「レイブ! 今日の薬は飲んだんだろうな! 良いか? 毎日欠かしてはいけないんだからな! 忘れたら全部終り、判っているだろうな?」
「大丈夫だよ、バストロおじさ、っと、師匠ぉ、忘れたりしないさぁ、僕だって小さいけど魔術師見習いなんだから大切な事を忘れたりしないさぁ! それより見てよっ! ギレスラの鱗で作ってみたんだっ! 粉薬ぃ! どうかな? ちゃんとユーカーキラーに出来てるぅ? 見て見て、見てぇ!」
一年前、ハタンガ周辺を広域に襲った『魔力災害』の現場でレイブを助けてから、兄の様に父の様に、時に厳しい師匠として、自らの技を引き継ぐ、魔術師として育て続けてきた、『北の魔術師』バストロは、レイブが差し出した粉薬を無言で受け取り、その単眼、左目で食い入る様に吟味した後、苦笑いを湛えながら答える。
「こいつは駄目だなぁ、まだまだお前自身の魔力が混ざっちまっているぞ? レイブ、何度も言っているが竜、ドラゴンの鱗はそのままで強力な石化回復薬になる、一般人が砕いたり磨り潰したりするとその人間の魔力のせいで台無しになってしまうんだぞ? だから作る時には自分の魔力を一切係らせてはいけないんだからなっ! 無心、それが出来るまでは薬を作ってはいけないっ、そう言っておいた筈だがぁ? それにっ、ギレスラの鱗が自然に落ちるにはまだ早いよな? まさかお前、弟の鱗を剥がしたり削り取ったんじゃないだろうなぁ!」
「うぐっ!」
魔術師バストロはレイブの後ろで小さくなっている薄めの赤い鱗に包まれた子竜に顔を移して言う。
「どうなんだギレスラ? 正直に言わないと容赦しないよ?」
バストロの半分位、レイブよりやや大きな子竜、ギレスラは俯きながら言う、大変申し訳ない表情だ。
「グガ、グ、グガァ、グルルゥ……」
バストロはレイブに対して大きな声で告げる、表情はニヤリ、であった。
「どうだレイブ? 何か申し開きがあるかい? それともギレスラが嘘を付いたとでも言うのかい?」
レイブは慌てて答える。
「ギレスラは嘘なんか付かないよ! 誇り高い竜種だし、僕のたった一人の弟なんだからねっ! バストロおじさ、師匠…… 僕が無理やり頼んでしまったんだ…… だからギレスラは悪くないの、僕のせいなんだ、よ……」
「グガガァ……」
レイブの背に頭を押し付ける子竜はまるで慰めているようだ。
その二人の様子を見て、思わず込み上げて来る笑いを、口の前に拳を持って来る事で何とか隠した、魔術師バストロは誤魔化しの咳き込みと共に言う。
「う、ウホンっ! ではレイブ、レイブ・バーミリオン! 今回の罰はどれ位が相応しいか自分で申告しなさい!」
レイブ少年は顔を顰めた後、諦めた様な表情で答える。
「僕の食事を二回抜くのが適当だと思う…… 本当は嘘に係った全員の食事を一回抜くのが決まりだけどさ、今回はギレスラは悪くないからぁ、弟の分も僕がやるんだ、だって僕が無理やり頼んだんだもんっ!」
「グギャグギャっ! ググググゥ……」
抗議の声を上げる子竜、ギレスラに優しい微笑みを向けながら、魔術師バストロはいつもの優しい口調に戻ってレイブに言った、ワシワシと彼の茶色の髪を撫で回しながらである。
「では、そうしよう! さぁ、夕食にしようか? 今夜と明日の朝はレイブ用のご飯は無しだよ! 偶然にも今日は僕の食欲が無かったからね、残すのも勿体無いから半分分けてやるとするかぁ! 今夜は特別だからなレイブ! おっと明日の朝もかな? はははは」
「バストロおじさんっ! ありがとうっ!」
「ウホンっ! おじさん?」
「師匠だったぁ! 師匠ありがとうー、お腹が空いたよぉ! ペコペコだぁー!」
「ははははっ!」
「グアグアグアァ♪」
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