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黒崎さんのマンションに着いたらしく、彼に声をかけられ、タクシーを降りた。
タワーマンションと言うのであろうか、三十階以上はあるように見える。
田舎から出てきた私にとっては、一度は住んでみたいと憧れを抱くような高層マンションだ。
黒崎さんの少し後ろを歩き、マンションの中に入る。
暗証番号のようなものを彼が入力すると、エントランスのドアが開いた。
エントランスには管理室のようなところがあり、中は見えなかったが電気がついていた。
エレベーターに乗り、彼は二十五階のボタンを押す。
エレベーターを降りるとホテルのような長い廊下が続いていた。
彼が
「ここです」
そう言って、部屋の鍵を開ける。
「お……」
お邪魔しますと言いたかったがまだ声が出ない。
彼に続いて、玄関に入る。
とても綺麗で広い玄関。こんな住む世界が違う人の部屋へ私が入ってもいいのだろうか。
「暗くてよく見えませんでしたが、転んだところから血が出ていますね。洋服にも付いている。早く消毒をしましょうか?」
玄関の明りで自分の姿を見ると、草はついているし、膝に砂はついているし、血は付いているしで最悪な姿をしていた。
こんなカッコで家に入ったら汚してしまう。
「よご……」
汚しちゃいそうですと言いたい。
「そんなこと気にしなくていいですから」
私が何を言いたいのか、彼はわかってくれたみたいだった。
優しく彼に手をひかれて、部屋の中に入る。
物が少なく、清潔感のある部屋。あまりにも整いすぎていて、生活感があまり感じられなかった。黒と白、落ち着いた色でインテリアが揃っている。物が多く、ごちゃごちゃしている私の部屋と大違いだ。
「ソファに座ってください」
リビングにある、三人掛けくらいの大きなソファに案内をされる。
汚してしまうかもしれないと思いながら、彼の指示通りに座った。
「ちょっと見せてください」
そう言われたが、羽織っている彼のスーツを脱いでしまうと下着が見えてしまう。
「あの……」
私が躊躇していると
「すみません。配慮が足りませんでした」
彼は何も悪くないのに、謝ってくれた。
「着替えを持ってきますね。と言っても、男物しかないので、愛ちゃんには大きいかもしれないですけれど」
そう言って彼は立ち上がった。
「傷口を流水で流さないといけません。もし良かったら、シャワーを使ってくれていいですから。結構、広範囲に渡って擦り切れてしまっているので、洋服のまま入ると、服まで濡れて風邪をひいてしまいます。傷口が沁みて、入るのも大変かもしれないですが、何か手伝えることがあったら言ってください」
彼の言葉に甘え、シャワーを借りることにした。
バスルームに案内される。
「ゆっくりでいいですからね」
黒崎さんがバスルームからが出て行く。
浴室も綺麗に整頓されていた。
私は洋服を脱ぎ、シャワーを浴びながら傷口を流水で流した。
「い……」
かなり痛い。身体の至るところが沁みた。
シャワーを浴び終え、黒崎さんが持ってきてくれた服に着替える。
男性物だったので、大きい。
黒崎さんのところに行く前に身なりを整えようと、鏡を見た。
顔に痛みを感じるところがあったため、擦り切れているのだろうかと自分の顔を鏡で見ようとした時、首に赤い痣のようなものがあるのを見つけた。
これもどこかにぶつけたのかな。
「あ……!」
思い出してしまった。
これは川口さん《あのひと》に付けられたものだ。
キスマーク《赤い印》、あの人のモノだと言われているような気がした。
やだ……!!気持ち悪い!!
混乱して、その場に座り込んでしまう。落ち着いた涙も再び溢れ出してくる。
「い……や……」
何か物音を感じたのか、黒崎さんがバスルームの前から声をかけてくれた。
「愛ちゃん、何かありましたか!?」
返答をしない私を心配して
「ごめん。入りますよ」
声をかけながら、入ってきてくれた。
首を押さえ座り込んでいる私を見て、黒崎さんは何が起こったのかわからない様子だった。
「どうしましたか?痛みますか?」
彼は、首を押さえている手を優しく取ろうとするが、黒崎さんにこんなものキスマーク《赤い印》を見られたくなかった。
黒崎さんの心配そうな顔、そんな顔をされたら従うしかない。
私は首のキスマークを隠していた手を退けた。
「……!」
彼は私の首を見て、何も言わなかった。
どう思われたのだろう、不安で仕方がない。
彼は無言で立ち上がり、出て行った。
汚い、気持ち悪いって思われたよね。
私はまだその場に座り込んだまま立ち上がれなかった。
すると、彼がすぐ戻ってきて何かを私の首に貼った。
手で触ると、絆創膏だとわかった。
「これは、傷だから治ります。安心してください」
彼の治るという言葉に救われ、涙が止まらない。
泣いている私を、黒崎さんはふわっと優しく抱きしめてくれた。