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#溺愛
オレンジ
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#役者パロ
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そろそろまともにいちゃついてる純愛書かなきゃ………。
放課後の喧嘩、あるいは冷徹なまでの策略。高等部の二年にして、学校中から畏怖混じりの視線を集める太宰は、どこか掴みどころのない、怜悧で狡猾な少女だった。緩やかに波打つ焦茶色の長い髪を肩にかけ、いつもどこか退屈そうに目を細めている。誰も彼女の本心を踏み荒らすことはできないし、誰も彼女の冷たい美貌の裏にある、底知れない闇に触れることはできない。誰もがそう、信じて疑わなかった。
しかし、その少女の仮面が、一瞬にして剥がれ落ちる場所がある。
「織田作! 織田作、あのね!」
夕暮れ時の準備室。国語教師の織田作之助が書類を整理しているところへ、勢いよく扉が開いた。滑り込んできた太宰は、さっきまでの冷ややかな気配を微塵も残していない。長い髪を揺らし、瞳をきらきらと輝かせ、まるで拾われたばかりの仔犬のように織田の元へと駆け寄る。
「おお、太宰か。今日も早いな」
「うん! 最後の授業が自習だったから、終わった瞬間に走ってきたの。織田作、あのね、この間言っていた本、私、もう全部読んじゃった」
普段の彼女を知る者がこの姿を見れば、間違いなく我が目を疑うだろう。他人の前では決して見せない、等身大の、いや、それ以上に無邪気で可愛らしい少女の顔がそこにはあった。
「そうか。あれは少し難しい言葉が多かった筈だが、もう読んだのか。やはりお前は頭が良いな」
「ふふ、織田作に褒められるのが一番嬉しい。それでね、その本の中にね……」
身振手振りを交えながら、楽しそうに今日あったことや本の感想を語る太宰を、織田は静かに見つめていた。その表情はいつものように変化が少なくて、少しだけ天然な、掴みどころのない大人のものだ。けれど、その眼差しには確かな温かみがあった。
二人は、学校の誰も知らない秘密の関係だった。教師と生徒であり、そして、人目を忍んで想いを通わせる恋人同士。
「……よし、これで今日の仕事は終わりだ。太宰、待たせたな」
「ううん、待ってないよ。織田作の仕事姿を見るのも好きだもの」
鞄を肩にかけ、太宰は織田の少し後ろを歩く。校内ではただの教師と生徒として振る舞うが、一歩校門を出て、人の少ない裏通りに入れば、二人の距離は自然と縮まる。
「織田作、今日はどこに行く?」
「そうだな。お前が前に言っていた、珈琲の美味い店にでも行くか」
「やったあ。あそこの林檎の菓子、織田作にも食べて欲しかったんだ」
嬉しそうに微笑む太宰の横顔を、織田は歩きながら見下ろす。もし男であったならあったであろう体躯に比べ、今の太宰は随分と小柄だ。制服の袖から覗く手首も細く、歩くたびに揺れる長い髪が、彼女が紛れもない少女であることを教えてくれる。
喫茶店の薄暗い奥の席に腰を下ろすと、ようやく二人の時間が始まった。
太宰は、自分の前に置かれた紅茶には目もくれず、じっと織田の顔を見つめる。
「何だ、太宰。俺の顔に何かついているか」
「ううん。ただ、こうして織田作と二人きりでいると、すごく安心するなって思って」
そう言って、太宰はテーブルの上で、そっと織田の大きな手に自分の手を重ねた。普段の、人を翻弄するような狡猾な太宰であれば、これくらいの手練手管は朝飯前だろう。現に、彼女はからかうように織田の指をなぞり、少しだけ妖艶な笑みを浮かべてみせる。
「ねえ、織田作。私のこと、ちゃんと女の子として見てる?」
「見ている。お前は綺麗な女の子だ」
織田は全く動じず、大真面目な顔で、淡々と事実を告げるように答えた。その無表情な、しかしあまりにも実直な言葉に、太宰の心臓が跳ねる。
(あ、ずるい……)
攻めるのは得意なのだ。言葉で翻弄し、相手の出方を伺い、優位に立つのはいつもの彼女のやり方だ。けれど、織田作之助という男は、その全ての計算を、真っ直ぐさで叩き潰してくる。
「……じゃあ、もっと近くに来てよ」
負けず嫌いな太宰は、さらに距離を詰めようと、椅子を引いて織田の隣へと移動した。小さな肩を彼の腕に押し付け、上目遣いで覗き込む。彼女なりの、精一杯の接触だった。少しでも織田を狼狽えさせたい、自分と同じように、どきどきして欲しい。
だが、織田はただ、ふっと視線を落としただけだった。
「太宰」
「なあに?」
「髪、少し伸びたな。綺麗だ」
そう言って、織田の大きな手が、太宰の焦茶色の髪に触れた。耳の裏へと優しく流され、指先が微かに首筋に触れる。その、あまりにも自然で、慈しむような手付き。
「っ……!」
その瞬間、太宰の顔は、一気に真っ赤に染まった。
心臓が耳の奥でうるさいほどに鐘を鳴らす。迫るつもりで近づいたのに、向こうから自然に触れられただけで、途端に言葉が詰まってしまう。狡猾な先輩としての余裕など、どこを探しても残っていなかった。ただの、恋する不器用な少女がそこにいた。
「どうした、顔が赤いぞ。熱でもあるのか」
「な、何でもない! 熱なんてない!」
慌てて顔を背け、両手で頬を押さえる太宰。熱い。自分の顔が、まるで沸騰しているかのように熱いのが分かる。織田は不思議そうに彼女を見つめているが、その無自覚な行動こそが一番の凶器なのだと、本人は全く気づいていない。
「織田作の馬鹿。私が真っ赤になって溶けちゃう」
「溶けるのか。それは困る。」
「な、ぁ………!! もう、そういうところが、本当に……」
太宰は口を尖らせて、織田の二の腕に額を押し付けた。顔を見られたくなかったのだ。赤い顔をして、胸を痛いほどに高鳴らせている自分を、彼に見せるのは酷く恥ずかしい。
織田はそんな太宰の頭を、大きな手でぽんぽんと優しく撫でた。あやすような、どこか幼い子を労わるような手付き。
その手の温もりは心地よかったけれど、太宰の心には、ほんの少しの不満が頭をもたげる。
「ねえ、織田作」
「何だ」
「私のこと、子供扱いしないで」
「子供扱い? しているつもりはないが」
「してる。今の撫で方だって、まるでお出掛けを我慢した子供を褒めるみたいだった。私は、織田作の恋人なんだよ? 生徒だけど……子供じゃない」
少しだけ声を潜め、けれど強い意志を込めて、太宰は織田の目を見つめた。
ただ可愛がられるだけの存在にはなりたくなかった。彼女の持つ深い孤独も、冷徹な思考も、そして織田を求めるこの狂おしいほどの感情も、すべて大人のものとして、対等に受け止めて欲しかったのだ。
織田は撫でていた手を止め、太宰の真剣な眼差しを真っ直ぐに受け止めた。
しばらくの沈黙の後、織田は小さく息を吐き、困ったような、けれどとても愛おしそうな、柔らかな微笑を浮かべた。普段の無表情からは想像もつかない、その男の顔に、太宰はまた胸を突かれる。
「……すまない。子供扱いしているつもりはなかったが、お前がそう感じるなら、俺の配慮が足りなかった」
「織田作……」
「お前が俺の恋人であることも、十分に自覚している。お前が学校で見せるあの冷徹な姿も、俺の前で見せるこの姿も、どちらもお前という一人の女性のものだと思っている」
織田の言葉は、いつも飾りがなくて、だからこそ嘘がなかった。
太宰は、その言葉の重みに、再び胸が熱くなるのを感じた。子供扱いしないで欲しいと言ったものの、いざ一人の女性として認められると、やはり気恥ずかしさが勝ってしまう。
「……ずるいなあ、織田作は。本当に、敵わない」
太宰は小さく呟き、今度は自分から、織田の大きな手をぎゅっと握りしめた。
学校へ行けば、また明日も、彼女は誰も寄せ付けない、冷酷で聡明な「太宰先輩」に戻るのだろう。周囲を欺き、手玉に取り、退屈な日々を冷ややかに笑う少女に。
けれど、その長い髪の毛先が揺れるたび、その冷たい瞳の奥で、彼女はいつもこの温もりを思い出している。
世界中でただ一人、自分の本質を見つめ、女の子として、恋人として抱きしめてくれる、大切な人の存在を。
「ねえ、織田作。お店を出たら、もう少しだけ、遠回りして帰ってもいい?」
「ああ。お前が望むなら、どこまででも付き合おう」
無表情な恋人の、そのあまりにも優しい約束に、太宰は今度こそ、心からの幸せを込めて、悪戯っぽく微笑んだのだった。
コメント
7件
ほんと、原作でも 織田作が生きてれば存在したかもしれないシチュエーションが素敵すぎる。 原作では、友人としてになるけど楽しく幸せな日々を送って欲しい。 どんな世界線にしても、太宰さんを年相応に見て接してくれるのは織田作だけかも。
織田作の返しがなんか個人的に好きぃ。織田作がまっすぐですきぃ。こんなにあっつい夏なのにこんなに温かい純愛を見せつけられるとなんだか非リアからしたら虚しくなって来たぁ……文スト好きからしたらものすごくすきぃ。兎に角すきぃ。なんでもすきぃ。(/・ω・)/
わあ、第12話、とても甘くて温かい回でしたね……! 普段は冷徹で掴みどころのない太宰が、織田の前だけでもう完全に無邪気な少女になるギャップが本当に好きです。特に「顔が真っ赤になって溶けちゃう」って拗ねるところとか、もう可愛すぎて胸が苦しくなりました(笑)。 それと、織田の「お前の望むならどこまででも付き合おう」という台詞、あれがもう全てだなって。無表情だけど確かに愛情を感じさせる言葉選び、本当にこの二人の関係性にぴったりだと思います。 次も楽しみにしてますね!