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「……本当に、なんですか?」
だってこんな、いかにも先走ったような振る舞いを、あっさりと受け入れてくれるだなんて……。
「前に早めに結婚の話を進めようと伝えただろう」
パンフレットを私に手渡して穏やかに話す彼に、いつかの言葉をちゃんと覚えていてくれた嬉しさが込み上げる。
「……あの、実はこれは、お父さんからの受け売りで……。だけど急にこういうフェアに誘ったら、貴仁さんには引かれてしまうかなとも思っていて……」
「どうして私が引くと思うんだ?」
うつむいた私の頬に、彼がふっと片手を当てがう。
「だって……なんだかあなたの都合も考えずに、私が勝手に先を急がせようとしているみたいで……」
「そんなことは、気にしなくていい。勝手になどとは、私は少しも思っていない。それに早く君と一緒になりたいと、そう感じているから」
彼の言葉はいつもストレートに胸に響いて、私の抱える愁いをいとも簡単に拭い去った。
「それと、君の父上が紹介をしてくれたのなら、いずれはあいさつもきちんとしなければな」
「あっ……はい」
彼の一言一言に、さっきまで霞みのように広がっていたモヤモヤが、パァーッと晴れていく気がする。
「では、ブライダルフェアへいつ行くか予定を立てようか。早い方がいいだろう」
言いながら彼が椅子に座り直すと、「パンフレットを一緒に見よう」と、私を促した。
「はい……」と、自分も改めて腰を落ち着け、テーブルの上にパンフレットを見開いた。
「あのホテルで、行われるのか」
彼がページをめくりつつ呟く。
──それは、よく雑誌などのメディアにも取り上げられる、ガラス張りの挙式場が有名なハイクラスのホテルで、父の相変わらずの押せ押せなムードが感じられた。
「あの、私は、別にここではなくてもいいので……」
折に触れ何かと気張る父の姿が透けて見えるようで、気恥ずかしい思いで口にする私に、
「このホテルなら、客室にクーガの製品の取り扱いがあるから、こちらの融通も利くかもしれない」
そう喋る彼に、目の前のこの人は、あの大企業KOOGAのトップなんだということが改めて思い出されて、自分がそんな人と結婚をすることが、お父さんとの話でもしたけれど、まるで夢物語のようにも感じられるみたいだった。