テラーノベル
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鎖が外れてからの日々。
目黒と阿部は、焦らず少しずつ外へ出る機会を増やしていった。
最初は24時間営業の夜中のスーパー。
人の少ない時間を選び、二人でゆっくり買い物をする。
何気ない日常が、今はとても大切に思えた。
次の日は夜の海。
目黒の運転する車で海岸まで行き、波の音を聞きながらベンチへ座る。
「静かだね。」
「うん。」
言葉は少なくても、隣にいるだけで心が落ち着いた。
また別の日には、ラウールと個室のある喫茶店で会った。
仕事の話になり、ラウールが少し嬉しそうに話し始める。
「二人が休んでる間の仕事、事務所のデビュー前の後輩カップルがいっぱい担当してる。」
「すごく頑張ってるよ。」
阿部は目黒と顔を見合わせて微笑んだ。
「そうなんだ。」
「チャンスだね。」
目黒も優しく頷く。
「この経験がきっかけでデビューできたら嬉しいね。」
「うん。」
ラウールも嬉しそうに笑った。
さらに別の日。
佐久間と康二に誘われ、アニメの聖地巡礼へ出掛けた。
「ここ!」
「このシーンの場所!」
佐久間が興奮しながら写真を撮り、
康二も負けじとカメラを構える。
「あべちゃん、めめ!」
「ここ立って!」
二人は笑いながら写真に収まった。
そんな小さな外出を繰り返すたびに、
家の外へ出る怖さは少しずつ薄れていった。
リハビリは順調だった。
___________
そして今日。
二人には特別な予定があった。
「あべちゃん。」
「そろそろ準備しようか。」
「うん。」
今日は二人でプラネタリウムへ行く。
初めてアンクレットをもらった、思い出の場所だった。
阿部はクローゼットを開ける。
服を選ぼうとして、一着のワンピースへ目が止まる。
「あ……。」
女の子になって初めて買った、あのロングワンピース。
目黒と一緒に服を買いに行き、
恥ずかしそうに試着室から出てきた日のことを思い出す。
「懐かしいな。」
自然と笑みがこぼれた。
「あの頃は。」
「毎日が不安だったな。」
ワンピースを手に取り、そっと身体へ合わせる。
「でも。」
「あれから、いろんなことがあった。」
嬉しかったこと。
泣いたこと。
笑ったこと。
怖かったこと。
全部を乗り越えて、今ここにいる。
「今日はこれ着よう。」
阿部はゆっくりとワンピースへ着替えた。
鏡の前に立つ。
以前より少しだけ、自分に似合っている気がした。
寝室を出る途中、ふと棚へ目を向ける。
そこには、修理されたアンクレットが飾られていた。
切れてしまったお守り。
目黒は捨てずに修理を依頼し、小さなケースへ入れて飾っていた。
阿部はケースをそっと撫でる。
「あの時。」
「守ってくれたんだよね。」
部屋へ入ってきた目黒も、そのアンクレットを見つめて微笑んだ。
「うん。」
「今でも俺たちのお守りだ。」
阿部は目黒の方を振り返る。
「行こう。」
目黒は優しく頷いた。
「あべちゃん。」
「今日は新しい思い出を作りに行こう。」
二人は手をつなぎ、玄関へ向かった。
今度は恐怖を思い出すためではない。
幸せだった記憶を、もう一度上書きするために。
そうして二人は、思い出のプラネタリウムへ向けて歩き始めた。
___________
プラネタリウムの上映が終わり、二人はゆっくりと歩き始めた。
「ここ。」
阿部が小さく笑う。
「あの時、アンクレットをもらった場所。」
「うん。」
目黒も懐かしそうに頷いた。
二人は並んで腰を下ろす。
しばらく星空を眺めながら、静かな時間が流れた。
「めめ。」
「ん?」
「少しずつだけど。」
「仕事、戻ってみようか。」
その言葉に、目黒は阿部の方を見る。
「俺も同じこと考えてた。」
「全部一気には無理だけど。」
「少しずつなら。」
「うん。」
阿部は穏やかに笑った。
「焦らずね。」
「うん。」
目黒は一度頷いたあと、少しだけ真剣な表情になる。
「あべちゃん。」
「仕事を始める前に。」
「もし、あべちゃんがいいって言ってくれるなら。」
「一つ、やりたいことがある。」
「何?」
阿部が首を傾げる。
目黒は少し考えてから口を開いた。
「アンクレット。」
「俺たちを守ってくれた。」
「身代わりになってくれたんだと思う。」
阿部も静かに頷く。
部屋に飾られた、修理済みのアンクレットが頭に浮かんだ。
「でも。」
目黒は続ける。
「仕事を続けるなら。」
「アンクレットを付けるのは。」
「正直、少し危ないとも思う。」
「衣装に引っ掛かったこともあったし。」
「ダンス中も何度かヒヤッとした。」
「今回のこともあって。」
「もう、あべちゃんが怪我をするきっかけになるものは減らしたい。」
阿部は何も言わず、目黒の話を聞いていた。
目黒は照れくさそうに笑う。
「だから。」
「身につけるお守りじゃなくて。」
「消えないお守りが欲しい。」
「消えないお守り?」
「うん。」
目黒は阿部の目を真っすぐ見つめた。
「曲を作りたい。」
阿部は少し驚く。
「曲?」
「俺とあべちゃんの。」
「二人だけの曲。」
「そして。」
「二人で歌いたい。」
一瞬、阿部は言葉を失った。
次の瞬間には、満面の笑みになっていた。
「いいね!」
「すごくいい!」
「形は見えなくても。」
「歌なら、ずっと残る。」
「うん。」
目黒も嬉しそうに笑う。
「それが俺たちのお守り。」
「辛い時も。」
「嬉しい時も。」
「何年後でも。」
「聴けば帰ってこられる場所みたいな曲にしたい。」
阿部は目を輝かせる。
「歌詞、一緒に考えたい。」
「そのつもり。」
目黒は少し照れながら笑った。
「実は。」
「もう事務所には相談してある。」
「事情を話したら。」
「『ぜひ協力したい』って言ってくれた。」
「本当に?」
「うん。」
阿部は思わず笑ってしまう。
「めめ。」
「行動早い。」
「待てなかった。」
二人は顔を見合わせて笑う。
阿部は少し考え込むように空を見上げた。
「ねぇ。」
「この曲。」
「メンバーには内緒にしない?」
「サプライズ?」
「うん。」
阿部はいたずらっぽく笑う。
「予告なしで急にリリースしたら。」
「みんなびっくりすると思う。」
目黒もその光景を想像して笑った。
「ふっかは絶対電話してくる。」
「『聞いてないんだけど!』って。」
「岩本くんは。」
「『そういうことか。』って笑いそう。」
「翔太は。」
「『泣いた。』って一言だけ送ってきそう。」
「舘さんは。」
「静かに何回も聴いてくれそうだね。」
二人は笑い合う。
事件のあと、未来の話をすることが怖かった。
でも今は違う。
これから先の楽しみを、自然に語り合えるようになっていた。
目黒はそっと阿部の手を握る。
「この曲が。」
「俺たちのお守りになりますように。」
阿部は優しく握り返した。
「うん。」
「世界で一番大切なお守りを、一緒に作ろう。」
満天の星空の下で交わしたその約束は、アンクレットに代わる、新しい「二人だけのお守り」の始まりだった。
コメント
1件
みらさん、第12話の感想、めっちゃ泣きそうになった…😭💕 阿部ちゃんが最初のロングワンピースを「今日はこれ着よう」って選んだシーン、あの頃の不安を乗り越えて今の自分に似合うって思えるようになったの、成長が尊すぎる…!そして目黒くんが壊れたアンクレットを修理して飾ってたの、知らなかった…「今でも俺たちのお守り」って言葉に胸がぎゅってなったよ。 最後の「消えないお守り」としての曲作り、二人だけの秘密のサプライズ計画、未来の話を自然にできるようになったのが本当に嬉しい。このエピソード、日常の温かさと新しい一歩への希望が詰まってて、心があったかくなりました〜!🌸
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