コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「バブバブ」
オリビアが手紙を送ってから三日程が経った。
僕は自由に空を飛べるようになって家の屋根へと上る。藁ぶき屋根、歴史を感じる家の温かさ。いい天気で気持ちのいい風が吹いてくる。
「あなたがアルス?」
「バブ!?」
屋根で寝そべっていると声がかけられる。何処から声がするのかわからなくてキョロキョロと周りを見渡す。
誰もいない、僕の気のせいだったかな?
「ふふ、上よ」
「バブ!?」
再度驚かされて声のする方を見ると、緑色の髪の手のひらサイズの妖精がクスクスと笑っていた。妖精は僕の頭に乗ったり、肩に触れたりしてくる。体全体を調べられているような気分になる。
「まだまだ子供ね。言葉も話せないじゃない。それで魔法を行使してるなんて天才どころの話じゃないわね。神とか悪魔とかそのレベルだわ」
シディーさんはそう言って目の前で飛んで微笑んでくる。
とても可愛らしい容姿をしてる妖精。思わず見惚れてしまう。
「光と闇と風の球を作ってるのね。よくできてる。私の本を読んでやったのかしら?」
「バブ!?」
そう言えば、あの魔法書の著者が【シディー・オールドフェイ】って人だった。本を出す程の人だったとは思わなかった。
そんな人と知り合いなんてルード達は凄い人たちなんじゃ?
「ふふ、1歳にもならずに成しえるなんて私を簡単に超えてくれそうね。楽しみだわ」
シディーさんはそう言うと悲しい顔で見つめてくる。
「さて、ルードはちゃんと言われたことをやっているかしら。オリビアも元気かな?」
「バブ!?」
シディーさんはそう言いながら大きな風の球を作り出す。そして、その中に僕と自分を入れて地上に降りる。
こんなに小さいのに大人を入れられるほどの球を作ってる。そうか、球を大きくすれば一つでも行けるんだ。
そう思って彼女を見ているとウインクして教えてくれる。もう授業は始まってるってことかな。
「やっほ~、オリビア。元気にしてた?」
「え!? シディー!? もう来てくれたの?」
球を維持したままシディーさんと一緒に家の玄関の扉を入る。彼女に会えて喜ぶオリビア。
彼女を抱きしめるオリビアに僕は驚く。だって、まだ風の球は維持してる。僕らは入っている状態なんだ。
「ふふ、拒むものとそうじゃないものを区別しただけよ。魔法はそんなに不便なものじゃないわ。やりようでどうにでもできるわ」
「バブ……」
シディーさんは可愛いだけじゃない。本当に凄い人だ。
僕はルード達に褒められて調子に乗っていた。上には上がいる。このままじゃ一人で暮らしていけない。もっともっと頑張るぞ!
「ふふ、指導しがいがあるわね。ルードを思い出すわ。出来ないというとやって見せると言ってきたあの子を」
「懐かしい」
シディーさんはそう言って僕のおでこを突いてくる。オリビアも懐かしそうに窓の外を見つめた。
「この魔法の球は! シディーが来たのか?」
「あら~、久しぶりねルード。師匠に向かって呼び捨てとは成長したわね」
「な!? 呼び捨てにしろって言ったのはシディーだろ! 免許皆伝とかいって」
風の球で玄関を塞いでいるとルードが帰ってきて入れずにいた。
シディーさんが迎えて言い合いを始める。彼女はからかっている感じだけど、ルードは本気っぽいな。
「そのくらいの【魔法球】壊せるでしょ。やってみせなさい」
「この。なめやがって。見てろよ。って硬いな」
「ふふ、ミスリルくらいの硬さはあるかもね」
「ミスリル!? 相変わらず化け物妖精め」
言い合いを口を閉ざすルード。腰の剣に手を添えて目を瞑る。
目をつぶったまま剣を中段で構える。そして、振り上げる剣で魔法球を切ると剣が下へと降りていた。
確かに振り上げていたはずの剣が下へと降りてる。あの構えと振り方は毎朝やっている素振りの一つだ。凄い速さで剣が往復したってこと?
「へ~、ちゃんとやってたのね。剣で鉄を切る技法を」
「へへ、今じゃミスリルでも切れるってわけだ。どうだシディー!」
「調子に乗らない。私の魔法球はもっと硬くなるわ。アダマンタイトくらいきれるようになりなさい」
風の魔法球が綺麗に真っ二つになって風が天へと昇っていく。登り竜のように上る風を他所に、二人はさも当たり前のように話す。
僕ってやっぱりすごい人たちの子供として生まれてしまったんだな。
「でも……。凄い子ねあんたも。たかだか20年で。私の教えなんて6年くらいだったでしょ。オリビアも……ほんとに凄いわ」
「な、なんだよ改まって」
シディーさんはそう言って涙目で二人の頭を撫でて回る。撫でられた二人は嬉しそうに涙目になって笑う。
「私なんて500年生きてるのにこの程度よ。笑っちゃうわ」
「バブ!?」
シディーさんの言葉に吹き出す。あんなに可愛いのに500年生きてるの!?
忘れてたよ。ここは異世界ファンタジーな世界だった。妖精なんて長命代表みたいな種族だよね。500年でも若い方なのかも。
「そんな笑うなんてありえない。妖精の世界でもシディーは凄いでしょ!」
「ん~、一位か二位かな?」
「ほら! だから凄いんだって」
妖精さんの一位か二位の人に魔法を教えてもらえるなんて……。いいのかな僕で。光栄だけど、申し訳ないな。
「まあ、今日からよろしくね。住み込みでアルスの指導に入るから。あまり夜に騒がないでよ? 人族ってすぐに乳繰り合うから」
「「言い方! ……気を付けます」」
シディーさんがそう言って僕の頭の上に乗っかる。彼女も僕と同じでイチャイチャを見るとケッとなってしまう人みたい。気が合いそうだ。