ごきげんよう、会談の最中のシャーリィ=アーキハクトです。
『血塗られた戦旗』の幹部ガイアは色々と勘違いしている様子でしたが、訂正するのも面倒なのでそのまま話を聞きました。
要約すれば、俺は悪くない。アガリを一部納めるけど縄張りも手離さない。方針には従うが、経営は勝手にやらせて貰う。ついでに口封じしておいた。ですね。
……これ、喧嘩売ってきて負けそうになった、いや滅亡寸前の組織の言葉ですよ?嘲笑を我慢できた私は誉められるべきです。
まあ、私達がガズウット元男爵に無理難題を突き付けられて抗争する余力が無いと判断して話を持ち掛けてきたのでしょう。その判断は、普通ならば間違いはないと思います。
私には真っ向から歯向かう、いや滅ぼせる環境があったので躊躇無く実行しただけです。無くても大切なものを奪おうとした段階で敵なので滅ぼしますが。
「領邦軍を……殲滅……嘘にしちゃ大胆だな……」
冷や汗が滝みたいに流れてますよ。
「ここでハッタリを使う必要性がありますか?ここに来るまでに領邦軍を見かけました?何なら、鹵獲した兵器や制服なんかも見せますが?」
死体は腐ると疫病の原因になるので処分しましたが、装備や被服類は全て回収しています。
マスケット銃も使い方を工夫すれば充分な戦力になりますし、増え続ける人員の装備にも使えますからね。
「そんなことをして、タダで済む筈が無いだろう!?」
「既に手は打ちましたので、何の問題もありませんよ」
理由をわざわざ教えてあげる義理もありませんので、教えないけど。
「手を打った……!?」
「答える義理はありません。さて、こちらは条件を提示しました。そちらのご回答を」
「おっ、俺は関係ない!何故首を差し出さねばならん!?」
「そうですか。慎重で行動を起こすことに躊躇する傭兵王に対して、主戦論を唱えて周りを散々焚き付けたのは貴方だと聞いていますが?」
「なっ……!?誰がそんな出鱈目を!」
おや、驚いていますね。此方の内情を少しは調べた様子ですが、私達もまた調べているとは思わなかったのかな?
「あなた方の内情は把握していますよ。本来ならばこんな交渉を受ける必要も感じませんでしたが、そちらが誠意を見せるならば矛を納めることも|吝か《やぶさか》ではありません」
誠意を見せれば、です。これ迄の戦いに参加した者は全員始末したわけではないので、その首を全て差し出してくれるならば無関係な者を裁くつもりはありません。
本来なら殲滅したいのですが、シスターの助言を受けて最大限譲歩しました。
これ迄の組織から見れば破格の条件だと思うのですが。
「俺達との戦いを続けるなら冒険者ギルドを敵に回すぞ!?それで良いのか!?」
ふむ。
「敵対すると言うならば、誰だろうと殲滅します。しかし、今回は冒険者ギルドも関与しないでしょう?見限られたのですから」
おや、びっくりしてる。まさか知らないとでも?私達だって冒険者ギルドとは関わりがあるのです。
タダでさえ情報収集のために普段より動向に注視していますからね。
『血塗られた戦旗』を出入りしていた冒険者ギルドの職員達が、大挙して抜けていったことは確認済みです。
「なっ、何故それを……!」
「ガイアさん、新参者だと私達を侮りすぎていませんか?エルダス・ファミリーに勝てたのはラッキーだと考えていませんか?」
新参者と言えば無条件に格下だと誤認する。まあ典型的な三下ですね。
「っ!?」
「先の戦いが結果です。貴方は私の大切なものに手を出して、そして敗れた。敵を許すほど私は甘くない」
「ぐっ……うっ……!」
苦しそうな顔してますねぇ。
「改めてお尋ねします。手打ちの条件を提示しました。そちらの回答は?」
まあ、顔を見ればどんな返事をするか分かりますけど。
「ふざけるな!こんな条件が呑める筈が無いだろう!」
やっぱり拒否してきましたね。組織を残すつもりなら、此方の提案を呑むしかないのですが。
「では、是非もありません。どちらかが滅びるまで存分に戦いましょう」
「吠え面をかくなよ、小娘!リューガを討ち取って調子に乗っているようだが、最後に笑うのは俺だ!」
立ち上がりながら吠えました。うーん、冷や汗を流してる。虚勢であると証言しているようなものですが。
釘を刺しておきましょうか。
「それは良かった。このまま逃げてしまうのではないかと心配していたんです。流石に百名前後の人を探し出して始末するのは大変なので」
「なにっ!?」
「まさか、誇り高い血塗られた戦旗が逃げたりはしませんよね?手打ちが失敗したから逃げた何て風聞が広まればどうなるか。よくお考えくださいね」
私は努めて笑顔を浮かべながら彼を送り出しました。
「帰るぞ!もう用事はない!」
「その様子じゃ、決裂したみたいだな」
ガイアはスネーク・アイを連れて肩を怒らせながら足早に去っていきました。私はその背を見送りながら……資材の木箱に腰掛けてる女の子がじっと此方を見ていることに気付きました。
そちらへ視線を向けると、ニヤニヤしながら此方を見ている栗色の髪の女の子。腰にはレイミと同じ珍しい剣、刀でしたか。
「へぇ、君がレイミのお姉さんなんだ?」
「そう言う貴女は、聖奈ですか。レイミから話は聞いていますよ」
レイミと幾度も戦い、そして私の大切なものを奪ってきた少女を前にして、私も思うところはあります。いや、たくさんあります。
「今日はレイミが居ないんだよねぇ?だから退屈でさぁ」
「うちの妹を付け狙っている様子ですが、諦めなさい。貴女にレイミは渡しませんから」
「あははっ☆愛されてるなぁ、レイミ」
笑いながらもその様には何処か狂気を感じました。いや、それは間違いじゃない。
「だから、何もかも台無しにしたくなるんだよねぇ?☆」
私を見つめる彼女の瞳には、確かな狂気と、満たされない何かを感じました。或いはこの子も私達と同じように奪われた立場なのかもしれません。
ですが、レイミを付け狙い大切なものを奪った彼女に同情する謂れはありません。
「私から大切なものを奪うと言うなら、貴女は私の敵です」
私が腰に差した柄に手を伸ばすと、周りのマクベスさん達も武器を構えました。
でも、聖奈はおかしそうに笑うだけ。
「あははっ☆お姉さんとも戦ってみたいけど、レイミが居ないんじゃ意味がないよ。お姉さんを斬るなら、レイミの前じゃないと楽しくない☆」
そう言いながら木箱がら降りた彼女は、私に手を振りながら背を向けました。
「またね、お姉さん。次はレイミを連れてきてよね」
去っていく彼女の背中を見つめながら、私はまだ『血塗られた戦旗』に強敵が残されていることを確信して、気を引き締めるのでした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!