第3話「普通のふり」
朝。
光がカーテンの隙間から差し込んでいる。
昨日泣いて、床で寝たままの体をゆっくり起こす。
コンビニの制服に着替えて、鏡の前で微笑む。
「……いってきます」
ウサちゃんに小さく声をかけると、何も言わずに頷いたような気がした。
でも、それはもう驚くことじゃなかった。
聞こえる声も、まるで昔からそこにあったように、自然だった。
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「ありがとうございましたー」
いつもの客、いつものレジ打ち、いつもの返事。
愛美は今日も、ちゃんと笑ってる。
でも、その笑顔の裏で、
ずっとウサちゃんの声が響いていた。
『きょうもがんばったね』
『あのひと、イヤな目してた』
『もう、むりしなくていいよ』
ひとりきりの休憩室。
制服の襟元をぎゅっと握る。
「……ほんとに、誰も気づかないんだよ。
こんなに壊れかけてるのに」
ウサちゃんの声は、やさしい。
でもそのやさしさが、現実よりもずっとリアルで――
帰りたくなるのは、家じゃなくて、あの声の方だった。
コメント
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やべぇ、好きだ