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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「透子さん、こんばんは」

振り向くと、ミヤマさんが居た。私の部屋に、また窓が開いている。庭木には1羽のカラスが止まり、羽を広げている。カァ、と小さく鳴いた。

今日も来た・・・。

「毎夜、伺わせて頂きますよ。透子さんの事を見ていますので」

グラデーションの眼鏡の中で、赤い斑点の三白眼が光る。

「叔父君のモデルを務めていらっしゃるのですね。大分仲がよろしい様で」

何でも知ってる・・・。

「ずっと、見ていますので」

恐怖を感じた。自然と体に力が入る。

「しかし、現れませんね。アレは・・・。私達が側に居るからとは言え、放置が過ぎる。ねぇ、透子さんもそう思いませんか?」

「・・・」

何を言っているのか分からない。私は何も答えられなかった。ますます体に力が入る。

そんな私の様子を見て、ミヤマさんは何やら納得した表情を見せた。

「あーぁ、成る程・・・」

そう言って、私に近付いて来た。固まる私の顔を見て視線を合わせて、鼻と鼻がぶつかりそうになると、フッと横にズレ、私の肩の向こう側、背中を覗き込む様にする。

「羽を、お持ちだったんですね。アレに似て、小さいので気が付かなかった」

窓の外から、カァ、という声が響いた。

「おっと、近いと妻が怒っています」

ミヤマさんは、そう言いながら後ろに下がる。

「そうですか、そうですか。ではその羽、震わせて見せましょう」

その時、私のスマホが鳴った。

「宮本礼央氏からラブコールですね。お邪魔でしょう。退散致します」

バサバサ、と窓の外でカラスが羽ばたく。そちらに気を取られて、再び部屋の中を見ると、ミヤマさんは消えていた。

体から一気に力が抜ける。

私はスマホを手に取り、通話に出た。

「もしもし、透子ちゃん?」

先輩の明るい声が耳に届く。一気に安心に包まれた。

「礼央先輩・・・はぁ、はぁ」

気付かないうちに、呼吸を止めてしまっていたみたいだ。電話口で息が切れてしまう。

「えっ、何?・・・エロいけど」

「やだバカ!」

「えっ、ゴメンナサイ!でもどしたの?走って来た?電話平気?」

「大丈夫です。ちょっと呼吸困難なだけです」

先輩の声を聞くだけで安心する。一瞬で気持ちが明るくなる。明るくなって、嫌な事なんて全部忘れてしまう。

「明日学校で逢えるのに、待てなくて電話しちゃった。声が聞きたくてさー」

「私も、先輩の声が聞けて嬉しいですよ」

そのまま、日付が変わる迄2人で話した。目の前に居ないのに、声を聞くだけで、顔が赤らんだり、胸が締め付けられたりする。

その夜は、いかに自分が先輩の事を好きになってしまったのかを思い知らされる夜になった。


「行って来ます」

少し寝不足の目を擦りながら家を出た。すぐに斜向かいの家のドアが開き、そこから雅彦が出てくる。

「あ、雅彦おはよう」

「おはよう」

私が挨拶をすると、すぐに返してきた。

「透子、目の下にクマがある。寝不足?」

すぐにバレる。そんなに分かりやすいかな?

私は手鏡を出して顔を見た。少し黒ずんでいる程度で、そんなに酷くは見えないのだが・・・。

「誰かと長電話でもしてたの?」

なんで・・・。

「・・・図星か。相変わらず顔に出過ぎだ」

苦笑いをされてしまった。悔しい・・・。

「実はね、私、宮本先輩と付き合い始めたの。それで昨日の夜、遅くまで電話で話しちゃって」

隠す必要も感じなかったので、私はそのまま伝えた。

「・・・はぁ!?」

雅彦にしては大きなリアクションだ。こっちがビックリする。

「何で?何で付き合ったの?宮本って、あの宮本?」

嘘だろ、と呟いている。

私は、ムッとしてしまった。

「何でそんなに驚くの?」

「だってあんなセクハラばっかりな・・・あっ、いや失礼。でも・・・ゴメン」

言い訳しようとして最後に謝る。フォローのしようがないって事?もう、ホント失礼。

「雅彦嫌い。先行く」

私はズンズン先に進んだ。

「透子ごめん。悪気は無いんだ」

平謝りで付いてくる。

「透子、宮本先輩の事嫌がってるように見えたから。どうして付き合う事になったの?教えてよ」

教えるのも嫌だったけど、食い下がってくるので仕方なく教えてあげた。

「・・・それで、付き合う事になったの」

遊園地の経緯を簡単に説明すると、雅彦は呆れた様な顔をする。

「透子・・・簡単すぎ・・・」

「あ、酷い。喧嘩売ってるの?」

幼馴染だからって、言いたい放題すぎる。

「そんなもの売らないよ。けどさ・・・」

雅彦がそこまで言った時、校門前に先輩の姿を見付けた。先輩は自転車通学だから、一度駐輪場に寄ってから校門に来る。

「透子ちゃんー」

名前を呼びながら私の所に来てくれた。

「おはよう!」

優しい声の挨拶。一日間が開いただけなのに、再会が嬉しい。

「おはようございます、礼央先輩」

雅彦との会話での怒りが引いていく。不思議だ。

「何?いつも2人で登校してんの?」

先輩は私と雅彦を交互に指差して、ちょっと不機嫌そう。

「家が近いので、いつも一緒になっちゃうんですよ」

私がそう説明すると「ふぅん」と言って、先輩は私と雅彦の間に入った。

「一緒に行こ」

そう言って、私と手を繋いで昇降口へと向かう。当然の様に恋人繋ぎ。私は顔が火照るのを感じた。

「礼央先輩、学校でくっつくの恥ずかしいですよ」

俯いてそう言う私に、先輩は

「見せびらかしてるの。透子ちゃんが俺の彼女だって」

そう言って笑いかけてくる。

「あれ?ナニ礼央、彼女出来たの?」

「おう、イイだろ」

「へー、可愛いじゃん。上手い事やったなー」

「だろー」

先輩の友達だろうか、沢山の人に話しかけられて、彼女だと紹介されていった。

「ちゃんと言っとかないとさ、手出されたら大変でしょ?」

「心配し過ぎですよ。誰も手なんて・・・」

「出すよ。こんなに可愛いんだから」

その後、先輩は私を教室まで送ってくれた。別れ際に頭を撫でて行く。

・・・何だろう、このこそばゆい気持ちは・・・。

「・・・透子・・・」

赤い顔でボンヤリしていると、後から声を掛けられた。

環だった。

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