「嫉妬とか束縛とかしたことない」
それは凪くんと付き合い始めた頃、突然凪くんに言われたことだ。
「独占欲とかもないしめんどくさくない彼氏だと思うよ、俺」
その言葉の通り実際凪くんはいつもどこかふわふわ〜っとしていて、凪くんが何かに強く執着しているところを私は見たことがない。
「俺は嫉妬とか束縛とかしないから君も嫉妬したり束縛しないでね。めんどくさいから」
「……うん。わかった」
凪くんは私のことが好きじゃないんだと思う。
「え?俺のこと好きなの?……じゃあ、付き合う?」
みたいな感じで、これまたふわーっとお付き合いが始まったものだから私のほうが凪くんを好きなのは当然のことだった。
凪くんに束縛してもらいたいと思ったことがないと言ったら嘘になるけど、凪くんと付き合えるだけで私は幸せだ。
お互いドライな関係でいようね、と言った凪くんと一年付き合い続けた結果。
「ねぇさっき話してた男、誰?何話してたの?アイツの話すのは俺と話すより楽しかった?ねぇ、なんで休み時間俺に会いに来てくれなかったの」
……おや、凪くんの様子が……?
「……」
「……」
「……凪くんは甘えん坊さんだったんだね」
色々考えた結果、私は凪くんが甘えん坊の赤ちゃんだったという結論を出した。
・ ・ ・
付き合い始めて一年も経てば、人は変わると思う。
「やだ。離れたくないやだやだ」
「でも凪くん……私達クラスが違うし、このまま一緒にいたら授業に遅れちゃうよ」
お昼休み。
クラスが違う私達がやっと一緒に過ごせる貴重な時間である。
凪くんは屋上で寝転がりながらゲームをしていたのだけど、私が屋上に来るなりひし!と私の腰に抱きついてから一向に離れようとしない。
……凪くん可愛い。
「……放課後は一緒に帰ろうね?」
と私が提案すると、凪くんはこくりと頷く。
「うん。サッカー部の練習が終わるまで待ってて」
高校二年生になって凪くんはサッカー部に所属したから一緒にいられる時間が減ってしまったけれど、私たちは順調にお付き合いを続けていた。
そう、今日までは。
「オマエの彼氏、なんかおかしいと思う」
「……え?」
放課後、私は凪くんの部活が終わるまで校庭にある花壇の傍に立って凪くんを待っていたところ、同じ委員会の男の先輩に声をかけられた。
「連絡してくる頻度もやばいし、明らかに頭おかしいよアイツ。元々変人の万年寝太郎だし……」
「……っ、な、凪くんは、おかしくないです!」
思わず言い返してしまう。
凪くんはおかしくなんてない。
確かにちょっと変わっているけど心優しくて可愛らしい、私の大切な人だ。
「……あーうん、なんかごめん……」
と、そこまで話したところで私の携帯からぴろんとメッセージアプリの通知音が鳴った。
先輩とのお話をやめてすぐ既読をつけなくてはいけない。
何故ならすぐに既読をつけないと凪くんの機嫌が悪くなってしまうから。
私がメッセージアプリを開くと、
『ねぇ、今話してる人誰ー?』
というメッセージが届いていた。
「ヒッ……どこから見てんだよ……!?」
私の携帯の画面を一緒に覗き込んだ先輩が何やら小さく悲鳴を上げたタイミングで私はぎゅう、と後ろから凪くんに抱きしめられた。
「部活終わったー。早く一緒に帰ろ」
「凪くん!もう部活終わったの?……あれ、まだ着替えてないね?」
少しだけ後ろを振り返って凪くんを見ると、凪くんはまだ部活の練習着のままだったから私が不思議に思って聞くと、凪くんはジト……と先輩を眺めながら呟く。
「うん、部活終わってすぐ君のとこに来たの。……ねぇ、君にでっかい虫がくっついてるよ」
「えっ、どこに大きい虫が……!?」
「俺が悪い虫を追い払ってあげるね」
ぎゅ……っと強く凪くんが私の頭を掴むようにして自身の胸元に私の顔を押し付けてきたから、私は何も見えなくなる。
「あのさー、どっか行って。邪魔」
そして凪くんがどんな顔で先輩に話しかけたのかはわからないけれど、先輩はヒィィィと悲鳴を上げてその場から逃げ出してしまった。
「ふぅ、虫退治成功。……じゃあ俺着替えてくるからちょっと待っててね」
私からパッと離れた凪くんはいつも通りのほんわかしたオーラを纏って、のんびり歩きながら部室に向かっていった。
少しだけ猫背な凪くんの後ろ姿が可愛い。
・ ・ ・
「そういえば今日、同じクラスの田中くんが……」
放課後、手を繋いで凪くんと帰り道を歩きながら話していると凪くんがぎゅ!と強く私の手を握って足を止めた。
「やだ」
「……え?」
「俺、その田中くん知らない。田中くんきらい」
凪くんはムスッと頬を膨らませながら私を見つめている。
身長は190センチで私より圧倒的に大きいのに威圧感なんてなくて、私のことを見下ろす凪くんの瞳はくりくりの丸い瞳でとても可愛い。
「俺と一緒にいるときに他の男の名前聞きたくない」
「……どうして?」
それは純粋な疑問からの質問だった。
凪くんが甘えん坊なのは知っているけど、いくら甘えん坊だからって他の男の人の名前を呼んじゃいけないなんて無茶なお願いだと思ったから。
私の質問を受けて凪くんはこてんと首を傾げて言った。
「え、普通に常識だから。彼氏がいるのに他の男と話しちゃだめでしょ」
「……」
えっと。
私、そんな常識は知らない。
・ ・ ・
とあるお昼休み、凪くんは私の膝に寝転んで携帯のゲームをしていて、私は太陽に照らされてぽかぽか温かくて幸せな時間を過ごしながら凪くんに話しかける。
「玲王くんってすごい人だよね……」
と、口にしてからハッとした。
つい凪くんと一緒にいるときに凪くん以外の男の人の名前を言ってしまったから。
玲王くんは、凪くんの一番のお友達だ。
めんどくがり屋さんの凪くんにサッカーをしようと諦めずに誘ったり、成績はいつも学年一位だし、すごいなぁと人として尊敬することがあるから話に挙げてしまったのだ。
というか凪くんと私はクラスが違うというのもあって、共通の話題があまりないから必然的に玲王くんの話をすることがあったりする。
「……」
凪くんはゲームを辞めて携帯の電源を切ると私のことを黙ってじっと見つめてきた。
……怒ってる?
「あの、ごめんね、悪気はなくて。えっと、凪くんが嫌なら玲王くんの話ももうしないから……っ」
慌てて凪くんを怒らせまいと捲し立てるように話し始めた私の言葉を遮るようにして、凪くんは言う。
「……俺のほうが玲王よりゲーム上手いし」
「え?」
突然何の話?
「俺のほうが玲王よりトラップも上手いし、優しいし、かっこいいし」
「え……?……あの、何の話?」
私が聞くと凪くんはふい……と私から目を逸らして拗ねたように呟く。
「……。俺以外の人のこと褒めちゃやだ」
「……」
ずきゅん!!!!!!
私の心臓はときめきでちょっとだけ痛くなる。
「……っ、凪くんが一番だよ、凪くんが一番優しくて可愛くて、かっこいいよ……!」
よしよしよし……と私が凪くんのふわふわの髪を撫でると、凪くんは機嫌を直したのかご満悦だとでも言いたげな表情を浮かべた。
凪くん可愛い。
・ ・ ・
「俺のこと好き?」
とある休み時間、私がテスト勉強をするために図書室で勉強していると、凪くんが私の元までやってきてそんな質問をしてきた。
「……うん、好きだよ?」
「どのぐらい好き?」
「うーん……こ、このぐらい……?」
両手を限界まで広げてみせると、凪くんがぎゅ……と私に抱きついてくる。
ぎゅーするために両手を広げたわけじゃないんだけど、まぁいいか。
「好きって言ってくれたから、休み時間俺に会いに来ないで勉強してたことは許してあげる」
そして私は何故か勉強していることを許可された。
お昼休み以外の休み時間も凪くんに会いに行かないと、寂しがり屋で赤ちゃんの凪くんは拗ねてしまうということを私は学んだ。
凪くんはとっても可愛い。
でも離れてくれないと勉強できないなぁ……。
「凪くん、ちょっとだけ離れて?……ぎゅーってされてたら、勉強できないよ」
と私がお願いすると、凪くんは瞳の色を変えて私のことを見た。
「何それ。俺より勉強が好きなの?俺よりこの参考書のほうが好きってこと?」
べしべし!と凪くんは雑に私の参考書を叩く。
まるで駄々を捏ねる赤ちゃんのように。
……あれ?凪くん、もしかして……。
「……参考書に、嫉妬してたりする……?」
恐る恐る聞いてみると、凪くんは意味がわからないと言うように不快そうに眉を寄せる。
「は?……付き合った頃に言ったと思うけど、俺嫉妬したことないから」
「え、でも、」
「俺、絶対嫉妬しないから」
「……うん、わかったよ」
なんだかよくわからないけど、絶対嫉妬しないと言い張られたので嫉妬していないということになってしまった。
「……」
……ほんの少しだけ。
凪くんが嫉妬してくれていたらいいなぁ、なんて思ってしまったけど、凪くんは本当に嫉妬なんてしないんだろうなぁ。
・ ・ ・
凪くんにモテ期が到来した、らしい。
「万年寝太郎ってちょっとかっこよくない?」
「わかる!サッカーやってるときは、結構かっこいいんだよね〜!」
サッカー部がどんどん強くなるにつれて、凪くんの人気も上昇していく。
私はいつも花壇の近くに立ってこっそり凪くんのサッカーをしている姿を眺めていたのだけど最近はサッカーの練習を観に来る生徒が増えてしまったせいで、遠くからではあんまり凪くんが見えなくなってしまった。
そして、凪くんが見えなくなる代わりに凪くんのファンの子達の会話を勝手に盗み聞きしてしまう。
「万年寝太郎の真剣な顔とかかっこいいよねー!」
うん、わかる。
「授業中欠伸してるときの顔はちょっと可愛くない?」
うん、私もそう思う。
「……」
モヤ。
……………………モヤ?
自分の胸の中に広がっていく感情に驚く。
もしかして……ううん、私は今絶対嫉妬している。
“俺は嫉妬とか束縛とかしないから君も嫉妬したり束縛しないでね。めんどくさいから”
不意に凪くんが言った言葉を思い返す。
やだな、このままだと私は凪くんにとってめんどくさい彼女になっちゃう。
……サッカー部の練習はしばらくの間、観に行くのをやめよう。
凪くんのファンの子が増えるのを見るたびに、私はどんどん嫌な人になっていってしまう気がする。
『今日は先に帰るね』
私は凪くんにメッセージを送ってから、これからは少しだけ凪くんと距離を置こうと決めた。
ずっと凪くんと一緒にいたから、少しでも離れると寂しくなってしまう自分が嫌いになりそうだったから。
・ ・ ・
「なんで昨日は先帰っちゃったの」
翌朝、わざわざ私のクラスの教室まで来た凪くんは、不満ですオーラ全開で私の服の裾をキュッと握ってきた。
凪くん可愛い。
……じゃなくて。
「あの、私、成績、落ちて。しばらく、休み時間も放課後も、勉強、する」
「なんでカタコトなんだし」
成績が落ちたというのは本当だけど、実は凪くんと距離を置こうと思ってて〜、なんて正直に言えないせいで変な喋り方になったしまった私を、凪くんは怪訝そうな表情を浮かべて見つめてくる。
「勉強するなら俺が教えてあげるのに」
「凪くんはサッカー部の練習もあって忙しいでしょ?だから一人で大丈夫だよ」
凪くんと目を合わせるのが気まずくて俯くと、私の頭上から酷く寂しそうな声が降ってきた。
「……本当に休み時間も放課後も会えないの?」
「……」
「じゃあ、会えない分夜は毎日寝落ち通話してくれるってこと?ぎゅーする回数が減る穴埋めはどうしてくれんの?あ、俺と会わないうちに新しい男友達とか作ったらだめだよ。女の子の友達でも遊びに行くのはだめだよ。俺以外の人に時間割いちゃだめだよ。絶対。約束ね」
「…………………え?」
私が驚いて顔を上げるのと同時にキーンコーン、と授業開始を告げるチャイムがなってしまって、凪くんは自分のクラスの教室に戻っていってしまった。
……えっ、今凪くんは何を言っていたのだろうか。
凪くんにしては物凄いたくさん喋っていたような。
あまりにサラッと、何だか不思議なことを言ってくるせいで話の内容が頭に入ってこなかった。
「……??」
今のは何だったんだろう???
・ ・ ・
「この前はオマエの彼氏をおかしいとか言ってごめん」
凪くんの練習を観に行かないと決めた放課後、やっぱり私は花壇の側まで行ってこっそり遠目から凪くんを眺めてしまった。
まだ凪くんと距離を置こうと決めてから一日も経っていないのに、私の意志は弱い。
でもサッカーをしている凪くんを応援したいし……なんて思いながらこっそり花壇の側に立っていると、先輩に声をかけられた。
「オレ、勝手に万年寝太郎のことをおかしいとか決めつけたけどそんなの俺が決めることじゃないよな」
「え……全然、気にしてないです……」
「ほんと!?やっぱりオマエって優しいよなー」
先輩はほっとしたように息を吐いてから私に自身の携帯を見せつけるようにして言う。
「ずっと言おうと思ってたんだけど委員会同じだし、連絡先交換しない?連絡先交換しといたほうが便利だと思うし」
「え……え、でも、あの、」
「じゃ、携帯借りるわ」
連絡先を勝手に交換されてしまった……。
でも……うん、確かに同じ委員会の先輩だし、連絡先を交換するぐらいは別に……。
「なんかさー、最近人気になったよな万年寝太郎」
先輩は私に携帯を返しながら話を続ける。
「ファンも増えたし。最初は彼女のこと好きすぎて束縛しまくってやべー奴だなと思ってたけど、このままいけばアイツにも友達が増えて、彼女離れするかもな」
「彼女離れ……?」
何でしょう、その親離れみたいな新しい言葉は。
それはつまり、赤ちゃんのように可愛い凪くんが自立して私から離れていってしまうってことだよね?
……モヤ。
モヤモヤと、チクチクが胸の中に広がっていく。
凪くんは嫉妬しないらしい。
独占欲もない。
私が距離を置いたって凪くんは全然平気で。
あぁ、『私ばっかり凪くんのこと好きだ』。
「えっ……大丈夫!?」
気が付けば私の瞳から涙が零れ出していた。
「あ、だ、大丈夫、です」
慌てて顔を隠そうとしたとき、ぴろん、と私の携帯からメッセージアプリの通知音が鳴った。
こんな状況でも反射的にアプリを開いてしまうと、凪くんからのメッセージが届く。
『また男と話してるでしょ』
「ヒィ!!!」
先輩が悲鳴を上げるのとほぼ同時に、新しいメッセージが届く。
『上にいるよ』
……上にいるよ、ってどういうこと?
私が顔を上げると3階の教室に凪くんがいたから、凪くんは上から私を見ていたらしい。
サッカーの練習をしていたはずなのにいつの間に3階に行ったんだろう……と驚いていると私に手を振りかけていた凪くんは、私の顔を見て瞳の色を変えた。
そしてまたすぐにメッセージが届く。
『泣いてる。なんで?』
「……っ、あ、え、えっと、」
慌ててごしごしと服の袖で涙を拭ってから凪くんに私もメッセージを送ろうとするより先に、またメッセージが届く。
『今からそこに行くから待ってて。とりあえず君の隣にいる男、殺せばいい?』
「ギャァァァァァァァ」
先輩は悲鳴を上げてその場から逃げ出した。
私はどうすればいいんだろう。
このままここで凪くんを待って、それでそのあとは?
泣いてた理由を聞かれても嫉妬してたなんて言えるわけなくて。
……私も咄嗟に逃げ出していた。
・ ・ ・
『どこにいるの?』
『かくれんぼしてるの?』
『ねぇ、既読無視やめてー』
『さっきの男と何話してたの?』
『なんで泣いてたの?』
『俺には言えない話?』
『おい』
『返信しろ』
『あ、間違えた今のは違う』
『返信して。返信くれないと心配⊂((・x・))⊃』
……さっきから、絶えず凪くんからメッセージが届いて通知の音が鳴り止まない。
『あ、そうだGPSあるじゃん』
最終的になんだか不穏なメッセージが届いたあと、やっと通知音が止んだ。
私は走って凪くんから逃げられるとは思っていないので、一階の空き教室に鍵を掛けて隠れている。
このまま凪くんが私のことを探すのを諦めてくれたらいいんだけど……。
「そこにいるよね?」
「ひぃ!!」
扉の向こう側から凪くんの声が聞こえてきた。
なんで私がいる場所がわかったんだろう。
「話あるから、ドアを開けて」
「え、でも、」
今は話したくないのに。
「ぎゅーしよう」
「えっ」
「ドアを開けて。一緒に帰ろう?どうして出てこないの?前はいつも一緒に帰ってたのに、なんでだめなの?ぎゅーしよう?」
恐ろしいバージョンの雪だるまつくろうの替え歌が始まっている気がした。
「ごめんなさい。……今日は先に帰って凪くん」
凪くんに合わせる顔がないからお願いすると、
「……わかった」
凪くんはわかってくれた。
やっぱり凪くんは話せばわかるいい子だ……。
ドゴガァァァァン!!
「………………」
大きな音を立てて扉が蹴破られた。
「出てきてくれないならドアを壊すしかないよね」
「え……」
「一緒に帰ろ」
体の力が抜けてぺたんと床に座り込んだ私の目の前に凪くんもしゃがみ込んで、ぎゅっと私を抱きしめた。
「どうしたの?震えてる」
凪くんのせいで震えているんです。
「あ、そうだ、さっき逃げ出した男のことはもう大丈夫。二度と君に話しかけないように俺が『お願い(脅迫)』しといたから」
「……」
「あの男と何話してたのか教えて?」
……あれ?扉を壊した凪くんのことを怖いと少しだけ思ったけど、今私をぎゅーして話しかけてくれる凪くんはいつも通りの、可愛い赤ちゃんな気がする。
「……世間話をしてただけだよ」
私は嘘をついた。
だって、凪くんに聞かせられるような楽しい話はしていなかったから。
「チッ」
「……え、凪くん?」
「ん?なぁに?」
舌打ちしたように聞こえたのは気のせいかな……?
うん、凪くんが舌打ちするわけないよね。
「じゃあ、泣いてた理由は?」
もうとっくに涙が乾いた私の頬を、凪くんが指で撫でながら問いかけてくる。
「目にゴミが入っちゃって……」
誤魔化そう。
凪くんも深く理由を聞いてこないだろうと思って私が作り笑いを浮かべると、凪くんは表情を変えずに私のことをジッと見つめながら言った。
「だめ」
「え?」
「俺に隠し事はだめ。君のことは俺に全部教えてくれなきゃやだ」
「え……」
な、なんかわがままな赤ちゃんみたいなこと言ってる……!!
「で、でも私にも秘密の一つや二つあるっていうか」
「やだやだやだやだやだ俺は君のこと全部知りたい」
涼しい顔をして、いつも通りのおっとりした喋り方で、凪くんはとんでもない駄々を捏ねてくる。
「言って、何話してたの?俺が知らない話を君がしてるってだけでやだ。君が俺以外の人と話してるだけでやだ」
それは、私が凪くんに対して思っていたことだった。
嫉妬してしまう自分が嫌だったけど、凪くんも同じだったんだ。
「凪くん、それって嫉妬してるの?」
私と同じ気持ちだったらすごく嬉しい。
そう思って私が凪くんを抱きしめ返しながら聞くと、凪くんはふるふると首を横に振った。
「何言ってるの?俺、嫉妬なんかしたことないよ」
「えっ」
「……?なぁに、その顔。可愛いね、ぎゅーしてあげる。ぎゅーーーーー」
「……」
凪くんのぎゅーの力が強すぎて、私の骨がミシミシ鳴っている。
力加減できないんだな、凪くんは可愛いな……なんてことをぼんやり考えながら、凪くんは無自覚で独占欲が強いんだってことに私はやっと気付いた。
私の恋人の凪くんは、無自覚で独占欲が強すぎる赤ちゃん(17歳)だったらしい。
・ ・ ・
「知らない男が連絡先に追加されてる。誰こいつ」
後日、凪くんと無事に……そもそも喧嘩していたわけではないけど仲直り(?)してから携帯貸してと言ってきた凪くんに私の携帯を貸すと、凪くんは私のメッセージアプリの友達リストを見て眉を顰めた。
「俺以外の人の連絡先は追加しちゃだめって言ったじゃん。君の友達リストは俺一人でいいの、わかった?」
凪くんは拗ねてしまったようだ。
「あの、でも連絡先を交換したのは私と同じ委員会の先輩だよ。悪い人ではないから、」
私が話している途中なのに、凪くんは私の携帯を手早く操作して言う。
「今ブロックしといたから」
「えぇ!?」
勝手に先輩の連絡先を消された。
「俺には君だけがいればいいし、君にも俺だけがいればいいの。わかった?」
びし!と指をさして私に人差し指を向けた凪くんの瞳には私だけが映っている。
……凪くんはそもそも私以外を見る気がないらしい。
「凪くん、それって独占欲?」
私が試しに聞いてみると、凪くんは可愛らしくこてんと首を傾げた。
「違うよ。恋人なら365日24時間一緒にいたいと思うし二人きりの世界で生きてたいと思うでしょ。そういうの、独占欲とは違うから。こう思うのは普通だよ」
「……」
無意識で独占欲が強いって恐ろしい。
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いつも見てます!!😊 これからも頑張ってください!✨