ワンク
冬弥の性別だけ変わります。
彰冬です。
だいぶキャラ崩壊する予定です
何でも受け止めてくれる方向け。
誹謗中傷は受け付けておりません。
大丈夫な方だけ読んでください。
運命の悪戯、あるいは神様の気まぐれ
気がつけば、俺は再び「青柳冬弥」として生を受けていた。
驚くべきことに、時代も場所も、家族構成さえも前世と寸分違わぬ世界。ただ一つ、決定的な違いを除いては。
鏡に映るのは、知っているはずの自分の顔。だが、そこには見慣れない、柔らかな輪郭と長いまつ毛があった。そう、俺は女として生まれ変わっていたのだ。前世の記憶を持つのは、この世界で俺ただ一人らしい。まるで出来の悪い冗談だ。
そして、極めつけは自称「神様」の存在だ。胡散臭いことこの上ないその御方は、俺が物心ついた頃、脳内に直接語りかけてきた。
『よいか、冬弥よ。そなたには特別な縁を用意してやったぞ。運命の人と出会うた暁には、全身にビビーん!と電撃が走るであろう!楽しみに待つがよい!』
「ビビーん」とはなんだ。ふざけているのか。
「運命の人、ね…」
俺は鼻で笑った。そんな非科学的なこと、あるわけがないだろう。ましてや、この俺に限って。恋愛など、音楽の追求の妨げにしかならない。そう高を括っていた、あの瞬間までは。
***
桜舞い散る春の日、俺は高校の入学式を迎えていた。真新しい制服に身を包み、少しばかりの緊張と、これから始まるであろう音楽漬けの日々への期待を胸に、校門をくぐる。指定された教室へ向かう途中、雑踏の中でふと、視線を感じた。
見覚えのある、オレンジ色の髪。少しつり上がった、意志の強そうな瞳。
「…東雲?」
思わず呟いた名は、前世で苦楽を共にした相棒のものだった。だが、今の俺たちはただの他人だ。そうだ、関係性はリセットされたのだから。そう自分に言い聞かせた瞬間だった。
バチッ!
「っ!?」
視線が絡み合った瞬間、全身を凄まじい衝撃が貫いた。まるで高圧電流に触れたかのような、痺れる感覚。脳裏に、あのふざけた神の声が響く。
『ビビーん!となるぞ!』
まさか。嘘だろ。相手は…東雲彰人だぞ?前世では、男同士、最高の相棒だったはずの。
混乱する俺をよそに、東雲彰人は目をこれでもかと見開き、次の瞬間、弾かれたようにこちらへ走り出した。その勢いは凄まじく、周りの生徒たちが驚いて道を開けるほどだ。
「君!な、名前はっ!?」
目の前に立った彰人の顔は、見たこともないほど真っ赤に染まっていた。潤んだ瞳は熱っぽく、明らかに尋常ではない様子だ。それはまるで…そう、物語で読んだことのあるような、一目惚れをした人間の顔。
「あ…」
声が出ない。目の前の光景が信じられなかった。神様が言っていた「運命の人」。それは、紛れもなく東雲彰人だというのか?この、女になった俺の?
込み上げてくるのは、形容しがたい複雑な感情だった。驚き、戸惑い、そして、前世の関係性を思うと、言いようのない気まずさ。なぜ、よりにもよって東雲なんだ。
「…」
言葉を失い、ただ呆然と立ち尽くす俺の前で、彰人は期待に満ちた目で答えを待っている。
ああ、神様。あんたってやつは、なんて残酷な悪戯をしてくれるんだ。
俺は生まれて初めて、心の底から神を恨んだ。
真っ赤な顔で、期待に満ちた瞳で、俺の答えを待つ男――東雲彰人。その姿に言いようのない複雑な感情を抱えながらも、俺はかろうじて声を発した。前世からの癖で、つい、いつもの一人称が出てしまう。
「俺は…青柳冬弥、です」
瞬間、彰人の眉がぴくりと動いた。熱っぽかった瞳に、わずかに困惑の色が浮かぶ。
「え?…『俺』?」
きょとんとした顔で、彰人は俺の言葉を反芻する。その反応に、俺ははっとした。そうだ、今の俺は「女」なのだ。一人称が「俺」では、確かに奇妙に聞こえるだろう。
「…何か、変ですか?」
努めて平静を装い、小さく首を傾げてみせる。すると彰人は、ぶんぶんと首を横に振った。その動きはどこか必死だ。
「ぜ、全然!そんなことない!ないから!」
焦ったように否定した後、はっと我に返ったように居住まいを正す。そして、少し照れたように、しかし真っ直ぐに俺を見て言った。
「あ、俺は東雲彰人。よろしく」
(ああ、知ってるよ。お前のことなんて、嫌というほど)
心の中で毒づく。前世、隣で歌い、共に壁を乗り越えてきた相棒。忘れられるはずがない。だが、そんな内心はおくびにも出さず、俺は精一杯の笑みを作った。ここで怪しまれるわけにはいかない。ぎこちない笑顔になっている自覚はあったが、今はこれが限界だった。
「は、初めまして、東雲くん」
そう言うと、彰人は先ほどよりもさらに頬を赤らめた。そして、少しどもりながらも嬉しそうに言葉を返す。
「よ、よろしくね、冬弥ちゃん!」
「―――っ!」
冬弥ちゃん。
その、馴れ馴れしくも甘ったるい響き。
前世では決して聞くことのなかった呼び方。
微笑みを顔に貼り付けたまま、俺は内心で硬直していた。全身の血の気が引くような、あるいは背筋を冷たいものが駆け上るような、そんな悪寒に近い感覚。相棒だった男から「ちゃん」付けで呼ばれる日が来るなんて。
神様の仕掛けたこの「運命」とやらは、どうやら俺にとって、とてつもなく居心地の悪いものになりそうだ。俺はただ、引きつった笑顔を浮かべることしかできなかった。
side彰人
ああ、だりぃな。
高校の入学式なんて、正直どうでもよかった。まあ、新しい環境ってのは悪くねぇけど。気の合う奴がいれば儲けもん、くらいの軽い気持ちで、東雲彰人は桜吹雪が舞う校門をくぐった。周りは期待に胸を膨らませた新入生でごった返している。その誰もが同じような顔に見えて、彰人は小さくため息をついた。
特に面白いものも見当たらず、さっさと教室に向かおうとした、その時だった。
雑踏の中に、ふと、空気が違う一点を見つけた。
ツートンカラーの、サラサラとした髪。凛とした佇まい。周りの喧騒が嘘のように、そこだけが静謐な空気に包まれているように見えた。白い肌に、吸い込まれそうなほど深く、澄んだアイスグレーの瞳。整った顔立ちは、まるで精巧な人形のようでもあったが、どこか儚げな雰囲気の中に、強い意志のようなものも感じさせる。なんだ、あいつ…?
目を奪われ、思わず立ち止まる。その瞬間、彼女――いや、まだ名前も知らないその少女と、不意に視線が合った。
ドクンッ!
時間が、止まった。いや、世界から音が消えたのかもしれない。視線が絡み合った刹那、雷に打たれたような衝撃が、彰人の全身を貫いた。心臓が大きく跳ね上がり、腹の底から突き上げてくるような、経験したことのない感覚。これが、世に言う「一目惚れ」ってやつか…?頭のどこかで、冷静な自分がそう分析している。だが、そんな思考とは裏腹に、体はもう動いていた。
気づけば、彰人は走っていた。人混みをかき分け、ただ真っ直ぐに、彼女に向かって。周りの生徒たちの驚く声も、訝しげな視線も、今はどうでもよかった。ただ、彼女を逃したくない。その一心だった。
「っ、はぁ…!」
息を切らして、彼女の目の前に立つ。間近で見るその姿は、遠目で見た以上に綺麗で、心臓が痛いほど鳴り響く。顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。だが、そんな羞恥心よりも、名前を知りたいという欲求が勝った。
「君!な、名前は!?」
声が上擦ったかもしれない。だが、必死だった。
初めて感じた、胸を焦がすようなこの衝動。東雲彰人の高校生活は、まさに雷鳴と共に、予想もしなかった形で幕を開けたのだった。
続く
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