テラーノベル
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「ねえ、先生。せっかくの初夜だし乾杯しよう。なにが飲みたい?」
「あ……えっと…じゃあ、お茶で」
「なに言っているの。新婚初夜の乾杯なのに、せっかくだからお酒にしよう。カクテルでも飲む? ワインもあるよ」
「笑われるかもしれないけれど…私、お酒に弱くて…あまり飲まないようにしているの」
「そうなんだ」睦月君が妖艶に笑った。「先生、かわいいね」
「と、年上をからかわないで!」
もうっ。今日の出来事(イベント)が目白押しすぎて頭がパニックになっちゃう!
お父さんが借金作ってきたと思ったら、急に幼馴染と再会して、しかもその彼と当日に結婚までしちゃうなんて…今日いちにちの私の人生、急展開すぎるよ。
「先生、僕はもう子供じゃないんだ。あなたに結婚を申し込めるくらいの大人になったし、いい加減僕のことをひとりの大人の男として見て欲しいな」
「や、そうなんだけど、急展開に頭がついていかなくて……。だって、睦月君とは8年ぶりなんだよ? それを、急に、こんな……」
「そうだよね、ごめん。ちょっと急ぎすぎたかな。先生に8年ぶりに会えて嬉しかったからさ」
睦月君は相変わらずにこっと笑ってくれた。屈託のない幼い笑顔は、20歳の青年のものだ。でも、素敵な大人になったなぁ。
「とりあえず先生と結婚できたし、これで僕たち夫婦だよ。渡した指輪、サイズ大丈夫だった?」
「ええ。ピッタリよ」
図ったかのようにピッタリだ。7号サイズでちょうどいい。
「よかった。良く似合っているよ、先生」
「あ、うん。ありがとう」
「これからは、なんでも情報共有し合おうね。困ったことがあったらすぐに僕に知らせて? 解決できることがあれば力になるから」
「ありがとう。もう十分よ」
2000万円もの借金を肩代わりしてもらったんだから、しっかりその分働かなきゃ。
「そっか。先生はいつも謙虚だね。ちっとも変わらない」
「そうかな」
「うん。僕はそんな先生が昔から…っと、ま、昔話はこのくらいにして、とりあえず乾杯しない?」
「……そうね」
「口当たりの軽いシャンパンで乾杯しよう。アルコール度数低いから、先生でも大丈夫だよ」
「ありがとう。じゃあ、せっかく用意してくれたからもらうね」
「オーケー」
睦月君は慣れた手つきでシャンパンを開け、専用のグラスに半分ほど注いでくれた。綺麗な薄いゴールド色の液体がグラスの中でプチプチと小気味のいい音を立てて踊っている。
「先生、乾杯」
「乾杯」
薄いシャンパングラスを重ねて乾杯を交わした。飲むとほんのり甘みとアルコール成分の混じった味がした。口当たりはまろやかでとてもおいしかった。きっと高価なシャンパンなのだろう。今日のために用意してくれたのかな。
「とてもおいしいわ」
「よかった。ゆっくり飲もう。夜は長い」
夜どころか、これから先…いったいどうなるのだろう。睦月君との偽の婚姻生活は、不安な思いを抱えつつスタートした。
※
ピピピピピ ピピピピピ
(んん……なに……うるさいな……)
ピピピピピ ピピピピピ
(あれ……いつものアラームって、こんな音だっけ?)
重い瞼をなんとかこじ開けると、見慣れない天井が視界に入る。んー……ここどこ? 家じゃない……。
とりあえずアラーム止めなきゃ、と思って手を伸ばすと、指先があたたかいものに触れた。
(えっ……?)
不思議な感触に私の意識は一気に覚醒した。
(きゃぁぁぁぁぁぁ――――っ!!)
辛うじて叫び出すのは堪えたけれども、目の前の光景に驚愕した。
なんと私の目の前には、パジャマ姿の睦月君が横たわっていたから……!
(わたしっ、服っ、着てるよね!? なんでッ!!??)
ひとりでパニックになり、自分の状況を確かめる。……ほっ、服着てる!
でも見たことのないパジャマ!
どうしてこんなことになっているのよ――!?
昨日の記憶がすっぽり抜けている。
いやあぁ。なにがあったの?
思い出すのよ!
私は記憶の糸を必死にたどった。とりあえずその糸を手繰り寄せながら、そっとこの場を離れようと試みた。ここはどうやら昨日紹介してもらった睦月君の部屋だ。ベッドが大きい。
私、もしかして
こ こ に 寝 て た の か な ! ?(爆)
「先生、おはよう」
恐らく私がもそもそしていたからだろう。睦月君が目を覚まし、ふにゃっと笑った。まぁ~……8年のうちに、寝起きでもキラキラしているイケメンに育ったのねアナタ……。時々淋しいからってうちに泊まっていたあの頃は、ぜんぜんこんなイケメンじゃなくてふつうの小学生だったのに……どうしてこうなった?
「ご、ごごごめんなさいっ。もしかして、私、睦月君のベッド占領しちゃったの? なんか、お酒飲んでいたらぽやぽやしだして…気が付いたら今ここ状態なの」
いい気分になって寝落ちしたような記憶しかない。
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