テラーノベル
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「こちらへどうぞ」
俺はアクアレムの騎士達に案内され、水の上に静かに浮かぶゴンドラへと乗り込む。
俺、ナハト、ジャガー、ソニア、ヨハンナ、ママ上と乗った後に、アクアレムの騎士二人が漕ぎ手となってゴンドラの前方と後方に乗る。
「それではポセイドン城へと、ご案内致します」
女騎士が、フォルコラと呼ばれる長い棒で漕ぎ出すと、ゴンドラは水面に波紋を作りながらゆっくりと進んでいく。
俺達の目の前に広がるのは、まるで絵画のような光景だった。
【水の都オーベル】――アクアレムの首都。
そこは、陸地ではなく、海の上に築かれた都市。建物は大小の島や浮桟橋の上に建てられ、道路と呼べるものはなく、街全体が無数の水路で繋がれている。
「外から見ても芸術的だったが、中も素晴らしいものだ」
ソニアが思わず声を上げた。
しかしジャガーは首をかしげる。
「そうか? 道が全部水路になってるって普段不便そうだが」
「そんなことはないぞ、あれを見ろ」
俺は水路を泳ぐ人魚族の女性を指差す。
その胸には貝殻で出来たブラが着用されていた。
「貝殻ビキニ……伝説だと思っていたが存在していたのか」
「そのようだ。人魚と言えば貝殻ビキニだからな」
「「水の街最高だぜ」」
「お前らは……」
呆れ返るソニア。
その時、ママ上が水面を流れてくる二枚のホタテの貝殻を拾い上げる。
それをそっと自身の胸に当てる。
「ママ上、もしかして貝殻ビキニやろうとしてる?」
「えっ!? そ、そうね、ラウラちゃんが好きなら……」
「でも、ちょっとサイズがあってないかも」
「そうね、これじゃほとんどはみ出ちゃうものね」
ママ上、頼めばなんでもしてくれそうで怖い。
ボートを漕ぐ女騎士は、俺達を不審そうに見やる。
「失礼、ラウル王子。お連れの方は護衛ですか?」
「いや、ギデオンとトリスタンの王女だ」
「なっ!?」
「見合いに行くって言うからついてきたぜ」
「リガルドの王子が一人で乗り込むと、何が起きるかわからないしな。私達が見張っておく」
「な、なるほど……。では後ろの女性たちは?」
騎士は、ナハト、ママ上、ヨハンナに視線を向ける。
「余の女だ。セレーネがハーレムに入るというのなら、先輩に挨拶が必要だろう」
「僕ナハト~今のとこ正妻だよ。新入りをいびりに来た」
「ど、どうも、ステラです。この度は新人さんが入られるということで」
「こいつの女って言われると、なんだか釈然としないが」
ナハト、ママ上、ヨハンナが順に挨拶をする。
「ギャハハハハ、世界中のいい女は全て余のものである。当然セレーネも余がいただく。光栄に思え!」
女騎士はこの色ボケ王子めと嫌悪感を見せるも、すぐに笑顔を作る。
ゴンドラがゆっくりと市場に差し掛かると、商売をしていた人々がこちらに気づく。
「まさかリガルドのバカ王子じゃ……」
「恐ろしや……戦争しに来たんかね」
「なぜこんなところに……」
やはり歓迎はされておらず、俺が視線を向けると皆俯いて視線を外す。
「絶対侵略の下見だ……」
「今のうちに水の中に沈めちまったらどうだ? 水中なら、オレ達でも勝てるだろ」
ひそひそと聞こえる話に、ジャガーは「けっ」と悪態をつく。
「ヒソヒソグチグチと。綺麗なのは街だけか? 別にリガルドに何かされたわけじゃねぇんだろ?」
「も、申し訳ございません」
騎士はばつが悪そうに謝る。まぁそれが世間のリガルドに対する評判だよなと、言われ慣れている俺からすると別段怒りもない。
突然来て民が不審がっているのなら、目的を教えてやろう。
俺はゴンドラの上で立つと、市場の人間に対して大声を張り上げる。
「余はリガルド帝国第三王子、ラウル・グランツ! 貴様らの王女を手籠めにしに来た! 貴様らの愛する王女は余の愛玩具となるのだ! ギャハハハハハ!」
俺が叫ぶと、アクアレムの民の目に怒りの色が浮かぶ。
「なんて奴だ!」
「やっぱりこの国を侵略に来たんじゃないか!」
「悪王子め本性を露わしたな!」
「ギャハハハハ! お前らの王女に、あんなことやこんなことしちゃうもんね! 調教してメス豚に落としちゃうから!」
そう言うと市場の子供から「豚はお前だろう!」と結構効くカウンターが飛んできてダメージを受けた。
その様子にジャガーはおいおいと服を引っ張る。
「お前まで張り合ってどうするんだ。国民怒らせても意味ないぜ」
「いや、意味はある」
「どういうことだ?」
俺たちを乗せたゴンドラは、市場から逃げるように水路を進み、やがて巨大な城へと近づいていった。
それは、まるで海そのものが形を成したかのような神秘的な城だった。
真っ白な壮麗な建造物で、地上から槍のように尖った屋根までの高さは100メートルを超える。外壁には波と渦を象徴した国旗が掲げられ、歴史的価値を感じる。城の正面には巨大な門があり、それが静かに開くと、ゴンドラは吸い込まれるように中へと入る。
「ここがポセイドン城……まるで神殿のようだな」
ソニアが呟く。
城の周囲には、滝のように水が流れ落ちる柱が並び、それが水路へと注がれていた。
ゴンドラを降りて城内へと入ると、騎士たちが整列して俺達を出迎えた。
「こちらへどうぞ」
騎士に案内され、城の謁見の間へと到着した。
玉座には、本来そこにいるべき人物ではなく、今回の事件の犯人であるオクタスが深く腰掛けていた。
「これはこれは、ラウル王子。ようこそいらっしゃいました」
「うむ、余もまさか、こんな田舎くんだりにまで呼び出されるとは思っていなかった」
オクタスの額にピシっと血管が浮かぶ。田舎扱いが効いているようだ。
「そちらに見えますのは、ジャガー王子とソニア王女のようですが。どちらも来訪の予定は聞いていません」
「そう硬いこと言うなよ」
「ラウル王子が、見合いでアクアレムに行くと聞き、彼一人では威圧的な来訪になるというこで我々が同行した」
ソニアはもっともらしいことを言っているが、この二人がいることでリガルドとアクアレムでトラブルが起きた時、即時ギデオンとトリスタンが介入するという意思表示でもある。
「こ奴らの話は良い。早く余のハーレムに入るセレーネ王女を連れて来るが良い」
そう要求すると、オクタスは大きく首を振った。
「王子、いろいろと齟齬が発生しています。まず第一に、我々はそのような見合いを設けてはいません」
「当たり前だ、誰がお前のようなタコと見合いなどするか」
「いえ、そうではなく、王女もそのような書類を送った事実はないのです。恐らく誰かのイタズラかと思われます」
「なに?」
俺はセレーネが写った釣書を見せる。
「この釣書の印章は確かにアクアレムの物であろう。この国はイタズラで、国璽を使えるというのか?」
国璽とは、国家の表徴として使われる印章で、主に国の重要文書に使用されるものだ。これがイタズラに使用されるというのは大問題である。
「そ、それに関しては調査中でして……」
「では誰がこれを送ってきたのだ? 確かにこれは、このオーベルの街から発送されたものだぞ! もっと言えば、この紙もアクアレムの公文書で使用されるものだ!」
「それも調査中で……」
「ええい、お前では話にならん。セレーネ王女を出せ。本人に直接問いただす」
「ですから、王女は体調不良で……」
「貴様……まさか実権を握ったから、王族を排除しようとしているのではないだろうな!」
あまりの図星に、オクタスは肩をビクッと震わせる。
「いえ、決してそういうわけではなくですね」
オクタスは演技っぽい仕草で深く考え込むと、これまた演技臭く首をふる。
「このことを言うかどうか迷ったのですが……」
「なんだ?」
「仕方ありません、白状致しましょう。近く私とセレーネ王女は婚約するのです」
「「「嘘をつけ!!」」」
あまりのありえなさに、俺とジャガーとソニアの声が同時に被る。
「セレーネがお前のようなタコと結婚するわけがなかろう! 妄想も大概にしろ!」
「お、王子。一応私はアクアレムの最高指導者です。あまり砕けた物言いは自重していただきたいのですが」
オクタスの額に血管が浮かぶ。
「お前の言葉で余計信用できなくなった。いいからセレーネを出せ」
「それはできないと何度も……」
「誰かが余を呼び出して、わざわざリガルドからやって来たら貴様らの騎士隊に大砲で攻撃されたのだぞ! 挙げ句本人には会わせないとは、余をバカにするのも大概にしろ! この街の人間にも大々的にセレーネと結婚すると言って回ったのだ! 余に恥をかかせるつもりか!」
俺の迫真のキレっぷりを隣で聞いているナハトは、ぼそっとヨハンナに囁く。
「後半は逆ギレだよね」
「恥をかいたのは100%自分のせいだな」
オクタスは、あまりにもキレちらかす俺に観念したのか「仕方ありません、一度姫様の体調を伺ってきます」と立ち上がる。
ジャガーは「すげぇなゴネ勝ちした」と、若干の呆れを含んだ笑みを浮かべる。
「お前、よくあんなめちゃくちゃな言い分出せるよな」
「ああ、交渉してる時の俺は悪役にトランスしてるからな。わりと本気で恥をかかされたと思って喋ってる」
「お前がトランスしてるとき、一人称が”余”だからわかりやすいぜ」
256
瑞希 流星♟也中
372
🍎🥧アップルパイ
84
コメント
1件
ああ、この回めちゃくちゃ好きだな。ラウルが悪役トランスしながらも実はちゃんと計算して動いてるのがよく分かる回だった。オクタスに「田舎」と連発するくだりは笑ったし、ママ上の貝殻ビキニチャレンジは不意を突かれた。ナハトとヨハンナの後方で「逆ギレだよね」って冷静なツッコミも絶妙で、キャラ同士の距離感がしっかりしてていいな。次の展開が気になる。