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「はは、ダーメ。ごめんね、その気にならない」
サンタ女の肩に手を置いて、痛くない程度に力を込めた。
そして腕の分だけ相手を遠ざけ距離を作る。
今もなお揺れる胸元は魅惑的だし、そこに逃げれば楽だろう。けれどその先に、なりたい自分など存在しない。
「えー、何それ〜! 今絶対なってたじゃん〜! 余裕で硬くなってたじゃん、ゴリゴリしたじゃん!」
「や、まだそこまで……てか言わないんだよ、こんなとこで。女の子でしょ、最中に相手煽る程度に使いなよ」
(てか幻聴か知らないけど、立花の声聞こえた時点で萎えてるわ)
カウンターに置いていたジャケットを掴んで、手に持った。
「……やっぱ彼女いるんじゃん? いてもいいよ、バレなきゃいいじゃん。クリスマスに会えなくてお兄さんがこんなとこ来ちゃうような相手なんでしょ? 人妻〜?」
(人妻とか……やめて……)
げんなりと肩を落とした。
想像力ばかりが豊かになっていく坪井の頭の中は、すぐに自滅に導く映像を流しだすから、かなりのダメージだ。
「……違う、好きな子がいるだけ。でもあんたは可愛いと思うよ。だからほら、向こうにいるの俺の連れ。女の子探してるから行っといでよ」
ステージ近くにいる何人かの友人を指差したが。
「別にお兄さんに好きな子いてもいいし。意外と真面目で彼女としかエッチしたくない系なら、彼女にしてよ」
坪井はポカンと口を開けたままサンタ女を見下ろした。
この強さはどこからくるのだろう。今の自分に少し分けて欲しい……と、こっそり思ってから、ガシガシと髪を掻きむしる。
「好きな子しか彼女にしないことにしたから、最近ね。だから無理」
「えー! なにそれ最高につまんない! だったらこんなとこ来るなって。今日の客層大体こんなだよ、空気読みなよー」
怒るサンタ女を前に、まあごもっともな意見で、と笑顔を貼り付けた。
「だね。当分来るのやめるよ、ごめん、許して。いい男捕まるように願っといたげるから」
優しい声をこれでもか、と出して。「そんなの願われなくても捕まえるしー!」と、明らかな怒気を含んだ声に、眉を下げながら笑って答えた坪井。
サンタ女がフロアの方へと去った後。
隣からチクチク視線を感じる。
見れば、1人きりの隼人がこちらをどんよりした空気で睨みつけている。煌びやかなライトに照らされているはずだが、醸し出す空気自体がどうにも暗い。本当に暗い。
「……え、なんで? お前もサンタ女追い払ったの?」
不思議そうに聞いた坪井をキッと睨みつけて隼人が叫ぶ。
「あの子ら2人連れだろ! お前がそっちの子追い払った時点で追いかけてったわ! 女の友情ってそこんとこ男と違うからな!?」
「どーゆうこと。 4人でしたかったの?」
意味がわからないな、と小首傾げた。
「アホかよ! 4Pやら乱交やらなぁ、そんな話してんじゃねーよ! お前は相手見つけたら俺なんか置いていく薄情な奴だからわかんねぇだろうけど!」
両手で顔を覆って大袈裟に泣き真似してくる隼人をチラリと見たが、変にそこに触れると話が長くなりそうなので目を逸らして言う。
「あ、そっか。ごめん」
(友情に男と女で違いがあるのかはさっぱりわかんないけど、悪いことしたな)
素直に謝った為か、隼人の声は心配そうなものに変化した。
「そんなことより好きな子って何だよ、お前、女を好きになれんのか」
「はあ?」
他人の性癖や恋愛対象は自由だし、口を出す気はもちろんないが。
「……俺別に、男に興味持ったことないけど」
真顔で答えた坪井を隼人は「ちっげーよ!アホか!」と理不尽に怒鳴りつける。忘れてたけど隼人は酔うと声がでかい。
「じゃあ、なに」
聞きながら手にしていたジャケットを羽織り、カクテルのグラスを手に持った。
「中学の頃モメてからお前は女が嫌いだろ」
口に含んだ酒が、変なとこに入ってゲホゲホと少し咽せる。
「……は?」
口を拭いながら、何を言われたのか理解できない坪井は目を見開き隼人を眺めた。
「でも嫌なこと忘れさせてくれんのは女とのセックスだろ、お前……女は嫌いなのに女に甘えたいんだ、昔からそーゆー奴だ」
「いや、待て待て。俺、好きだけど、女の子」