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夜の片道切符
大衆居酒屋の暖簾をくぐると、夜の冷たい空気が火照った頬を撫でた。
「いや〜! 今日の唐揚げマジで美味かったな! なぁ翔太、ふっか、このあと二次会どうする? カラオケ行く!?」
ジョッキを片手にずっと騒いでいたはずの佐久間大介は、店を出てもなおエンジン全開だ。
その隣で、深澤辰哉は目尻にシワを寄せてふはふはと笑っている。
「佐久間、お前明日も早いんだろ? あんま調子乗っとくと明日死ぬぞ〜」
「大丈夫だって! ふっかこそ、さっきからあんま飲んでなくね? 体調悪い?」
「ん〜? 全然! 俺はふたりといるだけで楽しいの」
いつもの穏やかな深澤の笑顔。けれど、その隣を歩く渡辺翔太だけは気づいていた。深澤の歩幅が、普段よりほんの少しだけ狭くなっていることに。
「おい佐久間、ふっかを連れ回そうとすんな。俺はもう帰ってもいい……」
渡辺が言いかけた、その時だった。
「――大介くん!」
繁華街の人混みを縫って、どこか甘ったるい甲高い声が響いた。
振り返ると、少し離れた街灯の下で、小柄で可愛らしい女性がこちらに向かって小さく手を振っていた。
「……あ、やば」
さっきまで大はしゃぎしていた佐久間が、珍しくわかりやすく動揺して固まる。
「え、なに? 大介くん……?」
深澤がわざとらしく首をかしげると、渡辺もすかさず意地悪い笑みを浮かべた。
「おい佐久間。誰だよあのオンナノコ。説明しろよ」
「あー……いや、その……! ふたりに今日言おうと思ってたんだけどさ!」
佐久間は耳まで真っ赤にしながら、頭をガシガシと掻いた。
「俺、彼女できた! 付き合ってまだ1ヶ月なんだけど……今日たまたま近くで飲んでたらしくて、合流しようって話になってて……」
「まじで!? 佐久間が!? うわー、マジかよおめでとう!!」
深澤は心底嬉しそうに手を叩いて爆笑し、渡辺もニヤニヤしながら佐久間の肩をぽんと叩いた。
「なんだよ、言ってくれれば最初からそっち行かせたのに。ほら、待たせてんだから早く行ってやれよ」
「ごめんふたりとも! 今度はちゃんと紹介するから! タクシー代払うからさ!」
「いーからいーから! ほら、彼女待ってるぞ〜」
深澤に背中を押され、佐久間は「悪い! また連絡する!」と言い捨てて女性のもとへ走っていった。
彼女と手を繋ぎ、どこか照れくさそうに笑いながら街の光の中に消えていく佐久間の後ろ姿。
あんなに賑やかだった幼馴染の「3人」の空気は、一瞬にして砕け散り、静まり返った。
「……あいつ、ついに彼女かぁ」
深澤がぽつりと呟く。
#佐久間担
yuka🌃🪽💎ツンデレ中
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「……だな」
渡辺は、佐久間がいなくなった方向を見つめたまま短く返した。
幼馴染で、ずっと一緒で、永遠にこの関係が続くのだとどこかで思っていた。でも、時は進んでいく。佐久間には佐久間の未来ができて、きっとこれから「3人」で集まる夜は減っていくのだ。
そして――。
「……翔太」
「ん?」
渡辺が隣を振り向いた瞬間、呼吸が止まった。
街灯の光に照らされた深澤の顔から、さっきまでの笑顔が綺麗に消えていた。
ただ静かに、街の雑踏を見つめる横顔。その瞳はどこまでも透き通っていて、まるでこの世界から自分ひとりだけが取り残されていくのを、最初から受け入れているかのような悲しい美しさがあった。
「佐久間、幸せになるといいな」
「……お前、なんでそんな寂しそうな顔してんだよ」
渡辺の声が、夜風に混ざって震えた。
「え? 俺、そんな顔してた?」
深澤はハッとしたように振り返ると、慌てていつものへらへらとした笑みを貼り付けた。
でも、その笑顔の下にある痛みに、渡辺はもう気づいてしまっていた。
佐久間が進み始めた未来の光が眩しければ眩しいほど、自分たちの足元に落ちる影は、どこまでも深くて暗かった。
コメント
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寺島あおいです🌷 第2話、読みました。 冒頭の賑やかな空気から、佐久間が彼女のもとへ走り去った後の静けさ……そのギャップにぐっと心を掴まれました。特に、渡辺が気づく深澤の「寂しそうな横顔」の描写が美しくて切なかったです。あの、普段はへらへらしてる人がふと見せる影の部分、「3人」という関係の脆さと温かさが、本当に繊細に描かれていて。続きが気になります。素敵な作品をありがとうございます!