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気まずさが顔に出まくっているエルツァーレマイアを見て、パフィが心配そうにしている。


「アリエッタが怖がってるのよ。早くどうにかした方が良いのよ」


溢れるバルナバの実を見て怯えていると認識したようだ。


「といわれてもな……」

「埋まっちゃっててどうしようも無いというか……」


天井近くに浮かぶ『雲塊シルキークレイ』、その上に避難している一同だが、すでにバルナバの実が下から迫っている。巨大な建造物を短時間で埋め尽くし、時々窓ガラスを割って外に漏らしながら、なおも上へと盛り上がっているのである。天井のガラスに到達するのも時間の問題だった。


「ここからでたほうが、よさそうだな」

「入口はとっくに埋まっちゃってるし……上から?」

「ああ。パルミラ」

「了解です!」


パルミラが腕を変形させ、傘とも鈍器とも思える壁を上に広げた。このまま上に突き抜けるつもりである。

外に脱出しようとしたその時、ミューゼが叫んだ。


「総長! 下が!」

「なんだ?」

「急にあの部分が盛り上がり始めて」


下を覗くと、バルナバの実の高さがさらに上昇しているのが分かる程、急激に増えていた。しかし、気になったのはそういう所ではない。


「アレはなんなのよ?」


黄色い大地となってしまっているその一部が盛り上がって山となり、縦横無尽に動いていた。


「下に何かいます!」

「何かって……まさか!」


この状況で思い当たるモノは1つしかない。

元より正体不明のそれは、姿が見えない状態から何をするか分からない。様子見なんてしている場合ではないと、ピアーニャが強引に天井を破ろうとしたその時だった。


ドバアァッ!!

「くっ! きたか!」


盛り上がった場所からソレは飛び出した。


「うおおおお! 無事かねお嬢さん方ぁぁぁ!!」


なぜかロングコートを身に纏い、筋肉隆々な肉体を見せつけるかのように前面を解放している。赤い女性用ビキニからは見えてはいけないモノがちょっぴりはみ出ており、さらに潰れたバルナバの実の中身を、その身に付着させている。

そんな男が3人、合体したような状態で空中でポーズをキめていた。


「うわ、きたなっ……」


その感想は、実を付着させてベチョベチョになっている筋肉に対してなのか、それとも絵面に対してのものなのか……。唯一反応できたピアーニャの感想は、ゴミを見る様な目と共に呟かれていた。

あまりの光景を目にしてしまったミューゼ、パフィ、パルミラの3人は、悲鳴を上げる前に固まっている。


(うわーお…なんか変態が生えてきた……)


エルツァーレマイアは変態のインパクトで逆に冷静になっていた。

3人の変態は、バルナバの実の上に降り立ち、筋肉と水着をアピールするようにポーズを取り始める。


「ヨークスフィルン警備隊! ケイン!」

「コーアン!」

「ザント!」

(そういえばおもいだした……ヨークスフィルンのケイビタイはおかしいってハナシ。こいつらだったのか……)


急展開かつ見た目が恐ろしい事もあり、年頃の3人は冷静さを失い、男達が動く度に悲鳴を上げていた。

冷静なのは冷え切った目で睨んでいるピアーニャと、神として様々な人間を永年見てきたエルツァーレマイアのちびっこ2人のみだった。

決めポーズに満足した警備隊長ケインは姿勢を正し、バルナバの実の上を悠々と歩いてくる。コートによって中途半端に下半身をチラチラ見せながら。


「なるほど天井から出ようとしていたのか」

『ひぃっ』


女性陣5人に歩み寄る3人の変態。それだけで事案ではあるが、悲しい事にヨークスフィルンの治安を守っているのは彼らである。

ケインはピアーニャ達を手伝うべく、笑顔で語り掛けた。


「よし、我々もてつ──」

ボコォッ

「だああああああああ~~~~~!!」

ガシャーン

「ミュイイイイイイイイ!!」


突然下から出てきた『スラッタル』の頭によって男達は吹き飛ばされ、ガラスを破って飛んで行ってしまった。


『へっ?』


流石のピアーニャも、これには目を見開いて驚愕している。

いきなり変態がぶっ飛んだ事もそうだが、それ以上に目の前にある元凶に驚いていた。


(わ、わー……育ったなー……)


エルツァーレマイアだけが、冷静…とは言えないが、状況を瞬時に把握した。

ミューゼが封じた『スラッタル』が、蔓の中でエルツァーレマイアの力を養分として吸収。それが今のバルナバの実の大増殖を引き起こしていたのだが、それはもちろん本体にも影響を及ぼしていた。

天井近くまで増えたバルナバの実から出てきた『スラッタル』の頭だけで、先程の全身よりも大きい。それが突然目の前に生えてきたのだ。思考停止するのも無理は無い。

なんとか気を取り直し、エルツァーレマイアはまず自分を抱きしめているパフィに声をかけた。


「ぱひー! ぱひー!」(とりあえず一旦逃げなきゃ! 私の力は出来るだけ使わないようにしたいし)

「アリエッタ? ってうわわっ! 総長しっかり!」

「お、おおぅ!? そうだな! パルミラ!」

「ひゃい!?」

「にげるぞ!」

「ぅわかりましたあぁっ!」


正気を取り戻し、再び天井に向けて腕を変形。すぐさまピアーニャが上昇し、傘状の壁によってガラスを割る事に成功した。もちろん割れたガラスは傘の下に降り注ぐ事は無い。

しかし、


「ミュイーーーッ!」


『スラッタル』が鳴き、地鳴りのような音が響き渡る。そして大量のバルナバの実が膨れ上がったと思った次の瞬間……


ボゴォッ

『きゃーーーー!!』


鈍い音を立てて爆発的に急増化。ピアーニャ達を吹き飛ばしてしまった。

その瞬間を植物園の外から見た者は、後に「突然植物園が黄色い爆発を起こしたように見えた」と証言する事になる。

そしてバルナバの実はさらに勢いを増しながら増え続け、津波となって海へと向かうのだった。




「みんなその家の影へ! シス!」

「はっ!」


オスルェンシスが先行して近くの家の影へと移動。同じくフレアとツーファンが後に続き、ネフテリアがクリムの手を引く。一緒にいた護衛の兵士もついてくる。


「みなさん影の中に!」


日陰となっている地面に手をつくと、オスルェンシスの手が地面に沈む。すると躊躇いなくフレアとツーファンが影に飛び込み、姿を消した。


「どうなってるし!?」

「クリムも一緒に! 大丈夫、シャダルデルク人の能力だから!」


驚きつつも水に入るかのように息を止めて飛び込むクリム。護衛も飛び込むと、オスルェンシスも影の中に飛び込み姿を消した。その直後、黄色の津波がその場を覆いつくしていった。

こうしてヨークスフィルンはパニックとなり、街から海岸まで黄色に染まっていくのだった。




「うはー、これってどうなってるし?」

「さぁ……」


バルナバの実が家の2階の家の屋根程まで積もり、海まで侵食した時、陸からの津波が止まった。小さな家は潰れ、道は埋まり、

ネフテリア達は半分以上埋まった家の影から姿を現し、現状を眺めてただただ茫然とするしか無かった。


「アリエッタはどうなったし!?」

「何が起こったのか詳しく」

「はっはい!」


フレアに促され、護衛は植物園の外から見た事を全て話した。建物の中まではついてこなくて良いと言われていたので、園内で起こった事はほとんど見えていなかったが、突如人々が外へと避難してきたので何事か尋ねたので、少しだが把握はしていた。

巨大生物が現れた事を聞き、離れて見ていた為、『スラッタル』の事はあまり見えておらず、断片的な情報しか持っていなかった。しかし、園内に入り加勢しようとした時に、バルナバの実が爆発的に増え、ピアーニャ達が天井の方に退避するのが見えたのである。

そして逃げてきたシーカー達に手を引かれて外に戻り、徐々に黄色くなっていく植物園を眺めるしか出来なくなり、元々の護衛対象である王妃に判断を仰ぐ為、報告に戻ってきたという事だった。


「この護衛、役に立たないし!」

「ぐふっ!?」


クリムがジト目で言葉の刃を放ち、護衛を斬り捨てた。ツーファンが青ざめ、オスルェンシスも顔色をわるくして崩れ落ちた護衛を見ている。同じ護衛として明日は我が身、他人事ではないのだ。

流石に不憫に思ったフレアが、護衛の擁護をする。が、


「そんな事より、早くアリエッタ探しに行くし! 飛んでたならちゃんと逃げてるハズだし!」

「そんな事て……まぁ説得してる場合じゃないわね。貴方、ファナリアに行って救援を。外にいる人達を無事な建物に避難させないと」

「は、はいぃ!」


辛辣過ぎる評価で致命傷を受けている護衛が可哀想になって、フレアは急いでこの場から退散させた。どちらにしても日が暮れるまでに全員避難させないと、家に入れない者達が極寒の夜に晒され、氷漬けになってしまう。

その事は救援に任せる事にし、アリエッタ達を探しに向かう事にした。

さっそくバルナバの実の大地を駆け出し、植物園の方へと向かう5人。なぜか王妃フレアも避難せずに同行している。

いまだ少量ではあるが、流れてくる実を踏みしめて5人が街の外れで見たモノは……


「ミュイ♪」


近くの家を齧ってすっかりご機嫌な、植物園と同じくらいの大きさにまで成長した、木の『スラッタル』の姿だった。

からふるシーカーズ

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