テラーノベル
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ルークの修行秘話で盛り上がったあと、最後にルークは付け加えるように言った。
「――そういえば帰りの船に、例の女性も乗っていたんですよ」
「ん? 例の女性って?」
「以前私に付きまとっていた、オティーリエさん……という王族の方です」
「「え?」」
せっかく忘れていたその名前。
唐突に、刃物を突き付けられたような錯覚を覚えた。
「特に話はしていないのですが、ちらちらとは見られていて……。
従者も10人ほどいたので、その関係で話し掛けられなかったのでしょうか」
「どうだろうね……。ちなみにオティーリエさんって、何かの試練を受けに行ってたみたいなんだよね。
場所が同じだったのかな?」
「なるほど。あの島は不思議な雰囲気がしましたし、そういった場所があったのかもしれません」
「出てる船も少ないっていう話だしね……。
そりゃ、帰るタイミングも同じになっちゃうか」
それにしても船の上で逃げ場が無い状態だったのに、オティーリエさんはルークに接触しなかったのか。
以前のノリであれば、アタックなりアピールなりをしてきそうな感じがするんだけど――
「実際のところ、静かにしてくれていたので助かりました。
逃げるには、海に飛び込むしかありませんから。
……まぁ、修行中に散々飛び込んだので、別に平気ではあったのですが」
「……逞しくなったねぇ」
「ルークさん、剣よりもサバイバルの方が上達していそう……」
「確かに」
「ははは、そうですね。剣の修行もやりましたが、今回はそれ以外の修行が多かったです。
剣の方はまだまだ、修めるには長い道のりですよ」
「そういえば、必殺技みたいなのは教えてもらったの?」
「おぉ、必殺技!
確かリーゼさんも、そういうのを使っていたんでしたよね」
「えーっと、確か『クルーエル・テレブレーション』……だったかな?
風の塊がズガアアンって感じで、あれは凄かったですね。ルークに思いっきり当たっていたけど……」
……いや、そうなったのは私を護ったからだ。
本来は受けなくても良い攻撃だったわけで、思い返すと今なお申し訳なくなってくる。
「そうですね、あんな感じのものを、3つほど教えて頂きました。
ただ、使えるようになったのは2つだけです」
「へー、凄い!」
「もう1つのって、使うのが難しいんですか?」
「いえ、条件が必要な技なんです。魔法剣の技……というのでしょうか。
私はあくまでも普通の剣使いですから、そちらの方は一応教わっただけですね」
「ふむ。……となると、やっぱり今後は魔法剣も覚えていく感じ?」
「どっちつかずになっても困るので、まずは普通の剣に絞ろうかと考えています。
その応用として、いずれ魔法剣も少し学んでみようかな、と」
「なるほど……。先は長いね」
「これは負けていられません! わたしもバニッシュ・フェイトを目指して頑張らないと!」
ルークの言葉に、エミリアさんも力を込めた。
「エミリアさん、いっそ魔法使いを目指してみては?」
「いやいや、そんな中途半端はいけません! わたしは聖職者の道を邁進するのみです!」
さり気なく魔法使いの選択肢を示してみるも、エミリアさんは何の興味も示さなかった。
夢の中で見た英知の姿――エミリアさん魔法使いバージョンとは、一体何だったのか……。
「支援に攻撃に、いろいろな魔法を覚えたら強そうだなって思ったんですが、ダメですか……」
「うーん、完全に修得できればそうかもしれませんけど……。
それならアイナさんはどうですか? 錬金術はもう、完全にマスターしているじゃないですか」
「む。確かにこれ以上は、レベルが上がりませんね」
「料理スキルなんてどうでですか?
この前お料理したときも、錬金術を絡めていろいろやっていましたし」
「ふむ。それは良いかも……?」
そう思いながら、何となく自分を鑑定してみると、料理スキルのレベルは5だった。
技能系のスキルはレベル20で一人前という感じだから、私の料理の腕はまだまだ……といったところだ。
……でも勉強のし甲斐はありそうだし、選択肢には入れておこうかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夕食後、ルークも疲れているだろうということで、ほどほどのところで解散することになった。
今日は色々なことがあったので、その後は部屋でぼけーっとしていたのだが――
そんなタイミングで、遅い時間にも関わらずジェラードがやってきた。
ひとまずは客室に通して、お茶を飲みながら二人で話すことにする。
「へぇ! ルーク君が帰ってきたんだ?」
「そうなんですよ。呼びましょうか?」
「うーん、そうだね。
ちょっとルーク君には、話したいこともあるから……」
「話したいこと?」
そういえばルークが修行に出た直後にも、確かそんなことを言っていたような……。
「ちょっとした時事の話なんだけどね。
まぁそれはそれとして、まずはアイナちゃんといろいろ話したいから、ルーク君はそのあとにしようかな♪」
「そうですか?」
それならその通りにしよう。
こんな時間に来るのだから、そもそも私に用があったのだろうし。
「先日の『意識昏睡ポーション』だけど、無事にグランベル公爵に飲ませてきたよ」
「そうですか……。どうでした?」
「元々が意識不明だったからね、特に様子は変わらなかったかな。
でも、僕が付いていて良かったよ。飲ませるときに、グランベル公爵が懇意にしている医者が立ち会ってね」
「え? それって大丈夫だったんですか?」
「うん、鑑定スキルを持っていたのは予想外だったけど。
先に『意識障害(大)治癒ポーション』を見せてから、鑑定してもらったあとに、『意識昏睡ポーション』にすり替えて飲ませたんだ」
「あー……。そういう小技、ジェラードさんは得意ですもんね。
ファーディナンドさんだけだったら、上手くいかなかったかも?」
「多分ね。うん、結果オーライってやつ♪」
「さすがですね!
それで、薬を飲ませたにも関わらず目を覚まさなかったわけですけど……お医者さんは何か言っていました?
……そもそも、状態異常を鑑定されませんでした?」
「ああ……。
アイナちゃん、鑑定スキルで状態異常を調べるのって、それなりにレベルが必要だからね?」
「む。そ、そういえば……?」
何を隠そう、私は鑑定スキルも最初からレベル99なのだ。
結構忘れがちだけど、私が鑑定で何から何まで調べられるのは、このレベルがあったればこそなんだよね。
「だから、医者にはファーディナンドさんが適当に話して誤魔化していたよ。
重度の意識障害だから、最高峰の薬をもってしてもすぐには効果を現さないだろう……、とか何とか」
「さすがに機転が利きますね」
「うん。見ていて安心できる人だよね。
弟がああじゃなかったら、本来はグランベル家を継ぐ人だったわけだし」
「確かに……。
ファーディナンドさんの後ろ盾があれば、私も少しは安心できるんだけどなぁ……」
王様のちょっかいやら、オティーリエさんのちょっかいやら。
ファーディナンドさんには、そこら辺を上手く防ぐ盾になってもらいたいところだ。
「そうなると良いね。
そうそう。少し話をしてきたけど、ファーディナンドさんも、アイナちゃんのことはとっても信頼していたよ」
「それは良かったです。
まぁ……あんな薬を渡した時点で、共犯みたいなものですからね。……いや、共犯そのものか」
自分で言って、少しテンションを下げてしまう。
しかし総合的に見れば、この選択がベストだと自分で判断したのだ。いまさら後悔するところでも無い。
「……さて。
今日の本題の1つはそれだったんだけど、実はもう1つあるんだ」
「え? はい、何でしょう」
それ以外の本題?
何か頼んでいたことはあったっけ? ……別件かな?
「ルーク君が戻ってきたのはちょうど良かった。
これも、神の|思《おぼ》し|召《め》しってやつか」
「ちょうど良かった……って言うのは?」
「うん。えっとね――
僕、これからミラエルツに行ってこようと思うんだ」
……鉱山都市ミラエルツ。
以前私たちが訪れた街。そして、ジェラードと初めて会った街――
「突然ですね。何かあったんですか?」
「……僕の右腕のことは、覚えているよね?」
「はい」
ジェラードの右腕は、私たちが会った時点ではすでに動かすことが出来なくなっていた。
それを私の薬で治したんだけど――
「ファーディナンドさんの話を聞いていてね、僕の右腕が疼くんだよ。
アイナちゃんのおかげで今は動かせるようになったけど、あのときの借りを、僕はまだ返していないんだ」
「あのときの、借り……」
ジェラードの右腕は、偶然や事故で動かなくなったのでは無い。
故意に、ジェラードに罰を与えるためにそうさせられたのだ。
『ちょっと怖い組織から受けた仕事に失敗した』という理由のために、命の代償として右腕の動きを奪われた……そんな話を以前に聞いていた。
「だから、1か月か2か月くらい王都を離れようと思うんだ。
できるだけ早く戻ってこようとは思うんだけど、……良いかな?」
ファーディナンドさんがグランベル公爵に手を出したのを見て、何か思うところがあったのだろう。
彼もまた、昔の借りを返そうとしているところなのだから。
「分かりました。
こちらは何とかしますので、気にしないで行ってきてください。……最近、頼りすぎでしたしね」
「ありがとう……。
またたくさん頼ってもらえるように、すぐに戻ってくるからさ。大変なときに、本当にごめん」
「いえいえ、大丈夫ですよ!」
――とは言っても、やはり心配なところはある。
裏の社会に通じたジェラードは、私やエミリアさん、ルークに足りない部分を本当に補ってくれているのだ。
でも1か月か2か月の辛抱だし、ここは耐えることにしよう。
……でも、大丈夫かな?
……いや、頑張ろう。
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