゼの頬に少し長めの口づけをした。
『あっ……』
ミューゼとパフィが、同時に声を漏らした。
パフィは驚きによる声を、そしてミューゼは……
ガクッ…パタリ
テンションが振り切れていた所への不意打ちで、気を失う瞬間の声だった。力が抜けた身体は、膝から崩れ落ちてそのまま倒れてしまった。その顔は、幸せに満ち溢れている。
「おい、ミューゼオラはどうしたのだ!?」
「いやちょっと……アリエッタの一撃で深刻なダメージを負ったのよ」
「ん? んん? だいじょうぶ…なのか?」
「ただの致命傷なのよ。問題ないのよ」
「……そ、そうか?」
(うひゃぁ…ビックリしたぁ……急に倒れるんだもの。でも流石みゅーぜね。そんな時でもアリエッタに怪我させないように自分がクッションになるだなんて。アリエッタったら幸せ者ね)
完全に買いかぶりだが、キスをしたら喜んでくれるという手ごたえを感じたエルツァーレマイア。
さらにミューゼの上から降り、頭の方へと移動して、膝枕をしてみた。アリエッタの為に甘えやすくするついでに、悦ばれる事を調べる気満々である。
「羨ましいのよ……」
少しヤキモチを焼くパフィは、寝ているミューゼを指で突き始めた。早く代われという意味も込めて、強めにやっていたりする。
「んんん……? パフィ? あたし、なんだか幸せ過ぎる夢を……」
「羨ましい事に現実なのよ」
「う?」
「みゅーぜ……」
声のした方に視線を向け、自身の状態を確認。そして笑みを浮かべた。
「……そうか……これが新婚生活」
「バカな事言ってないで、早く代わるのよ。じゃなかった、起きるのよ」
(ふむふむ、膝枕も嬉しそう。女の子だけど男性が喜ぶ事をしてやればいいのかしら? これは貴重な情報ね)
そんなのんびりとしたやり取りをしていると、パルミラが慌てて走ってくるのに気がついた。
「ミューゼぇぇ!! アレどうなってるんですかー!?」
「んぇ?」
「どうした……なんだありゃ!?」
ピアーニャが立ち上がってパルミラに声をかけようとしたが、その背後には黄色い突起を全面から生やした蔓の球体が見えた。しかも球体もかなり大きくふくれあがり、今にも蔓が千切れそうになっている。
まずはパルミラを落ち着かせ、どういう経緯かを聞き出した。
「急に鈍い音がして、見てみたらあの蔓の球が震えていたんです。ファナリアの人が言うには、ゴーレムの魔力っぽいのが球の方に吸い込まれていたらしいんです。その後すぐに黄色いのが生えてきて、あんなに大きくなっていきました」
「ミューゼオラ、わかるか?」
「あたしの魔力が吸収されたって事? それじゃああの中──」
ミューゼが何か言おうとしたその時だった。
ブチィッ
『うわぁっ!!』
蔓の球体の一部が弾け、黄色い物が噴出した。そのままさらに大きくなり、違う箇所からも噴出しはじめている。
「なんかヤバそうだな、ぜんいんタイヒ! わちらはうえからカンシする!」
「は、はい! 全員出口に急げぇぇ!!」
ピアーニャが『雲塊』を広げ、エルツァーレマイア、ミューゼ、パフィ、パルミラを乗せて浮き上がり、係員やシーカーの面々は急いで出口へと走りだした時、蔓の球体から爆発するように黄色い物が飛び出した。
「なんだありゃあ!?」
「あれもバルナバの実なのよ!? 蔓の中にあんなに詰まってたのよ?」
「えぇぇ……あれも魔法ですかぁ?」
地上を走る人々が全員植物園から出た頃には、球体の場所から無限に溢れるバルナバの実によって、辺り一面が黄色に覆われていた。
ピアーニャ達は、ただ茫然とその光景を眺める事しか出来ないのだった。
「これって一体どうなってるの? あのバケモノは?」
ミューゼの呟きに答えられる者はいない。しかし、1人だけ違う表情で眺めている者がいた。
(……私の力、もしかして栄養にされちゃった?)