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猫塚ルイ

「なんだ。ケンジ……。いつもの格好はどうした?」
入ってくるなり、鋭い三白眼でカウンターの奥のケンジを見据えたのは理人だった。
いつもと違うシックな男装の正装姿を不審がるように眉をひそめる理人に、ナオミは穂乃果からすっと腕を離し、悪戯っぽく微笑む。
「たまにはいいかなって思っただけよ。それと! 本名で呼ばないでっていつも言ってるでしょっ!」
「フッ……そうか。まぁ俺は美味い酒さえ飲めれば別にどっちでも構わない……」
理人は素っ気なくそう呟きながら、慣れた様子で適当な席に腰を下ろした。すると、そのすぐ後ろからついてきていた瀬名が、楽しそうに声を上げて理人の隣の席へと滑り込む。
「もー、理人さんってば。素直に似合っているって言ってあげればいいのに」
「五月蠅い!」
「……ふふっ」
そんなやり取りを横目で見つつ、穂乃果もテーブルにおしぼりを置いたり、自分に出来る範囲の手伝いをしていく。
彩美は、理人と瀬名の登場、そして交わされる会話のテンポの良さにすっかり圧倒され、カウンター席で目を白黒させながらも、おずおずと店内をキョロキョロと見渡していた。
「あ、あの、安住さん……。今のって、もしかして……」
完全に『常連の空気』に呑まれつつ、それでも好奇心を隠しきれない彩美が、おしぼりを配り終えた穂乃果の裾をそっと引っ張る。
「うん、いつも来てくださるお客さんだよ。すごく良い人たちだから安心して」
穂乃果が小声でそう言って微笑むと、彩美は「そういう意味じゃなくて……!」ともどかしそうに身悶えした。
「いつもって、あなた此処でバイトしてたの? それにさっき織田さんが、安住さんのこと後ろからぎゅって……!」
「あー、ええっと、バイトと言うよりお手伝い? みたいな……」
「まぁ、師長からも『真鍋医師と安住さんの婚約話は全て斎藤さん達が勝手に流したデマ』って言われてたから彼とは何もないのはわかったけど……こんなイケメンに囲まれてるなんて聞いてないよ」
「まぁ、私にも色々とあってね。話すと本当に長くなっちゃうから、おいおい話すから」
彩美のあまりに素直な混乱ぶりに、穂乃果は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、もう一度優しくなだめた。
いつもの常連組が揃ったことで、店内は一気に華やかで温かい、BLACK CATの『いつもの夜』の熱気を帯び始めていく。
ナオミが手際よくボトルを傾け、理人と瀬名の前に琥珀色のグラスが滑り込む。湊も軽快な足取りでオーダーを取りに動き回り、店内には楽しげな笑い声とグラスの触れ合う心地よい音が響き渡っていた。
あの孤独で、誰もが敵に見えたナースステーションの重苦しい空気は、ここにはひとかけらも存在しない。
自分のことを真っ直ぐに信じてくれた大切な親友に、ようやくこの温かい居場所を紹介できた。その喜びだけで、穂乃果の胸は心地よい緊張感と幸福感でいっぱいだった。
コメント
1件
わあっ、第99話もう読んだよ〜!!😭💕 BLACK CATのいつもの温かい空気感がすごく伝わってきて、読んでてこっちまでほっこりしちゃった〜!特に理人さんが相変わらずツンデレなのに瀬名さんにすぐバラされちゃうとことか、ナオミが穂乃果ちゃんをぎゅってするシーン…もうニヤニヤが止まらんかった✧*。 彩美ちゃんが「こんなイケメンに囲まれてるなんて聞いてないよ」ってパニックになってるの、めっちゃ可愛いよね(笑)穂乃果ちゃんがようやく親友に自分の居場所を紹介できた嬉しさが伝わってきて、胸が熱くなったよ〜!😭🎀✨