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「私は別に ネクロフィリアじゃないんですよ」
飲食店の個室、注文した商品が届き、女は注文した紅茶を数口飲み込み目の前の男と目を合わせ語り出す。
「ただ好きなんですよ、動かない生物が」
「体温がない冷えた手を取り、頬擦りをする」
「それだけで私の心は満たされるのです」
一つ二つ瞬きをして、顔を紅茶に向ける
美しい琥珀の様な色に女は黙り込み、カップの縁を撫ぜる。
「でも、キミのやっている事は犯罪だ
キミは分かっているだろう?」
男が声を出す、女は紅茶から目を離し目の前の男を見る
不気味な男だ、身体中に包帯を付け、正気のない瞳で女を見ている。
「……ええ、そうですね」
「理解していますよ、ちゃんとね 」
「あぁ、そうだ…太宰さん知っていますか?」
「死体って鼻がもげそうな程臭いんですよ」
「香水で誤魔化しているけれど腐敗臭と甘い匂いが混ざって最悪ですよ」
「夏場は特に最悪だ、腐敗が早く進む、ハエが鬱陶しいくらい湧いて出てくるんです」
「彼女がハエに卵を植え付けられ、蛆が彼女を食べるんです」
「最悪ですよ、本当」
「生きていた彼女の匂いは無くなってしまうし、彼女の肉が食われてしまう」
「はぁ、食欲なんてありません、あの状態の彼女と食事をしようとしてもハエが料理に入って食欲が失せてしまう」
一口、紅茶を飲む
「…ねぇ太宰さん」
「私、あの子が好きなんですよ」
「私、高い体温が嫌いなんです」
「私、死んだ生き物が好きなんです」
「あの子、彼女、とても体温が高くて抱き付くととても暖かくて気持ち悪いんです」
「鳥肌が立ってしまう、拒絶してしまう、吐いてしまったんです、泣いてしまったんです」
「彼女が私を抱く時、体温の循環というか、私の体温が低いので彼女の体温を奪う様にして体があったかくなったんです」
「それがとても気持ち悪くて…私、自分の事が好きなんです、人より低い体温で暖かくないんです」
「でも、その…行為をし初めて私の体温が上がってきて、とても気持ち悪く…怖く、なりました
私が私じゃ無くなる様で気持ち悪かったんです」
体を震わせ、冷たい手で女は自分の顔を覆う。
「私、わたし…泣いてしまった、拒絶してしまった、彼女を、あの子を」
「私、好きなんです、温かい彼女が、笑う彼女が、太陽みたいで、見ているだけで心が温かくなったんです」
「いつも甘い金木犀の香りがして、彼女の近くに居るだけで心が休まるんです」
「好きです、優しい彼女が、温かい彼女が、でも嫌いなんです、温かい彼女が嫌いなんです、すごい矛盾ですよね知ってます、でも嫌いなんです、どうにか好きになろうとしても気持ち悪いと思ってしまうんです」
「今の冷たい彼女、笑わないんです、暖かくないんです、あは」
「死んだんだから当たり前ですよね、でも私彼女に笑って欲しいんです」
「冷たいまま笑って欲しいんです、冷たいまま抱いて欲しいんです」
「笑って、泣いて、怒って、喜んで……そんな彼女と映画を見たり、一緒にデートをしたかったんです」
「あの日、私が拒絶した日、彼女が死んでしまったんです」
「私が拒絶したら、彼女は謝罪をして彼女は自分の家に帰ったんです」
「私、彼女に謝ろうと彼女の家に行こうとして走ってたんです」
「でも、走ってた時メールが来たんです」
「[あなたも私を拒絶するんだね]って、来たんです」
「彼女の親、彼女が同性愛者だと話したら病気だと言い彼女を家から追い出したんです、そして全ての連絡手段を絶って事実上の縁切りです」
「だから、彼女拒絶されるのが嫌いだったんです 」
「彼女の家に行って、合鍵で開けて、風呂場で彼女が首を切って死んでたんです」
「彼女の顔が血で汚れて、まだ血が出てたんです」
「圧迫出血しようと首を手で押さえました、暖かかったんです
でも押さえました、彼女が死なない様に首を抑えました……」
「血が収まって、彼女の体が冷たくなりました」
「私が望んでいた通りの状態です、とても冷たかった」
「私、久しぶりに泣いたんです…頬に温かい涙が流れて少し気持ち悪くなりました」
「彼女の顔が血で汚れて、とても冷たくて、とても美しかったんです」
「標本の蝶の様でした、きっと小説で出てくる美女とは彼女の事を言うんでしょうね」
「明るく、愛らしい彼女が、冷たく、美しくなったんです」
「はは……まぁ、そうですね 」
「簡単に言うなら、死んだ彼女に惚れ直しました」
「流れた涙が悲しみから来たのか、喜びから来たのか分かりません、人間の感情というものは複雑ですからね」
「……あぁ、話したら少し楽になりました」
「ありがとうございます、太宰さん」
「私、彼女が好きなんですよ」
「とても好きなんです、でも彼女は何も喋らない」
「私、あの子が好きでした」
「とても好きだったんです、明るく元気な子」
「私、あの子を殺したんです」
「私、自分の事がとても嫌いです」
「あの子じゃなくなった彼女を愛してしまった…ふふ、あは」
「あぁ、ごめんなさい…私ずっと夢に出てくるんです、あの子が」
「ずっとずっと出てくるんです、ごめんなさい」
「どうして私を殺したんだ、って…どうして私を拒絶したんだ、って…あぁ、ごめんなさい」
「ふふ、あはは…好きですよ、えぇ好きです、大丈夫です」
「あは、だいじょうぶです」
「ずっと一緒にいますよ、えぇずっとずっと一緒にいます」
「さようなら、太宰さん」
「ありがとうございました、ごめんなさい」
女は席を立ち、2人分の会計を済ませる。
包帯をつけた男__太宰治はため息を吐き、言葉を溢す
「はぁ……もうダメだね」
彼女は犯罪に手を染めていない一般人で、織田作之助が拾った孤児の1人だった
年齢19歳、数年前あのカレー屋から出て一人暮らしを始めたそうだ
(オダサクが不安そうで話をしてみたけれど、あれはもう壊れてるそろそろ死ぬね)
「…はぁ、面倒くさい」
「壊れた人間を元に戻すなんて、不可能に近い」
(彼女が死んでしまったら多分オダサクは悲しむだろう、でもあぁ言う人間は死ぬ……あぁ、面倒くさい)
太宰は口を付けていない彼女と同じ紅茶を一気に飲み干し、席を立ち。
黒の外套を翻して、彼女が死なない様にする為を頭を回す。
友人が悲しまぬ様。