コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
パシっ!
ホテルの部屋に私の頬叩く乾いた音が響いた…
「ええ加減にせんかい!」
「………!」
「お前もミナミで働く夜の女やろ!そない簡単に男に抱かれて恥ずかしないんか! 」
「何よ……!
金貸しとして、とか…
夜の女として、とか…
さっきから萬田くん肩書きの話ばっかりや!!
私は一人の女として萬田くんの事好きなんや! 」
「悪いけど、ワシは腐っても金貸しや。それ以上それ以下でもあらへん。」
「……。
一人の女として見てもらわれへんの?私って女として… そんなに魅力ない?
1ミリも興味持ってもらわれへんの?
私がこういう事、他の男にもしてきたとでも思ってるん?」
「…………。」
「私、 夜の商売してきて、枕で客取った事なんてたった一回もない。
私かてそのくらいの女としてのプライド残ってるわ…!」
ぐい…。
え……!?
萬田くんはおもむろに私の両肩を持って力強く引き寄せた…
「ほんまにお前はガキの頃から頑固やのう…。 正直に言うたる。
ワシはお前みたいな頑固で聞き分けのない女…いちばん好かんのや… 。」
萬田くんは、顔を近付け私の目をまっすぐ見つめてそう言った…
「そんな……。」
「そやからお前のことは抱かれへん。」
「………。
グスッ…。」
「そうやってすぐ泣くとこも好かん。」
「もう…泣かへんから…!」
「そやけど…お前は…
ええ女や。
お前やったらもっとええ男とすぐに出会える。 そやからワシみたいな金貸しに抱かれるようなアホな真似だけはするな。」
萬田くんは少し微笑んでそう言いながら、私の頬を流れ落ちる涙をそっと拭った…
「こんなん… こんなんずるいわ!
余計に離れたくなくなるやんか…。」
「心配せんでもまたそのうちどっかで会えるやろ。ミナミの街は狭いんや。 」
「嫌や! ミナミの街に居てるの分かってて会われへん方が辛いわ…。」
「ミナミに残るも、去るも… お前次第や。ワシはずっとこのミナミにおる。それだけは変わらん。ほな、ワシは帰るで。」
サッ……
「萬田くん…!」
部屋を出ようとする萬田くんを必死に呼び止めた…
「あんた…ほんまに鬼やね…!
こうやって女惚れさせて…
何人も泣かせてきたんやろ…!」
「ふっ…。さあどうやろな
正直ワシも心揺らいでたんやで…
ほな達者でな。」
カチャッ
バタン………。
…………。
終わった。
20年間…想い続けてきた
その想いが…。
今…終わったんや…
私が願った形にはならんかった。
けど……。
どこか、この結果に納得している自分がいた。
萬田くんは金貸しになってミナミの鬼とまで呼ばれる人になってたけど…
本質のところは子供の頃と何も変わってない気がして…
それが妙に嬉しかった。
もし萬田くんに抱かれてたら…
その気持ちも揺らいでいたかもしれん…
萬田くんはずっとあの萬田くんやった。
神様はなんの悪戯か…
萬田くんと再び引き合わせてくれた…
自分の生きる道は自分で決める…
誰のせいでも誰のためでもなく…
自分の責任で
自分のために…。
そう思わせてくれた。
萬田くんへの気持ちはそう簡単には変わらへんけど…
ミナミの鬼に恋をした私は…
前より強くなれた気がする。
もっとずる賢い女になって驚かせたる…
また萬田くんに会えた日のために。