WSの部分的解体により、資金が過剰に集まっている。
ヨーロッパにある店舗売却だけでも数十億、それが世界中にあるのだ。
店舗売却額は100億を超えた。
自社ビルである支社は売却せず、不動産として新たに賃貸事業を始めた。
WSとしての本来の業務に残されたのは、ヨーロッパにある二つの巨大倉庫とアメリカに一つの倉庫、アジアに一つの倉庫、日本に五つの倉庫と本社ビルとなる。
日本の五つの倉庫の内、一つだけ倉庫としてではなく、聖や聖奈が過去に行っていた瓶詰めなどの従来の単純作業を行う場所として使用し続けることに。
それでも日本の倉庫の数が多いのは、単純に聖達の荷物置き場兼異世界輸入物の仮置き場として利用しているからである。
それでも半分以上の倉庫を処分したのだ。
その売却金ももちろんWSの運営資金となった。
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「また金が増えてる…」
俺名義の通帳に記載されている金額が増え続けている事実に、小心者の俺は身震いした。
わ、悪いことはしてないんだからねっ!?!
「そのリアクションはおかしくないかな…?」
「仕方ないだろ。俺は聖奈と違って生粋の庶民なんだから、大金は怖いんだよっ!!」
「実家にもこんなに現金はないよ?資産は同じくらいはあるかもしれないけどね」
やっぱセレブじゃんっ!裏切り者っ!!
…なんの?
「大体個人で100億も金持っている奴なんてそんなにいないだろ?俺は怖いよ…いつ、美人局に遭うか…」
「へー。聖くんは綺麗な女の人の誘いなら断らないんだ?」
間違えた……
地球での暴力は怖くないから、テキトウなことを言ってしまった……
私が恐れるのはこの世で唯一無二、貴女だけです……
「じょ、冗談だよ?」
「わかってるよーだ。それよりも、またあの季節が近づいて来たけど、準備はいい?」
俺の言葉に聖奈は舌を突き出してあっかんべーをした。
なに、この可愛い生き物。
「季語にするのはやめてくれないか?いつも気が重たいんだ」
「仕方ないよ。あれからお姉ちゃんも参加する様になったのは」
そう。東雲家の恒例行事になってしまった毎年の家族旅行with聖奈に、姉貴が着いてくるんだ……
まぁ、聖奈がいるからなんだけど。
行かなきゃいいと言われたらそれまでなんだが、俺だけじゃ準備も出来ないし、偶には何処かに聖奈を連れて行かないと可哀想だしな。
「今回は何処に連れて行かれるんだ?」
「言い方っ!!私、頑張って調べているんだよっ!?」
「す、すまん…連れて行ってくれるのでしょうか?」
えっ!?急にどうしたの!?
さっきまでラブラブだったじゃん……
「ふふっ。冗談だよ!さっきの聖くんの冗談のお返しっ!」
「…やめてくれよ。心臓が止まるかと思ったぞ…」
へっへー!
じゃないんだよ。本当にびっくりしたぞ。
こんなつまらないことで聖奈が怒ることなんて、普段だとないからな。
聖奈が怒るのはいつも俺が無理をした時だ。
あれ?女神かな?
「今回はお義母様の希望でオーストラリアにしたよ。お義父様とお義母様の予定は押さえたからお姉ちゃんへの連絡はよろしくねっ!」
「…むしろそっちをお願いしたかった」
聖奈も聖奈で可愛がられ過ぎて、逃げている節があるからな……
まぁここは嫁さんを守る為にも、俺が一肌脱ごうじゃないか!
……とりあえず着信拒否を解除するところから始めよう。
「全く…お姉様をいつまで待たせるつもりよっ!」
あれから数日後、空港へとやって来た俺に、天敵から早速小言が……
自分の事を様付けで呼べるんだな……
俺は未だに地球でも異世界でも、様付けで呼ばれるのは苦手なのに。
「お姉ちゃんゴメンッ!」
「聖奈っ!良いのよ、貴女は。私が言っているのはこの馬鹿にだけだからね?」
勝手について来ている分際で、この言いぐさ……
「由奈。聖は悪くないわよ。お母さんの支度が遅くなっちゃったのよ」
「そうだぞ。金を出しているのは聖なんだ。あまりキツく言うと次が無くなるだろう?」
お袋のはわかる。事実だもん。
親父……テメェは息子を金蔓にしてんじゃねーよっ!?
「まあ、間に合っているんだからいいだろ?それよりも早くいこーぜ。俺達はビジネスクラスだから、専用のラウンジでコーヒーでも飲もう」
「チッ。遅れてきて偉そーに。お姉ちゃん、こんな弟に育てたつもりないのになぁ…ああ。何だか口が滑らかになりそうよ」
やめろっ!!
大体お前30超えてんだろうがっ!!
いつまで幼少期の粗相をネタにする気なんだよ!?
「お姉ちゃん行こっ?聖くんはお義父様とお義母様をよろしくね」
「おう。いつも悪いな」
大人のジャイアンを聖奈に任せ、俺は両親が迷子にならない様に先導して歩く。
「あら?聖?ゲートはあっちじゃないの?」
「何言ってんだ?ちゃんとチケットにも書いてあるだろう?」
「そっちはオーストラリア行きよ。私達が行くのはオーストリアよね?」
………後で分かったことだが・・・
今回の旅行はお袋の希望だったオーストリア行きを聖奈に頼んだそうだが、メールで誤字をしてしまい、オーストラリアだと聖奈は勘違い(?)してしまったようだ。
もちろん聖奈は全く悪くなく、老眼で確認も怠ってメールを送ったお袋が全面的に悪い。
「ごめんなさいね?」おほほっ
謝っているのかわかんねーな……
何でおばさんの謝罪って笑いながら言うんだろう…永遠の謎だな。
背は低いのにプライドだけは高いってか?
ラウンジでコーヒーをしばきながら先ほどの勘違いを正すと、聖奈が急遽空港の人へと掛け合うこととなった。
そして飛び立つ前に何とかオーストリア行きの飛行機をおさえることに成功したんだ。
「聖奈ちゃんごめんなさいね。宿も取れたって…流石だわ!」
「お母さん!あまりウチの聖奈に無理言わないでよね!」
ウチって何処だよ。お前は他人だろ。
「いえ。ヨーロッパ出張でよく使っていたホテルのオーナーが気を遣ってくれただけなので、私は何もしていませんよ。強いて言えば出張を組んでくれた聖くんのお陰です」
「このバカのお陰なわけないでしょ。聖奈のお陰よ。ありがとうね?こんな弟と我儘な母に付き合ってもらって」
バカかどうかは置いておいて、聖奈のお陰なのは間違いないな。
俺だけなら未だに砂糖をちびちび売っていたよ。
俺が魔法に出会わなければ、エンガード王国もシューメイル帝国に敗れて、俺一人ならこっちに帰って来て、途方に暮れていただけだろう。
マジで感謝しかないな……
誰だよ。この女神を俺に出会わせてくれた人は?
運が良過ぎると思ったが、貧乏神の弟に産まれたことで相殺されているんだろうな……
という訳で、俺達の目的地はオーストラリアから急遽オーストリアになったのだった。
芸術の才能が下の方に振り切れている俺達夫婦には無縁の国だが、これも何かの縁、楽しむとしますか。
オーストリアに着いた俺達は、ホテルにチェックインするや否や早速別行動となった。
親父&お袋組と聖奈&姉貴組と、ぼっちだっ!!
「何でだよっ!!?」
「うっさいわね!アンタに女の子が好きそうなブティック巡りができるって言うの?」
「聖奈はそんなに買物好きじゃねーよ!」
「それはアンタに気を使ってるのよ。ここは黙って男らしく『楽しんできて』って快く送り出しなさいよねっ!これだから童貞は…」
童貞ちゃうわっ!!既婚者だぞっ!!
だがまぁ姉貴の言うことも、一理ある。
はぁ…折角旅行に来たのになぁ…しかも新婚さんやで?
「聖奈。姉貴の面倒を見るのが辛くなったら、いつでも捨ててきていいからな?」
「ふふっ。大丈夫だよ。聖くんも寂しかったらいつでも合流してね?」
「…………チッ」
ふふふ。俺達はラブラブ新婚さんなんだよ。
姉貴は舌打ちでもしてなさい。構わんよ。
姉貴は無言で聖奈の手を握り、連れ去って行った。
「さて。とりあえず一人で入っても大丈夫そうなバーでも探すかな」
地球の飲み屋も久しぶりだから、案外楽しめそうだな。
俺は久しぶりの一人旅にワクワクしているのかもしれない。
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