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84 ◇哲司の告白
元々、次の公休日を秀雄との話し合いに使おうと考えていた。
だが返事は手紙でいいと言われたため、工場から月末に取れる公休日を知らされると、
雅代は哲司に宛てて公休日を知らせる手紙を出した。
仕事で疲れているのだから休みには家でまったりと過ごせばいいのにと思うものの、
しばらく会っていないということもあり、気心の知れている哲司に会いたいと思ったからだ。
◇ ◇ ◇ ◇
そして数日後、ふたりが会う約束をした日のこと……。
ふたりが会うのは実に2か月振りのことであった。
この日は駅の改札口で待ち合わせをした。
哲司に気づいて手を振る雅代の姿が視界に入ると―――。
哲司が久しぶりに見る雅代は、お洒落をしていて、以前の倍増し美しく見えた。
「やぁ、久しぶり。だいぶ待った?」
「大丈夫。少しばかり待っただけだから」
雅代の言葉を受けて哲司は微笑みながら『そっか』と呟くと
彼女を促した。
「じゃあ、行こうか……」
少し歩いてふたりはカフェに入り、一息ついた。
「どうしたの? 哲司くん。あんまり見られると恥ずかしくなるじゃない」
「きれいだから、見惚れてたんだよ~」
「褒めてもなんも出ないわよっ」
「「ははっ(ふふっ)」」
「雅代ちゃん、痩せたね。仕事きついんじゃないのか」
「分かった? 実は……少しきつくなってきてる。
でも、折角仕事が見つかったんだもの、甘えたこと言ってられないわ」
「そっか。でもあんまりしんどいときは、病欠取った方がいいぞ」
「うん、そうだね。そうする」
それとなく心配してくれる哲司を前にして、心が解れた雅代は
別れた元夫の秀雄との間にあった出来事を哲司に相談という体ではなく、
ありのまま、こういうことがあった話として伝えた。
雅代が話し終えてもしばらく黙ったままでいる哲司の様子を、雅代もまた
『どうしたの?』と訊くこともなく……。
押し黙ったまま、ふたりの間にある沈黙に耐えた。
―― ようやく重い口を開く哲司 ――
「雅代ちゃんはどうするつもり?
何て返事したの?」
「『分からない……すぐに決められない』って言ったわ」
「雅代ちゃんが秀雄さんにまだ未練があるのなら俺の入る余地はないのかも
しれないけど……。俺とのこと考えてみてくれないだろうか」
「哲司さん、結婚してるよね?」
「それが昨年離婚してるんだ」
「えっ、うそっ! 私、ちっとも知らなくて……。そうだったの?」
「ほんとなんだ。何か、言い出すタイミングが見つからなくて……」
哲司の予想もしない告白に驚きながらも雅代は冷静に返事をした。
「哲司さん、ありがとう。私なんかをそんなふうに想っていてくれたなんて
すごくうれしい。返事はもう少しだけ待ってもらってもいいかしら?」
「ああ、もちろん」
◇ ◇ ◇ ◇
哲司にプロポーズされて嬉しいのは本当だった。
元夫の秀雄からも再度のプロポーズを受けたばかりで、こんな男性が夫だったら 良かったのにと思っていた人からもプロポーズされ
人生初のモテ期到来で、まさしく雅代は酔いそうになった。
そんな風な雅代は、この日、酔っ払い状態でふわふわした気分のまま哲司との時間を数時間過ごしたあと、哲司に送られて寮へと帰て行った。
-1271-
――――― シナリオ風 ―――――
◇手紙と決意
〇製糸工場 寮 ・ 夜
雅代、便箋に筆を走らせる。
雅代(N)「秀雄から返事は手紙でいいと言われた。
ならば……次の公休日、哲司さんに会いたい」
手紙を書き終え、封を閉じる雅代。
哲司に公休日を知らせる手紙を出す。
雅代(N)「休みの日は家で休めばいいのに……。
でも、気の置けない哲司に会いたかった」
◇再会
〇駅の改札口/日中
改札口の側で待っていた雅代が手を振る。
少し華やかめの着物姿。
哲司「やぁ、久しぶり。だいぶ待った?」
雅代「大丈夫。少しばかりよ」
哲司「そっか。……行こうか」
並んで歩き出す二人。
〇街中のカフェ/午後
テーブル越しに語らうふたり。
雅代「どうしたの? あんまり見られると恥ずかしいわ」
哲司「きれいだから、見惚れてたんだよ」
雅代「褒めても何も出ないわよ」
(ふたり、笑い合う)
哲司「雅代ちゃん、痩せたね。仕事きついんじゃない?」
雅代「分かった? 少しきついかな。……でも頑張らなきゃ」
哲司「無理はするなよ。しんどいときは休んでいい」
雅代「うん、そうする」
安堵の笑み。
雅代は意を決し、秀雄との再会と復縁話を語る。
長い沈黙ののち、哲司が口を開く。
哲司「雅代ちゃんは……どうするつもり? 何て返事したんだい?」
雅代「『分からない、すぐには決められない』って答えたわ」
哲司(真剣な表情で)
「もし……雅代ちゃんが秀雄さんにまだ未練があるなら、俺の入る余地は
ないのかもしれないけど……。
俺とのこと、考えてみてくれないか」
雅代「……哲司さん、結婚してるよね?」
哲司「実は……昨年、離婚したんだ」
雅代「えっ……うそ……。そんなこと、知らなかった」
哲司「ほんとだ。言い出すタイミングを失ってし……」
雅代、驚きながらも静かに頷く。
雅代「……ありがとう。私なんかを想ってくれて。
でも……返事は、もう少しだけ待ってもらえる?」
哲司「ああ、もちろん」
◇帰路
〇駅前通り~寮前 ・ 夕方
(雅代、ふわりと笑みを浮かべながら歩く)
雅代(N)
「元夫からの再縁の誘い。
そして、ずっと心の奥で思っていた人からのプロポーズ。
まるで夢みたい……人生初のモテ期到来で酔ってしまいそう」
雅代、哲司に送られ、寮へ帰る。
雅代の背に夜風が吹く。