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都築七美
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#初心者だからつまんないかも....
海夏
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浪霧(らむ)
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ピデピー
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ピンポーン、とチャイムが鳴った。 私は反射的にハルさんだと思った。
この部屋に来る人間なんて他にいない。
だから特に気にも留めなかった。
けれど次の瞬間。
「桜庭さん、白石です!」
明るい女の人の声が聞こえてきて、思わず顔を上げた。
「珍しいな、ハルさん以外で」
珍しいも何も、彼がこの部屋に引っ越してきてから訪ねてきた人間なんてハルさんだけだ。
私を除けば。
彼は足早に玄関へ向かった。
扉を開けると、そこには想像どおり若い女性が立っていた。
「あ、よかった。いる」
「白石さん。すみません」
彼は申し訳なさそうに頭を下げる。
「例の記事、できました?」
「あー……それがまだで」
「やっぱり」
白石と呼ばれた女性は苦笑した。
私は少し離れた場所から二人を眺める。
彼は私の事件だけを追っているわけじゃない。
怪談。
心霊現象。
不可解な失踪。
そういう話を集めて記事を書くのが仕事だ。
フリーライターなのだから当然だった。
仕事相手が訪ねてくることだってあるだろう。
あるだろうけれど。
なんだろう。
少しだけ面白くなかった。
「わざわざ来ていただいてすみません」
「気にしないでください。近くで取材があったので」
怪しい。
今の時代、記事なんてメールで送れる。
電話だってある。
わざわざ家まで来る必要なんてない。
近くにいたから寄った?
そんなの建前に決まっている。
怪しい。
絶対怪しい。
私は知らず知らずのうちに白石という女性を観察していた。
綺麗な人だった。
仕事もできそうだ。
話し方も明るい。
何より自然に彼の部屋へ入り込んでいる。
慣れている感じがした。
「はい、これ」
白石がコンビニの袋を差し出す。
「甘いもの好きでしょ?」
「え?」
「それとサラダ」
彼女は呆れたように続けた。
「どうせ食べてないでしょ」
「いや、食べてますって」
「絶対食べてないです」
二人が笑う。
私は笑えなかった。
「サラダ?」
思わず口から出た。
「ちゃんと食べてるわよ!」
もちろん誰にも聞こえない。
それよりも引っ掛かったのは別のことだった。
甘いものが好き。
そんな話、聞いたことがない。
外で買って食べているのだろうか。
私はそんなに遠くまで行けないから知らない。
知らないはずなのに。
なんだか少し悔しかった。
その事実が妙に胸に残った。
そして気付く。
省吾は一度もそんなことを話してくれなかった。
「あ……」
自分で違和感を覚える。
今──。
私は彼のことを名前で呼んだ。
けれど、その理由を考える前に白石が口を開いた。
「省吾さん、原稿は明日までですよ?」
その呼び方。
胸の奥が小さくざわつく。
「分かってます」
省吾は苦笑した。
白石も笑う。
距離が近い。
仕事仲間だからだろう。
分かっている。
なのに。
なんだか気に入らなかった。
「私、何考えてるの……」
変だ。
こんな気持ち知らない。
嫉妬。
そんな言葉が頭をよぎる。
私は慌てて打ち消した。
相手は生きている。
私は死んでいる。
比べること自体が馬鹿げている。
そのとき。
カタン。
小さな音がした。
ちゃぶ台の上に置かれていたペンが転がる。
「ん?」
省吾が顔を上げた。
「どうしました?」
「いや、今」
二人の視線がペンに向く。
けれど、それだけだった。
古い家だ。
少しくらい不思議なことは起きる。
そう思ったのかもしれない。
私も特に気にしなかった。
話はそのまま続いていく。
けれど私は内容が頭に入らなかった。
白石ばかり見ていた。
身体のラインが分かるニット。
綺麗な髪。
柔らかい笑顔。
私は自分の胸へ視線を落とした。
負けている。
完全に負けている。
若さなら勝っている。
でも色気では勝負にならない。
「なによ……」
思わず呟く。
すると胸の奥が妙にざわついた。
落ち着かない。
白石が笑うたび。
白石が省吾さんと呼ぶたび。
落ち着かない。
そして気付く。
さっきから私は何度も彼を名前で呼んでいた。
省吾。
そう思うたび胸の奥が少しだけ熱くなる。
白石が資料を広げた。
「ここなんですけど」
省吾も身を乗り出す。
二人の顔が近づく。
仕事だから。
そんなことは分かっている。
分かっているのに。
「ちょっと近いって……」
気付けば声が漏れていた。
その瞬間だった。
ガタンッ!
椅子が大きな音を立てた。
二人が同時に振り返る。
部屋が一気に静かになる。
「なに?」
白石が眉をひそめる。
「さあ」
省吾も首を傾げた。
私は動けなかった。
今の。
なんだったんだろう。
偶然。
そう思おうとした。
けれど嫌な予感が胸に広がる。
感情が渦を巻いていた。
苛立ちとも違う。
悲しみとも違う。
知らない感情。
制御できないほど大きくなった感情。
白石が笑う。
省吾が笑い返す。
胸が苦しい。
パキッ。
小さな音が響いた。
白石が持っていたプラスチックのスプーンが途中から折れていた。
「あれ?」
彼女が首を傾げる。
「大丈夫ですか?」
省吾も不思議そうに見る。
私は何も言えなかった。
嫌な予感が確信に変わり始めていた。
そして。
ドンッ!
玄関の扉が勢いよく開いた。
二人とも固まる。
私も固まる。
窓は閉まっている。
風なんてない。
誰も触っていない。
なのに扉だけが動いた。
重い沈黙が落ちる。
やがて省吾の視線がゆっくりこちらへ向いた。
その目を見て心臓が跳ねる。
違う。
違うの。
私は何もしていない。
そう言いたかった。
けれど言葉が出てこない。
その瞬間。
本棚の端から文庫本が一冊だけ滑り落ちた。
バサッ。
乾いた音が響く。
白石の顔が引きつった。
省吾も黙っている。
私も黙るしかなかった。
両手を見る。
触っていない。
何もしていない。
でも。
もし本当に私だとしたら。
感情が高ぶっただけでこんなことが起きるのだとしたら。
怖い。
白石も怖かっただろう。
省吾も怖かっただろう。
でも。
あの瞬間、この部屋で一番恐ろしかったのは。
たぶん私自身だった。
コメント
1件
第9話、読みました……。嫉妬って、こんなに醜くて苦しいものなんだなって思いました。特に「私は死んでいる」「比べること自体が馬鹿げている」って自分に言い聞かせるシーン、すごく切なかった。感情が高ぶると物が動いちゃうところも怖かったけど、何より自分が一番怖いって思う主人公の気持ちが痛いほど伝わってきました。この「知らない気持ち」、これからどうなっていくんでしょう……。