コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「さて、今日から指導をするわけだけど。あなたは赤ん坊なので室内での講義から始めるわ」
シディーさんがやってきて次の日。本差し出されて勉強会が始まる。魔法についての勉強みたい。
「私の書いた本をオリビアが持っていたので使っていくわ。まずは魔法が生まれた経緯から」
シディーさんはそう言って本のページをめくっていく。
魔法の歴史も面白い。地球の人類は雷から火を得たと言われているが、この世界の人類は魔法で火を得た。
言葉も生まれていない時代に、この世界の人類は魔法を得た。火が必要なら火の魔法、水が必要なら水の魔法を使った。
最初はそのものを作り出すだけの魔法だった。文字が生まれると魔法は昇華される。
「詠唱魔法が生まれ、人類は驚異的な力を生み出すわけ。詠唱が魔法の力を強めた。意味を与えたというべきからしね。明確に魔物を倒すという言葉を魔法に持たせる。例えばこう。【我がマナより生まれし風よ。我が敵を切り裂け】【エアーカッター】」
シディーさんがそう言って窓の外のかかしに風の刃を放つ。風は見えないと思ったけど、彼女のマナを帯びているからか、緑色の刃になってる。
風の刃が当たったかかしは上下で別れる。
「まあ、こんな感じ。言葉が分かっていても詠唱ができないんじゃあなたにはまだ無理ね」
「バブ……」
早く大人になりたい。
ブスッと彼女の言葉に相槌を打つと彼女は微笑む。
「聡明なアルスならすぐに言葉も話せるようになるでしょ。歴史の勉強をしたらすっかりお昼になっちゃったわね。明日からは課外授業にするわ。ピクニックね」
「バブ?」
シディーさんはそう言ってオリビアに目配せする。お昼ご飯の準備をしていた彼女にお弁当を催促してる。シディーさんは体が小さいから少しでお腹いっぱいになるんだよな。荷物も少なく済むからいいね。
「はい、到着」
次の日になって課外授業と称してピクニックにやってきた。
村から少し離れた森の中。ルードとオリビアもついてきてくれたので本当にピクニックだな。
「久しぶりに狩りでもするか」
「……そんな暇あるかしら?」
「え?」
ルードが嬉しそうに剣を抜くとシディーさんが不穏なことを言ってくる。彼が首を傾げるとシディーさんは首を横に振った。
「アルスは私についてきて」
「アイ!」
シディーさんに言われるまま彼女についていく。ルード達はその場でキャンプの準備を始めてる。泊まるのかな? と思うような装備だ。
「もうちょっといったところね」
「バブ……」
シディーさんは何を探しているんだ? そう思いながら彼女にハイハイでついていく。魔法球で飛ぶのは今はダメだと言われている。許可が出るまで禁止だ。
「いたいた」
シディーさんはそう言って木陰から前方を見据える。ニヤニヤと口角を上げて僕を見つめてくる。
「ゴブリン。人類が最も多く戦った魔物。スライムも捨てがたいけれど。ゴブリンは自分から人類に喧嘩を売ってきた魔物。人類の宿敵と言ってもいいかもしれないわね」
「バブ」
緑色の肌をした小人といった感じの魔物だ。耳がとがっていて目つきが鋭い。涎を隠そうともしないゴブリンに知性は感じない。本能だけで生きているのが分かる。
「さあ、あれを倒してみて。水が得意なのよね? それでいいわよ」
「バブ!」
シディーさんの声に答えて僕はかかしに撃った水の球を使う。彼女の授業を聞いた後だ。詠唱をしなくてもイメージで言葉の効果を試してみる。
「バブ!」
「え!?」
【我がマナより生まれし水よ。我が敵を穿て】【ウォーターボルト】っと頭の中で唱えて水の塊をイメージする。両手をゴブリンに向けて放つとゴブリンの胸に風穴が開く。
ゴブリンは前のめりに倒れて絶命。黒い霧になって消えていく。魔物は死を迎えるとマナになって消えていく。死体の代わりに魔石というものを残すはずなんだけど。
「ふふ、いい誤算ね。一撃で倒しちゃうなんて」
シディーさんはそう言ってゴブリンの魔石を抱える。ゴブリンの魔石は僕の小指程の大きさ。彼女は手のひらサイズだから枕くらいの大きさになってるな。
嬉しそうに話す彼女は森のもっと奥を見つめる。
「今のゴブリンは見張りといったところよ。この奥に巣窟があるはず」
「バブ!」
シディーさんと一緒に更に森の奥へと入っていく。そして、5匹目のゴブリンを倒すと称号を得る。
『称号【生まれて一年以内にゴブリンを倒した】を手に入れました』
「バブ!」
女神さまの声に嬉しくて声を上げるとシディーさんが首を傾げる。
「あれ? もしかして称号が出た? 赤ん坊が魔物を倒したんだから珍しい称号でしょうね。どんなものが出たのか気になるわね。早く話せるようになりなさいよ」
「バブ~」
シディーさんはそう言って僕の頭の上に乗っかってくる。
僕は効果が知りたいよ。彼女は何か称号を持っていないのかな?
「魔法の勉強ばっかだったから称号の話をしていなかったわね。私の持っているものなら知っているから教えてあげる。私は魔法の【トリプル】を持っているわ。オリビアと同じ。トリプルは適性のある属性の魔法の威力を上げてくれるわ」
「バブバブ……」
なるほど、ということは僕は【セブン】だから彼女達以上に魔法の威力が上がるってことか。まだまだレベルが低いから威力は弱いけど、レベルが上がったら凄いことになるのかな?
「そういえば、レベルは上がっていないのね?」
「アイ!」
「ふ~ん。あなたはレベルが上がりにくい子なのかもね。早い子はゴブリン3匹で上がる子もいるのに」
シディーさんは首を傾げて聞いてくる。素直に答えると残念な話をしてくれる。
そうか~、僕はレベルが上がりにくいのか。すべてがいい方向の物がもらえるなんて都合がよすぎるよね。まあ、ゆっくりとあげていこう。